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東大卒貧困ワーカー

中沢彰吾/著

792円(税込)

発売日:2017/06/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

「あのう……給料は?」「金なんか払うわけねえだろ」東大卒・元アナウンサーが体験した――修羅場。

東大卒、元アナウンサーの筆者が、介護退職した後に見たのは、奴隷労働にも等しい「派遣・非正規」の実態だった。徹夜での12時間労働、日給1300円の仕事、研修名目で3ヶ月間無給等々、人の弱みにつけこむ求人が、今も堂々とまかり通っている。さらに資産家のふりをさせる詐欺紛いの「替え玉」派遣まで登場――徹底した現場主義による潜入取材で見えてきた、知られざる労働現場の真実。

目次
序章 働けば働くほど不幸になる
ヤラセ客というお仕事/保険業界でもヤラセ/アベノミクスの果実は存在するのか/実質的な失業率は16%!/労働差別は進んでいる
第一章 成長企業の不都合な舞台裏
世界最大ネット通販を支える奴隷労働/12時間労働は都合が良い/超短時間・低賃金労働/幻のダブルワーク・トリプルワーク/ファッションビルの裏側/カリスマの過酷な日常
第二章 労働差別は企業のリスク
エアコンなし、気温40度の現場/こいつ、使えねえなあ/原発並み防護服/カード勧誘の苦い結末/会社を支えた非正規/繁忙倒産
第三章 「3ヶ月間無給」のカラクリ
罪に問われない搾取/研修という詐欺/孫を釣るエサとしての高齢者雇用/一日中、立たせるワケ/通勤費まで搾取/団結できない警備員
第四章 薄氷の上を歩く正社員
誰もがリストラの対象になる/部外者から「戦力外通告」の屈辱/自動車工兼セールスマン/IT不適応の正社員は/今そこにある正社員の危機/家族の大病はより対処困難/誰もが陥りかねない「ローン地獄」
第五章 「中高年はオモテに出すな」作戦
背景に企業のイメージ戦略/リッチ・フリーター族の我が世の春/今も深刻なネットカフェ住民/諸悪の根源=若者すら粗末に扱う企業
第六章 効率悪くてあたりまえ
非正規+時給制の制度疲労/その気になればサボれる/300組の神経衰弱の不毛/貧乏雇用の戦犯は/30人中28人が非正規の職場/先細り日本の象徴か/見過ごされる致命的な欠陥
第七章 おもてなし地獄
労働者の権利軽視と表裏一体の「おもてなし」/スタッフを怒らせた新サービス/トイレに手を突っ込んだスチュワーデス/おもてなしテレビ/おもてなしが生んだ「愚者の狂気」
第八章 教育されず、マニュアルもなく
番号で呼ばれる私たち/ここをどこだと思ってるんだ!/奪われた育成の機会/介護業界の弱点?/介護は素人に限る?/損害は給与から天引き/非正規はキャリアアップ困難/生かされない知見/水飲み場は秘密事項
第九章 生活保護に追いつけない
生活保護と最低賃金/低賃金派遣は1000万人以上/ハローワークと人材企業の住み分け/公と民の住み分けが生む貧乏雇用/あるシングルマザーの苦悩/実はタダで入れる大学も多い
第十章 本当に高齢者は「使えない」のか
虐待される高齢者/不満なら帰っていいんだよ/労働政策と人材企業/採用の鍵を握る人材派遣企業/高齢労働者は田んぼの雑草?/新卒一括採用は弊害ばかり/本当に高齢者は使えない?/大都市と地方との格差/日本語は話せないほうがいい?/非正規に冷淡な厚労省/非正規の自己防衛心得/有望産業に果敢にアプローチ
終章 働き方改革への提言――貧乏雇用はなぜ統計に現れないのか
総論賛成・各論反対/労働者を軽んじた先にあるもの

書誌情報

読み仮名 トウダイソツヒンコンワーカー 
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610722-1
C-CODE 0233
整理番号 722
ジャンル ノンフィクション
定価 792円
電子書籍 価格 792円
電子書籍 配信開始日 2017/06/23

薀蓄倉庫

「低賃金派遣は1000万人以上?」

 賃金や待遇が安定しない派遣労働者について、2014年に厚労省が126万人、労働者全体の2%に過ぎないと発表しているが、実態にそぐわないと著者は指摘している。派遣登録することで送られてくる求人案件の数から推測するに、全国の短期派遣求人は常時1000万人以上になるというのだ。
 人材企業の登録労働者数にしても、1社のみで600万人、大手数社も100万単位だから、やはり総数126万人とは整合しない。
 本業では生活費をまかなえず、土日に派遣労働をしている人も多く、連合では何らかの形で派遣労働に従事している人は1800万人以上と推定しているが、実数は誰も把握出来ていないのが実状だという。
 それだけの人がいるのにもかかわらず「いない」ことにされてしまうのは、なぜか。誰かの都合が悪いから、なのだろうか――。

掲載:2017年6月23日

担当編集者のひとこと

「働き方改革」からこぼれ落ちている人々

 著者は、東京大学を卒業後、某テレビ局でアナウンサー、そして記者として活躍してきたが、身内の介護のために退社し、以降10年近く、派遣として様々な現場労働に従事してきた。
 その徹底した現場ルポに加え、積み重ねた取材の中から浮かび上がるのは、日給1300円、交通費ピンハネ、12時間徹夜連続労働、3ヶ月間無給といった、まさに「奴隷」ともいえる現場派遣労働の姿だ。
 有効求人倍率がバブル以来の数字となり、人手不足が叫ばれる中、労働者は本当に引く手あまたなのだろうか。そしてその先で待っているのは――。
 本当に「働き方改革」が必要なのは、そもそもその想定からこぼれ落ちている人々なのだと痛感する。

2017/06/23

著者プロフィール

中沢彰吾

なかざわ・しょうご

1956(昭和31)年生まれ。ノンフィクションライター。東京大学文学部卒業後、1980年毎日放送入社。アナウンサー、記者として勤務後、身内の介護のため退社。以後、派遣労働者として働きながら執筆活動に入る。著書に『中高年ブラック派遣』など。

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