ホーム > 書籍詳細:日本語教のすすめ

日本語教のすすめ

鈴木孝夫/著

880円(税込)

発売日:2009/10/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

面白い。深い。美しい。日本語は世界に冠たる大言語である。五十年の集大成、究極の日本語講座。

「日本語は英語に比べて未熟で非論理的な劣等言語である」――こんな自虐的な意見に耳を傾けてはいけない。われらが母語、日本語は世界に誇る大言語なのだ。「日本語はテレビ型言語」「人称の本質とは何か」「天狗の鼻を“長い”ではなく“高い”と表現する理由」等々、言語社会学の巨匠が半世紀にわたる研究の成果を惜しげもなく披露。読むほどに、その知られざる奥深さ、面白さが伝わってくる究極の日本語講座。

目次
第一章 日本語は誤解されている
一 日本語ってどんな言語
日本語は大大言語/日本語放棄論の系譜/西欧至上主義からの解放
二 漢字の読みはなぜややこしいのか
音読みと訓読み/なぜ二重読みが生まれたのか/二重読みに良い点はないのか/漢字からなる専門語は分かりやすい/一般人に理解しづらい英語の専門語/同一概念の二重音声化/ヤーヌス的双面性/複雑な鶴のほうが覚えやすい/漢字の訓読みを止めると……
三 ラジオ型言語とテレビ型言語(1)
世界には文字の読めない人が多い/音声だけが言語の全てである/日本語では文字も言語の一部/日本語には同音語がとても多い/同音でも文字表記が違えば大丈夫/日本人は同音語が大好き
四 ラジオ型言語とテレビ型言語(2)
音声面が貧弱な日本語/音節構造の比較/和語の動詞は抽象的/和語の形容詞も抽象的/目と耳の能力の違い
第二章 言語が違えば文化も変わる
一 虹にはいくつの色があるのか
本当に七色?/英語では六色だった/民衆レベルでは……/学校では何と教えている?/ヨーロッパの他の言語では/科学的で客観的な事実とは/「虹は七色」が常識でなくなる?
二 太陽は世界のどこでも赤いのか
アメリカでは太陽は黄色/リンゴは赤い、でもフランスでは?/orangeはオレンジ色か/赤靴は赤くない/進めの信号は青か緑か
三 蛾と鯨が同じである理由
蝶と蛾は同じ虫? 違う虫?/なぜこの事実を知らなかったのか……/母語の見方を外れることは至難/思い込みから自由になれるか/胡蝶蘭命名の由来/鯨には蛾を思わせる部分がある
四 文化によって異なる羞恥心
仕切り壁も扉もない便所に驚く/女同士は真っ裸で平気/乳房はいつから恥部になったのか/靴屋に靴べらがない/素足を恥と考える文化/中国人にとっては足が催淫帯/文化人類学的に先進国を見直そう
第三章 言葉に秘められた奥深い世界
一 天狗の鼻は「長い」ではなく「高い」
鼻が問題になるとき/〈高い、低い〉は日本語だけ?/では、高い鼻と長い鼻の違いとは/西洋人の鼻は〈高く〉ない?
二 形容詞の中身はなに?
一体、なにを形容しているのか/何も言わない形容詞/〈大きい〉と〈小さい〉にも問題が/隠れた比較/縦と横の比率が問題/〈寒い〉と〈冷たい〉の区別は?
三 江戸時代、「日本酒」はなかった
日本酒vs.洋酒/逆転勝ちと逆転負け/旧制大学と新制大学/旧姓と新姓/急行と鈍行/新語の辿る運命の違い/二つの文明が併存する
第四章 日本語に人称代名詞は存在しない
一 身内の呼び方の方程式
自分の子供を何と呼ぶ?/家族内で使う言葉とは/相手に対して自分を表す言葉/職場や学校で使うのは/広く一般の社会的場面で
二 日本語の人称代名詞を巡る問題
西洋の言語と違う日本語/人称代名詞はない/影が薄い代名詞/自称詞、対称詞、他称詞と呼ぶべき/日本語には三人称しかない/テニス型とスカッシュ型/黙ってひとの部屋に入らないでよ
三 指示語と自己中心語のしくみ
特定の動作を必要とする言葉/指さし行為とはどんな動作か/方向指示と文脈指示の違い/人称代名詞の二種の指示性/自己中心語とはどんな言葉か/親族用語の自己中心性/自己中心語の他者中心的用法/家族の最年少者が原点とされる
四 「人称」の本質は何か
人称ってなんだろう?/相手に一人称を使う場合/相手に三人称を使う場合/自分を三人称で表す/独り言における人称/心的態度の表現
第五章 日本語に対する考えを改めよう
一 日本人のもつ相手不在の外国語観
言葉で他者を動かす/対外言語活動の弱い要因/国内改革のための手段/内向きか外向きか
二 日本語教のすすめ
世界中に日本語の読める人を/鎖国状態を打破すべき/日本語熱が高まらない理由/日本は大損をしている/日本語読書人口の増加策
注および初出文献一覧
あとがき

書誌情報

読み仮名 ニホンゴキョウノススメ
シリーズ名 新潮新書
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-610333-9
C-CODE 0281
整理番号 333
ジャンル 言語学
定価 880円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/05/25

蘊蓄倉庫

天狗の鼻は「長い」ではなく「高い」

 天狗の鼻はなぜ「長い」とは言わず、「高い」と表現するのでしょうか。考えてみればおかしな話です。恐らく世界中で鼻を「高い」と言うのは日本だけでしょう。もっとも例えば、ゾウの鼻は「高い」とは言わず「長い」と表現します。それはなぜか……。
 答えは、日本人が顔の器官の内でどこに重きを置いているかにあります。「高い」という形容詞は、昔から高い山、高い樹木など信仰の対象、あるいは権力、威光を表すプラスの意味を持つ言葉。鼻はそれだけ美的価値観が置かれたわけです。超人的な力を持つ天狗も、人々に尊敬と畏怖を呼び起こすために鼻は高くなければなりませんでした。
 ところで西洋では、人の顔のどこを美しいかと思うかというと、どうやら鼻よりも顎に目がいくようです。「決断に富んだ、意志の強い、攻撃的な、強い、弱い」など顎に対する形容詞は「長い、大きい」ぐらいしかない鼻に比べて圧倒的に多く見られます。ちなみに「もしクレオパトラの鼻がもう少し低かったら……」という有名なパスカルの言葉は、原文では「短かったら」となっているのを日本流に訳したものなのだとか。
掲載:2009年10月23日

著者プロフィール

鈴木孝夫

スズキ・タカオ

慶応義塾大学名誉教授。1926年、東京生。同大文学部英文科卒。カナダ・マギル大学イスラム研究所員、イリノイ大学、イェール大学訪問教授、ケンブリッジ大学(エマヌエル、ダウニング両校)訪問フェローを歴任。専門は言語社会学。著書に『閉された言語・日本語の世界』をはじめ、『ことばと文化』『日本語と外国語』『武器としてのことば』『日本人はなぜ日本を愛せないのか』『日本語教のすすめ』『人にはどれだけの物が必要か』『日本の感性が世界を変える』など多数。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

鈴木孝夫
登録
言語学
登録

書籍の分類