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史論の復権

與那覇潤/著

814円(税込)

発売日:2013/11/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

気鋭の歴史研究者、白熱の七番勝負! 中野剛志、中谷巌、原武史、大塚英志、片山杜秀、春日太一、屋敷陽太郎。

学問的な歴史研究の成果を踏まえつつ、現在の位置を捉えなおす──。そんな「史論」の試みを復権させるべく、「中国化」というオリジナルな概念で日本史を捉えなおした気鋭の若手研究者が、七人の異分野の知に挑む。日本企業の生き残り戦略から橋下徹大阪市長のパフォーマンス、小津映画や大河ドラマの描く日本像まで、歴史の知見を借りれば、旧知の事実がまったく違った意味を帯びていく。知的刺激に満ちた論考。

目次
まえがき
第1章|日本に「維新」は必要なのか|政治学との対話 中野剛志
第2章|企業が受け継ぐ「江戸時代」の遺産|経済学との対話 中谷巌
第3章|ソ連化した団地とアメリカ化する郊外|戦後史との対話 原武史
第4章|中国化する日本/近代化できない日本|民俗学との対話 大塚英志
第5章|小津安二郎が「作為」した日本|昭和史との対話 片山杜秀
第6章|国民の「時代劇」はよみがえるか|映画史との対話 春日太一
第7章|「太閤記」の夢よ、いまいずこに|大河ドラマとの対話 屋敷陽太郎
あとがき
初出一覧

書誌情報

読み仮名 シロンノフッケン
シリーズ名 新潮新書
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-610546-3
C-CODE 0220
整理番号 546
ジャンル 日本史
定価 814円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2014/05/23

インタビュー/対談/エッセイ

波 2013年12月号より 人間力より「変わる力」を

與那覇潤

なんでも入試のやり方を変えて教育を「再生」するとかで、近日また大学論が喧しい。ペーパーテストで学力だけを測るのではなく、面接重視で「人間力」をみるべきだという昔ながらの話のようだが、しかし後者の内実が結局なんなのか、具体的に教えてくれる人はほとんどいない。
私自身が、どんな力を持った受験者に入学してほしいですかと問われたなら、迷うことなく、「驚く力」であり「変わる力」だと答える。学問というレンズを使って眺めてみると、目の前の景色がこれまでとまったく違って見えることに、まずは驚いてほしい。そうして新しい世界を知った自分を肯定して、それ以前の価値観や思い込みを相対化して、変わっていってほしい。たとえば「『信長の野望』以来、ずっと戦国時代が好きでして」よりは、「先生の授業に出て、この時代をもっと知りたくなりました」と言われた方が、教え甲斐があるという教員はきっと多いと思う。
「人物評価」に際して測るべきものがそういう力だとすると、面接でそれが「高い人」を見抜くのは難しいというか、不可能である。誰がこれから大きく「変わるか」を初対面で言い当てられる占い師のような大学教授がいるなら、こちらがお目にかかりたい。常人にできるのはむしろ「低い人」をはねることくらいで、彼らには「対話」がなりたたないという共通の特徴がある。
言うまでもなく、対話の愉しみはおしゃべりによって潰せた時間の量ではなくて、自分と相手とのあいだに生じた変化の質に比例する。何時間を費やしても相手になんの変化も起こせなかったと感じたらむなしいだけだし、逆にわずか二言三言のやりとりでも、人生の転機として覚えているという経験のある人は、少なくないはずだ。
面接という形で対話を試験化することで生じるのは、この「変わる力」の衰弱である。明らかに口にする本人が信じていなそうな「模範解答」を反復するロボットの群れから、もはや「人間」の範疇から外れて戻らなそうな存在をはじくのが、残念ながらいまも多くの面接官の仕事だろう。近年の大学では入学後も彼らを驚きに触れさせたくないのか、「シラバスどおりの授業」の実施が妙に推奨されるのだが、目の前の教員との対話よりもシラバスの文言の再現を期待して、始終うつむき沈黙したまま教室に出てくる無表情な学生の「人間力」は、どうなっているのだろうか。
これまで「近代化」や「西洋化」だと思っていたものが「中国化」に見えてくるという形で、「驚く力」を育てようとした大学での講義録を『中国化する日本』(文藝春秋)として刊行したところ、多くの方と対話する機会を得た。池田信夫氏との『「日本史」の終わり』(PHP研究所)、東島誠氏との『日本の起源』(太田出版)に続いて、今度は7名の方々との共著として3冊目の対論集を新潮新書にする。それを通じて著者が「変わる」過程をオープンに示すことが、いま真に求められる「人物本位」の教育だと信ずるがゆえである。

(よなは・じゅん 愛知県立大学准教授)

蘊蓄倉庫

大河ドラマの歴史考証

『史論の復権』の中には、大河ドラマプロデューサー・屋敷陽太郎さんと與那覇さんの対談が収録されています。それを読むと、「ドラマ」といいながら、大河ドラマの時代考証が非常に徹底していることがわかります。制作に際しては、主要登場人物の行動を1日単位で把握、その事実の出典がどこにあるかまでも制作スタッフで共有。その事実を踏まえたうえで、「事実を新しく解釈する」「わからない部分に創作を盛る」という形で、ドラマを作っていくそうです。本書には、屋敷さんが「新選組!」制作の際に作った主要人物の「行動表」の写真も掲載されています。
掲載:2013年11月25日

担当編集者のひとこと

豊穣な言葉の応酬

 與那覇潤さんに初めてお会いしたのは、2011年11月に『中国化する日本』が刊行されたすぐ後でしたから、もう2年ほど前になります。與那覇さんの実質的な論壇デビュー作となるこの本があまりにも面白かったので、新潮新書でも何か書いてもらえないだろうか、と考えてのことでした。
 勤務先にメールを入れるとすぐに返信があり、都内のホテルでお会いして、しばらくお話をしました。「いつかは何か書いてください」と、行方の定かならぬお願いをして別れたのですが、その後、そんな暢気な依頼に構っていられないほど、與那覇さんが売れっ子になってしまいました。
「これじゃあいつまでたってもラチがあかない」と一計を案じ、「新潮45」を舞台に、いろいろな方と対談していただく企画を提案。それをまとめて本にすることを考えました。本書に収められた7つの対話のうち、4編は「新潮45」で行われたものです。
 一緒に仕事をするようになって、與那覇さんの仕事の徹底ぶりには、感心することしきりでした。対談に際しては、相手の著作物や関心領域のテーマについて、徹底的に予習してくる。それを、歴史学の研究成果だけでなく、いろいろな学問の知見を借りて多角的に論じる。とくに、言い換えや比喩のうまさは際立っています。対談は毎回、終わってしまうのが惜しいような豊穣な言葉の応酬となりました。
 日本から「中間的なもの」がなくなりつつあることに危機感を持つ歴史研究者が、立場も考え方も異なる7人の論者との間に、どのような言葉を紡ぎ、「架橋」を試みたのか。ぜひ直接ご覧いただければと思います。

2013/11/25

著者プロフィール

與那覇潤

ヨナハ・ジュン

1979年、神奈川県生まれ。歴史学者。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学者時代の専門は日本近代史。地方公立大学准教授として教鞭をとった後、双極性障害にともなう重度のうつにより退職。2018年に自身の病気と離職の体験を綴った『知性は死なない』が話題となる。著書に『中国化する日本』、『日本人はなぜ存在するか』、『歴史がおわるまえに』、『荒れ野の六十年』ほか多数。

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