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反・民主主義論

佐伯啓思/著

814円(税込)

発売日:2016/10/15

  • 新書
  • 電子書籍あり

民主主義を信じるほど、不幸になっていく。

「民主主義を守れ」と叫ぶ人がいる。「憲法を守れ」と怒る人がいる。だが、われわれは「民主主義」「憲法」を本当に考えてきたのか。それらを疑うことをタブーとし、思考停止を続けてきただけではないのか。戦後70年で露呈したのは「憲法」「平和」「国民主権」を正義とする民主主義の欺瞞と醜態だった――安保法制、無差別テロ、トランプ現象……直近の出来事から稀代の思想家が本質を鋭く衝く。知的刺激に満ちた本格論考。

目次
まえがき
第一章 日本を滅ぼす「異形の民主主義」
「憲法と戦争」への疑問/「平和」という憲法の欺瞞/「国を守る」とは何か/戦後日本の“陥穽”/アメリカに従属してきた日本
第二章 「実体なき空気」に支配される日本
マスメディアと政界の「空気商売」/「9条平和主義者」はエゴイストである/「決められない」政治と「決めた」首相/戦後日本で起きた「下克上」
第三章 「戦後70年・安倍談話」の真意と「戦後レジーム」
安倍談話という「くせもの」/安倍談話の本当の恐ろしさ/「侵略戦争」とアメリカ歴史観の囚人「日本人」/70年前の日本人は何を考えていたか/日本の宿命があった時代
第四章 摩訶不思議な日本国憲法
「憲法を守れ」とはどういうことか/憲法にみる「法的手品」/根本に何があるか/「神」も「思想」もない日本人の憲法とは
第五章 「民主主義」の誕生と歴史を知る
「デモクラシー」は「民主主義」にあらず/「平等と自由」で排除される人/誕生の発端は“人違いの殺人”/民主主義を育んだ「戦争」と「植民地」
第六章 グローバル文明が生み出す野蛮な無差別テロ
アラブの言い分とは/「表現の自由」より優先される「信仰」原理/西洋近代「文明」とイスラム「文化」の衝突/正義への「驕り」が「野蛮」を生み出す
第七章 少数賢者の「民主主義」と愚民の「デモクラシー」
「人間可謬説」から出てくる三つの案件/デモは毒にもクスリにもならない/「民主主義」という語を避けた吉野作造/少数賢者と「品の悪い権力闘争」
第八章 民主主義政治に抗える「文学」
福田恆存「一匹と九十九匹と」を読む/知識人ほどインチキなものはない/「個」を抹殺する「民主主義の罠」/抗えるのは内なる「文学」だけ
第九章 エマニュエル・トッドは何を炙り出したのか
『シャルリとは誰か?』の要点/「ゾンビ・カトリシズム」とは何か/共和国の精神とフランス革命/「知」を失った民主主義
第十章 トランプ現象は民主主義そのもの
なぜ「非常識」が支持されるのか/大統領選は野蛮で騒々しい見世物/崩壊へのパラドックス/民主主義を恐れた建国者たち
あとがき

書誌情報

読み仮名 ハンミンシュシュギロン
シリーズ名 新潮新書
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-610687-3
C-CODE 0210
整理番号 687
ジャンル ノンフィクション
定価 814円
電子書籍 価格 814円
電子書籍 配信開始日 2016/10/21

蘊蓄倉庫

“人違いの殺人”から生まれた「民主政」

 民主主義の発祥は古代ギリシャにあり、独裁者である僭主による専制政治(僭主政)を打ち破って「民主政」が出現したとみなされています。
 特に、紀元前6世紀、アテネで僭主政を敷いていたヒッパルコスを殺害した、ハルモディオスとアリストゲイトンという青年ふたりが、「民主政」の立役者とされていますが、実は真相は違っているそうなのです。
 当時、アテネを僭主政で支配していた名門貴族のペイシストラトスが死んだ後、その息子たちであるヒッパルコスとヒッピアスの間で醜い権力争いが起きました。その争いのなか、同性愛をめぐるトラブルなどもあり、一族内で恨みや嫉妬が渦巻き、ヒッパルコスがパンアテナイア祭の最中に、先のふたりの青年に暗殺されてしまいます。しかし、青年たちは実はヒッピアスを殺害するはずが、誤ってヒッパルコスを殺してしまった。
 ヒッパルコスとヒッピアスによる僭主政は凋落し、幕を閉じましたが、アテネは大混乱に陥りました。それを収束したのは大富豪でエリートのクレイステネスでした。聡明な彼は、もはや僭主政では統治できないと考え、アテネを十の部族と三つの行政区に整理し、一般市民からなる重装歩兵団(ポプリテス)を組織し、統治機構として「五百人評議会」や「民会」を作ったのです。こうして混乱したアテネを鎮めるために、富豪階級の手によって、ギリシャの「民主政」が生み出されました。
 その発端は、市民からの政治参加への要求でも何でもなく、腐敗した僭主一族の痴話げんかと嫉妬と権力闘争がもたらした“人違いの殺人”だったというわけです。


掲載:2016年10月25日

担当編集者のひとこと

「民主主義」「憲法」を根本から考えるために――

 著者の佐伯啓思さんは、本書で、〈昔からどうも「民主主義」というものになじめませんでした〉と明かしています。
 なんでも「みんなで決める」「多数決で決める」ため、その過程で消された意見をもつ人や、そもそも「みんなで決める」という行為の外にいる人は、誰にもとりあってもらえず、無視されていきます。その根本に違和感を持たれていたそうです。
 もし、「税金を支払っていない者は投票してはならない」と提案され、「民主的に」決められたら、貧民階級の人の主張は、政治の場と無縁になってしまいます。そうなると、主張を通したい人は、「民主主義」そのものを“攻撃”しなくてはならなくなる……つまりテロです。これは、「憲法」や「安全保障」という国家的な問題にまで波及します。
「みんなで決めた」ことは「正義」とされ、そうでないものは「悪」だとみられてしまう。
 これは、あくまで例えの一例ですが、佐伯さんはこのように「民主主義」における問題点や齟齬を鋭く照射し、柔らかな筆致で説いています。
 日本の戦後民主主義もすでに70年を越え、世界ではさらに長い間、民主政治が続けられてきました。
 その結果、最近では「民主主義」であるが故に、社会現象として、欺瞞と醜態が噴き出していると佐伯さんは指摘しています。その一部を挙げてみます。
 
=====
 ・「民主主義を守れ」「憲法を守れ」が思考を停止させる
 ・日本の「戦後」とは「アメリカへの自発的な従属」である
 ・「自由と平等」で排除される人々がいる
 ・民主主義が育んだ「戦争」と「植民地」
 ・無差別テロはグローバル文明が生み出す
 ・「民主政」誕生の発端は“人違いの殺人”
 ・デモは毒にもクスリにもならない
 ・「個」を抹殺する「民主主義の罠」
 ・エマニュエル・トッド『シャルリとは誰か?』の本質
 ・なぜ「非常識」が支持されるのか
 ・トランプ現象は民主主義そのもの
=====

「民主主義」や「憲法」を根本から考えるために、今こそ、ご一読をお薦めします。

2016/10/25

著者プロフィール

佐伯啓思

サエキ・ケイシ

1949(昭和24)年、奈良県生まれ。社会思想家。京都大学名誉教授。京都大学こころの未来研究センター特任教授。東京大学経済学部卒。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。2007年正論大賞。『隠された思考』(サントリー学芸賞)『反・幸福論』『さらば、資本主義』『反・民主主義論』『経済成長主義への訣別』『死と生』『近代の虚妄』など著作多数。雑誌「ひらく」を監修。

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