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日本的ナルシシズムの罪

堀有伸/著

770円(税込)

発売日:2016/06/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

「頼られたい」という病、消えない「甘えの構造」、私たちの民族的宿痾とは。

個人より集団、論理より情緒、現実より想像――日本人には今も昔も固有のナルシシズムが息づいている。自分のことより他人の評価、集団との一体感こそが大切で、しばしばそれは法や論理を跳び越えてしまうのだ。うつ病の急増、ブラック企業や原発事故など、昨今の社会問題すべてに通底する、いわば民族的宿痾としての「日本的ナルシシズム」の構造を明らかにする。

目次
はじめに
第一章 「頼られたい」という病
「場」の雰囲気と「世話をする役」/「世話をされるべき自分」の受容/個人と集団のナルシシズム
第二章 ナルシシズムの病はどこから来るか
母親の不在と幼児の分離不安/高齢者の「被害妄想」に見る恐怖と不安/妄想分裂ポジション、抑うつポジション、躁的防衛/「甘えの構造」と想像上の一体感/アルコール依存症にみられる共依存
第三章 集団とのかかわり方とナルシシズム
自虐的世話役とは何か/「完璧な母」より「十分に良い母」/両親との共依存関係から重度のうつに/第三者の適切な介入が不可欠/エディプス・コンプレックス未満の個人
第四章 日本人の伝統的心性からの考察
論理的垂直性より情緒的水平性/「土着の世界観」と「日本人の思惟方法」/一神教文化のロゴスとは対照的/日本人の法意識と道徳観/ズルズルベッタリのムラ社会の原理/砂川事件に見るその場しのぎの精神性
第五章 「うつ」と日本的「うつ」のあいだ
自己意識と世間が未分化/環境に密着するパーソナリティ/執着気質の問題/美化されるパーソナリティの裏側/うつ病には小精神療法がスタンダード
第六章 現代的ナルシシズムのかたち
負い目を忌避する人間関係/「タテ社会の人間関係」への嘆き/「羨望」と「嫉妬」の違い/「治療共同体」という試みから/ブラック企業を生む社会病理/古典的うつと新型うつ/メランコリーからディスチミア親和型へ/「否定する日本社会への同一化」/権威や道徳からの逃走/日本論が活発な国
第七章 原発をめぐる曖昧なナルシシズム
リスクを避けるゲーム/総力戦の統治システム/突然出てきた自己責任/反省されず強化されるナルシシズム/「見るなの禁止」というタブー/推進派の否認、反対派の空想
第八章 成熟したナルシシズムに向けて
日本的ナルシシズムを直視する/山本七平が告発した員数主義/安保法案で露呈した心の分裂
主要参考文献一覧

書誌情報

読み仮名 ニホンテキナルシシズムノツミ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610671-2
C-CODE 0236
整理番号 671
ジャンル 社会学
定価 770円
電子書籍 価格 770円
電子書籍 配信開始日 2016/06/24

蘊蓄倉庫

甘えは「人類的な退行現象」か

「日本人」を精神分析した名著『「甘え」の構造』(土居健郎)は、刊行から半世紀近くたった今でもそのまま通じる指摘にあふれています。それは嘆くべきことなのかもしれませんが、例えば「子供の世紀」と題された結びの項にはこんな言葉があります。「実際今日のように、大人も子供もなく、男も女もなく、教養があるもないもなく、東洋も西洋もなく、要するにすべての差別が棚上げされた、皆一様に子どものごとく甘えているのは、たしかに人類的な退行現象といわねばならぬ……(後略)」。
掲載:2016年6月24日

担当編集者のひとこと

年来の仮説を立証する大胆な論考

 ナルシシズム(自己愛)は程度の差こそあれ、誰にもあるものです。しかし日本人の場合、他の国々に比べて顕著な傾向(=日本的ナルシシズム)がうかがわれる、と著者は言います。
 個人より集団を重んじる、論理より情緒に流される、現実より想像に浸りがち――こうした特徴はこれまでも識者たちが指摘してきたところですが、必ずしもネガティヴな面ばかりではありません。これらを、規律正しい、他人を思いやる、一体感を大事にする、と言い換えることも可能ですし、成長する国家にとっては望ましいものばかりに見えます。
 しかし、成長から衰退へと向かう難問山積の社会において、こうした伝統的な日本的心性が様々な面で軋轢を生じるようになりました。うつ病の急増からブラック企業、原発問題や安保法制まで、すなわち個人から国家まで、年来の臨床例と学説をひもときながら、「日本」の精神分析を試みた大胆な論考です。

2016/06/24

著者プロフィール

堀有伸

ホリ・アリノブ

1972(昭和47)年東京都生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。大学病院勤務を経て、2012年から福島県南相馬市で精神医療に携わる。現在、ほりメンタルクリニック院長。うつ病や自殺などについて精神分析学や社会病理から考察する論文を発表。『日本的ナルシシズムの罪』が初の著書。

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