日本の宿命
792円(税込)
発売日:2013/01/17
- 新書
- 電子書籍あり
自由と民意、平等と権利、経済発展とヒューマニズム……偽善栄えて、国滅ぶ。稀代の思想家による反・民主主義論。
何かがおかしい。「嫌な感じ」がどうにも消えない。カリスマが現れても新政府ができても高邁な理想を掲げられても、絶望的いらだちが治まらないのは、なぜなのか? 橋下現象、政権交代、国境騒乱等混沌の真因はどこにあるのか? 維新、大戦、高度成長期等の転機から自由、平等、民主、経済成長、ヒューマニズムの追求こそが幸福であるという、この国が負わされた近代主義を徹底的に懐疑する。稀代の思想家からの鋭い一撃。
書誌情報
読み仮名 | ニホンノシュクメイ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
雑誌から生まれた本 | 新潮45から生まれた本 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610502-9 |
C-CODE | 0210 |
整理番号 | 502 |
ジャンル | 社会学、ノンフィクション |
定価 | 792円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2013/07/26 |
蘊蓄倉庫
古代ローマ帝国末期には、政治は見識をもったスケールの大きなものではなくなり、大衆に、一方で「パン」を与えて満足させ、他方では「サーカス」を出し物にして不満のはけ口にしていました。
それは今日でも同様で、一方でわかりやすく「国民の求めるもの」を与え、他方では、政治そのものを出し物にして適度に国民にバッシングさせておいて、ガス抜きをしています。これはしばしば政治の大衆化、政治の堕落を指していわれることです。ローマの昔から今日までさして変わらないのです。
「パン」にはアンパンもあれば食パンもあり、調理法も味付けも様々です。
そこで、パンの各種専門家も出てきます。サーカスの方は、メディアが絡んで「ポピュリズム」を演出します。曲芸や球蹴りをする人などが現れます。
こうして「パンとサーカス」の政治は、今日では、特定の政策通である政治家とポピュリスト政治家が結びついて行う「専門家とポピュリズム」の政治になるのです。このテーマは、第二章に詳述されています。
担当編集者のひとこと
「幸福」のパラドックス
自民党新政権、経済再生、教育再生……今年の初めから妙に明るいニュースが報じられています。しかし、本当は、どことなく不信な思い、不安など嫌な感じを抱いている人も多いでしょう。この国に漂っている不穏で不快な真因は何なのでしょうか。
〈東日本大震災から一年半以上たって、何かが大きく変わったという印象がまったくありません。われわれの生き方やまた死生観、自然観に大きな影響を与えてもよさそうなのに、政治現象を始め、何かが変わったということはほとんどありません。……つまり……「精神のあり方」の軸が定まらないところに今の混迷の主因があるように思えるのです〉 と佐伯氏は本書で述べています。
確かに精神の軸や価値観は明らかではないでしょう。
日本の近代化は、先取の思想だと信奉し、刻苦勉励の上、「民主主義」という理想の実現を目指してきました。
しかし、そのプロセスは、本当にこの国の血肉と化しているのか、その根源的な部分を佐伯氏は懐疑し、深く掘り下げています。
今や、〈「幸福であろう」と求めれば求めるほど、不幸になっていく〉という、このパラドックスはどこから来ているのでしょうか。
また、日本人の「精神の軸」はどこにあるのでしょうか?
時事的な出来事や歴史的経緯などを踏まえ、複合的な視点からこの国を捉えた時、まぎれもない「この国の姿」が見えてきます。
本書は、稀代の社会思想家である佐伯氏による至高の論考です。
『反・幸福論』とともにぜひご一読ください。
2013/01/25
著者プロフィール
佐伯啓思
サエキ・ケイシ
1949(昭和24)年、奈良県生まれ。社会思想家。京都大学名誉教授。京都大学こころの未来研究センター特任教授。東京大学経済学部卒。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。2007年正論大賞。『隠された思考』(サントリー学芸賞)『反・幸福論』『さらば、資本主義』『反・民主主義論』『経済成長主義への訣別』『死と生』『近代の虚妄』など著作多数。雑誌「ひらく」を監修。