笑福亭鶴瓶論
902円(税込)
発売日:2017/08/10
- 新書
- 電子書籍あり
スケベで奥深い。テレビじゃ絶対語らない、運と縁を引き寄せる、「国民的芸人」の人生哲学。
鶴瓶こそが“最強”の芸人である――。大物と対等にわたりあう一方で、後輩にはボロクソにイジられる。全国を訪ねて地元の人々と交流した翌日には、大ホールで落語を一席。かくも老若男女に愛される「国民的芸人」の原動力とは何か。生い立ちから結婚、反骨の若手時代、「BIG3」との交遊、人気番組「家族に乾杯」秘話まで、その長く曲がりくねった芸人人生をたどり、運と縁を引き寄せるスケベで奥深い人生哲学に迫る。
【引用・出典一覧】
書誌情報
読み仮名 | ショウフクテイツルベロン |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 272ページ |
ISBN | 978-4-10-610728-3 |
C-CODE | 0276 |
整理番号 | 728 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 902円 |
電子書籍 価格 | 902円 |
電子書籍 配信開始日 | 2017/08/25 |
インタビュー/対談/エッセイ
「鶴瓶というバケモノ」の正体
最強のお笑い芸人とは誰か――。
戯れにそんな問いを発した時に返ってくる答えは、ビートたけし、明石家さんま、タモリといった「BIG3」やダウンタウンといったところだろう。ウッチャンナンチャンやとんねるず、爆笑問題らの名前も挙がるかもしれない。だが、誰もが知る“国民的芸人”であるにもかかわらず、笑福亭鶴瓶を選ぶ人はおそらくいない。実はそれこそが鶴瓶の強みだ。
同世代の芸人からはもとより、後輩芸人にまでイジられ、ツッコまれ、タジタジになっている姿には、“大物感”がまったくない。時にたどたどしく冗長なトークは、短い時間でフリ・オチを完成させている今のテレビのフリートークと比べると時代遅れのようにも見える。好感度は高いが、お笑い芸人が目指すべき頂点とは別の場所にいる――僕もそんな風に思っていた。けれど、ある時気づいたのだ。実は鶴瓶こそ“最強”なのだ、と。一見、負け続けているように見えて、本当の意味では誰も勝つことができない。
BIG3のような「天才」と称される人たちには共通点がある。それは「孤独感」だ。彼らが発する笑いの奥底には、どこか“影”のようなものがつきまとう。しかし、鶴瓶には、それが一切感じられない。間違いなく「天才」と呼べる部類の才能を持ちながら、彼にあるのは、それとは真逆の「幸福感」だけだ。芸能界でこれだけ経験を積み、才能の塊のような男が、まったく孤独感を感じさせないのは、むしろ驚異的なことだ。なぜそれが可能なのか――彼の言動を見ていくうちに僕はあるキーワードにたどり着いた。
「スケベ」だ。
彼の生き方に通貫している「スケベ」な思想こそ、鶴瓶を鶴瓶たらしめているのではないか。誰よりも多くの人に会い、誰よりも多く時間を費やし、誰よりも多くの場所に赴く。その貪欲さで、「運」を掴み、「縁」を繋げていく。「縁は努力」だと鶴瓶は言う。
僕たちはたけしやタモリのような生き方にあこがれる。けれど、それを真似しようとしたら、待っているのは破滅しかないだろう。彼らの生き方は、彼らの特別な才能があるからこそ実現できるものだからだ。だけど、鶴瓶のスケベな生き方は、たとえ鶴瓶ほどの才能がなかったとしても、真似をすれば、きっと人生を豊かにしてくれるものだ。
『笑福亭鶴瓶論』は評論家の視点で鶴瓶の芸論を語るものではない。そのスケベな生き方を通して、実は誰よりもパンクで最強の男「笑福亭鶴瓶というバケモノ」の正体を探っていこうというものだ。それは、現代では得難い「幸福感」を我々が掴み取るヒントになるはずだ。
(とべた・まこと ライター)
波 2017年9月号より
薀蓄倉庫
尖っていた鶴瓶さん
「アフロヘアーにオーバーオール」――。
それが若き笑福亭鶴瓶さんの“正装”でした。
1972年に笑福亭松鶴師匠のもとに弟子入りした鶴瓶さんは、駆け出しの若手時代、そのような落語家らしからぬ髪型、服装で活動していたのです。
といっても、35年以上も前の話。45歳以上の人にはその記憶があるかもしれませんが、その下の世代となると、アフロヘアーにオーバーオール姿の鶴瓶さんをリアルタイムで見ていた、という人は多くないでしょう。
なぜ鶴瓶さんは、そんな奇抜な髪型や服装をしていたのか?
本人曰く、
「そのころ落語家っていうたら古典の堅いイメージが強くて古臭い感じがしてたんですわ。それでイメージを裏切るようなことをしたいと思って」
「落語家もちょっとバカにされてると思ったの。歳をいった人がなる職業で、若いやつがよう選びよるなみたいに思われることが嫌なんでそんな髪型にしたったんですよ」
つまり、アフロヘアーは落語界にはびこる古臭いイメージや閉塞感を打破するため、いわば反骨心から選び取ったものだというのです。
しかし、30歳となった1981年、あっさりアフロヘアーを“断髪”します。
今度は、「鶴瓶=アフロヘアー」という定着したイメージが気に食わず、あるテレビの密着取材中に、いきなり髪を切り落としたのです。
今やNHK「鶴瓶の家族に乾杯」で見られるような、老若男女に好かれる親しみやすいキャラクターの鶴瓶さんですが、若手時代は、かくも“尖っていた”ことがうかがえるエピソードです。
掲載:2017年8月25日
著者プロフィール
戸部田誠(てれびのスキマ)
トベタ・マコト
1978(昭和53)年生まれ。ライター。ペンネームは「てれびのスキマ」。「週刊文春」やYahoo!ニュースで、番組レビューや芸人論などをテーマに執筆。著書に『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『笑福亭鶴瓶論』『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』『売れるには理由がある』など。