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武士道は愛することと見つけたり。牧師にして小野派一刀流第17代宗家が説く、混迷を生きる心得。

武士道とキリスト教

笹森建美/著

734円(税込)

本の仕様

発売日:2013/01/17

読み仮名 ブシドウトキリストキョウ
シリーズ名 新潮新書
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 188ページ
ISBN 978-4-10-610505-0
C-CODE 0221
整理番号 505
ジャンル 哲学・思想
定価 734円
電子書籍 価格 648円
電子書籍 配信開始日 2013/07/26

武士の切腹は宣教師の殉教に通じる。「義」は「愛」に呼応する――武士道とキリスト教の根幹には、驚くべき共通点があった。牧師である著者は、日本屈指の剣術家というもうひとつの顔を持つ。礼拝が終わると教会は武道場に早変わり、将軍家指南役を務めた小野派一刀流・第十七代宗家の稽古が始まる。「格好だけ良いのは本物でない」「魂とは私という人格である」……人の生死を問う二つの「道」を究めて得た、いま日本人に必要な智恵。

著者プロフィール

笹森建美 ササモリ・タケミ

1933(昭和8)年青森県生まれ。牧師。小野派一刀流第17代宗家。大長刀直元流、居合神無想林崎流宗家も受け継ぎ、日本古武道協会常任理事を務める。早稲田大学哲学科、米国デューク大学大学院神学部卒業。拠点は駒場エデン教会。著書に『神への道・神からの道』などがある。

目次

はじめに
一 「武」とは戦いを止めること
生まれるのが遅すぎた武士たち
武士道の本質とは何か
スパイを改心させた祈り
次々に洗礼を望む若き士族たち
クラーク博士のもうひとつの「置き土産」
「襲撃」に遭った新渡戸と内村
友のために真に哀しむ
二 勇気と自己犠牲の先にあるもの
日本ではいかにして道徳を授けるか
「教会も、牧師もいらない」
武士道にキリスト教を接ぎ木する
最上の信者はどの国にいるか
三 どんな相手も倒す剣術を求めて
極意「切落〈きりおとし〉」はどんな技か
何者をも弾き飛ばす「力」となる
一七〇まで学び、一に戻る
目標は「盗み見厳禁」の巻物
将軍家の剣術指南役に就いて
次の家元は「お殿様」に
“形無し”剣術の大流行
四 武士道とキリスト教が同居した心
本物の侍が持ち帰った信仰
密かに手に入れた漢訳聖書
宣教師イングとリンゴの縁
改宗は髷を切るより辛かった
五 格好だけ良いのは本物でない
勝負の場での優しさ
軍部に目をつけられた青山学院院長
「あの十字架は僕のじゃない」
剣道廃止という悪夢
東奥義塾で出会ったA君
牧師にしかできないことは何か
「お前は何をしているのか」の合図
駒場エデン教会の誕生
六 キリスト教は「切腹」を認めるか、武士道に「愛」はあるか
日本人信者が増えない三つの理由
スティーブ・ジョブズは禅的か
死んで敵を仕留める
「切腹」は「殉死」と違うのか
死んで花実が咲いている
聖書が伝える四種類の愛
「隣人」とは一体誰のことか
武士が知らない最高の愛
「つるぎ」を手にしたイエス
穏やかに上手に負けられる人
七 武士道が教えない「私」に向き合う
魂とは「私という人格」である
極楽と「神の国」は別のもの
「おじいさんの魂が苦しんでいます」に悩む遺族
不完全さを「あるもの」とする
「私にはキョウがない」と打ち明けた女子学生
一神教は戦争の元なのか
パワースポット巡りの都合よさ
教会兼道場が守っていくもの
おわりに
主要参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

波 2013年2月号より 武道場に早変わりする教会から

笹森建美

週刊「キリスト新聞」の一面で、私は『前田敦子はキリストを超えた』という本が刊行されたのを知りました。私が牧師を務める駒場エデン教会へ、信者の人が持ってきてくれたのです。
この本は人気アイドルグループ、AKB48を若手の社会学者が分析したものです。その中心メンバーがファン投票第一位に返り咲いたとき、「私のことを嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないで」と訴えた利他性に注目して、その“救い主”としての役割をキリストのそれと比べたわけです。ただ私は、違和感を禁じ得ませんでした。
彼女が救おうとしたのは、自分の所属グループです。そこに商業的な意図がないとは言い切れません。対してキリストは世の人々すべてを思い、神様の御心が成るようにと祈って処刑されました。
もちろん、キリストやキリスト教が比喩として用いられるのはこれが初めてではありません。ただ、社会学者が神と芸能人を一緒にする感覚に、信仰への理解はまだこの程度なのか、もっと努めていかねばと痛感させられたのも事実です。
しかし一般的には、キリスト教とアイドルよりも、キリスト教と武士道を並べてみることのほうが、より意外と受け取られるかもしれません。牧師である私は、戦国時代から続く古流剣術「小野派一刀流」の第十七代宗家でもあります。一刀流は剣豪・伊藤一刀斎が考案した剣術で、その極意は「とにかく前へ出て、一太刀で相手を制する」というもの。礼拝が終われば机や椅子が片付けられて、教会は門下生が剣を振るう道場に早変わりします。指導するのは稽古着に着替えた私です。
こうした活動に、「武道とキリスト教は矛盾するのでは」とお尋ねを受けることもしょっちゅうでした。たしかに一見、相反するもののようにすら思われるでしょう。ただし共に、人の生き死にを真摯に問う「道」なのです。その根幹をみていくと、例えば武士の切腹は宣教師の殉死と通じています。『葉隠』によると、鎌倉時代末期の武将、新田義貞は自分の首を切って埋め、その上に横たわって死を遂げたとされています。その壮絶さに敵は驚愕、追い払われてしまったといいますが、これにそっくりの逸話がキリスト教に伝わっているのです。ふたつの話が我々に教えるのは、どんな武力よりも死が相手に勝つということ。実はキリスト教は自殺は禁じていても、殉教は禁じられていません。そしてキリスト自身が落命していなければ、その愛が二千年にわたり語り継がれ、人々の救いになることもなかったのではないでしょうか。武士道でもキリスト教でも、「死んで花実が咲いている」のです。ほかにも「義」と「愛」など、どんな呼応があるのかは、ぜひ本書『武士道とキリスト教』を開いてみて下さい。
教会には信者以外にも、悩みを抱えた方々がやってきます。ふたつの「道」を知る心得こそが、混迷を生ききるのに役立つと信じてやみません。

(ささもり・たけみ 牧師、小野派一刀流第十七代宗家)

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