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「毒親」の正体―精神科医の診察室から―

水島広子/著

836円(税込)

発売日:2018/03/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

「あなたのため」なんて大ウソ! 
臨床例から示す「厄介な親」問題の画期的解毒剤!

ちょっとしたことで母親はAさんを全否定する。身体を引きずり回し、家から閉め出すことも数知れない。なぜ母は私を苦しめるのか。苦しむAさんに精神科医は意外な答えを示した。「お母さんは、発達障害だと思います」――。不適切な育児で、子どもに害をおよぼす「毒親」。その被害を防ぐカギは診察室にあった。臨床例から彼らの抱える四つの精神医学的事情を解説、厄介な親問題を手放す指針を明らかにする。

目次
はじめに
診察室でわかる真相/患者さん本人の同意/「毒親」認定の功罪/精神医学的事情という視点/「絶縁」では解決しない/Aさんの克服と割り切り/親を悪く言わない子どもたち/本書についてのお願い
第1章 「毒親」は子どもを振り回す
虐待イコール「毒親」?/愛着スタイル/「安定型」の強み、「不安型」の弱み/心の病を発症しやすい/「一人っ子」はきつい/子どもには「うちが普通」/「親のせいにするのか」という批判
第2章 「毒親」の抱える精神医学的事情
混乱させる「専門家」たち/Aさんを邪魔していた「ストーリー」/(事情1―1)発達障害タイプ――自閉症スペクトラム障害(ASD)/「心の理論」なしの子育て/衝撃が「烙印」のように/母親がASDの場合、父親がASDの場合/「子どもだから」が分からない/(事情1―2)発達障害タイプ――注意欠如・多動性障害(ADHD)/「注意の部屋」とパニック/「話し合ったのに、またやられた」/あちこちにメモを貼る/マルチタスクができない/(事情2)不安定な愛着スタイル/「君がいなければ生きていけない」/発達障害タイプか、愛着スタイル問題か/(事情3)うつ病などの臨床的疾患/トラウマ関連障害/「誰だって苦労している」/「弱音を吐くな」/アルコール依存等/(事情4)DVなどの環境問題/「あなたがちゃんとしないと、お母さんがいじめられる」/親になる心の準備不足/「圧倒的に余裕がない」Fさんの母親/親の親も「毒親」/子どもより「宗教」を優先/「毒親」を治療の場に呼ぶ
第3章 「毒親」の子のための5ステップ
「自分は悪くなかった」と認める/「蒸し返す」本当の意味/「怒り」「混乱」を受け入れる/親にも事情があったと認める/「先生はどっちの味方なんだ」/親にできることを整理する/現実的なつきあい方を考える/要望は手紙で伝える/48時間を限度にする/第三者への相談が必要な場合
第4章 「毒親」問題を手放す
「我慢する」と「手放す」の違い/「ゆるす(手放す)」ということ/自分自身を「ゆるす」/患者さんたちの我慢強さ
第5章 不安定な「愛着スタイル」を変えていく
自分の「愛着スタイル」を癒す/「安定型」の人と接する/他人に手を差し伸べる/母親になる、父親になる/人間関係は「等距離外交」で/自分のスタイルについて説明する
第6章 こじれる母娘問題の「女」について
「毒親」ワークショップ/「女対女」の構図/患者Hさんの抵抗と納得/父親は「嫌い」で済むのに/いわゆる「女」の嫌な部分/母親は息子が大切?
第7章 「毒親」とされた親御さんへ
行動上の「非」を認める/子どもを主体に考えてみる/Iさんが得た安心/まず子どもの話に耳を傾ける/自分に「苦手」があると認める/ひどい攻撃を受けている場合/Jさんの適度な関わりと「招待」
第8章 「大人」として親を振り返る
「大人になること」とは何か/反抗期を「選択」しなかった/今からできる「反抗期」/親を人間として「知る」
あとがき

書誌情報

読み仮名 ドクオヤノショウタイセイシンカイノシンサツシツカラ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610756-6
C-CODE 0247
整理番号 756
ジャンル 政治・社会
定価 836円
電子書籍 価格 792円
電子書籍 配信開始日 2018/03/23

インタビュー/対談/エッセイ

厄介な親を持つすべての人へ

水島広子

「毒親」という言葉をご存じだろうか。初めてフランスの精神科医マリー・イルゴイエンヌによって紹介されたのが1989年、日本では『毒になる親』が99年に刊行された。それまでの「どんなに酷い親でも、子どものことを考えている」という「常識」を根本から覆す概念として広がり、「毒親育ち」などの言葉も知られるようになった。
 私自身は、トラウマ関連障害の患者を診ることが多いため、これぞ「毒親」という人も見てきた。
「毒親とは縁を切るしか生存の道がない」と言う人もいる。確かにそういう「真正」の毒親は存在する。世の中から凶悪殺人犯が消えないのと同じように、親になったからと言って誰もが子どものためを思って穏当な行動をとるわけではない。
 そもそも、親は免許制でもないし、児童相談所が介入でもしない限り、子育ては「自由に」行われる。親が考える「正しさ」を子どももそうだと思い込んで。そして、子どもは成長するにつれ、だんだんと「自分の家はおかしい?」と思うようになるが、それを隠す傾向にある。恥ずかしいから、ということもあれば、誰かに知られたときに何が起こるかわからないという不安もある。そもそも、最低限の安心を与えてくれるはずの親から安心を得ていないのだから、「誰かに話せばきっと助けてくれる」などという人間への信頼は育たないだろう。
 一方で、「毒親とは縁を切るしか生存の道がない」と言われ、長い間離れていたという人の場合、親は単に発達障害を持っている、ということが少なくない。子どもがそれまで抱えてきた「うちの親は私よりも世間体が大事」とか「親は自らの癒やされていないトラウマを私にぶつけてきている」と言った高尚な推論は、実は親が発達障害であるために、1つのことに意識が向いてしまうと他が見えなくなる、というだけのことだったりすることの多さを、臨床で気づいてきた。
「毒親」の本は、とてもデリケートだ。私も原稿を書き終えてから2年近く、刊行を迷ってきた。全員が正確に拙著を読み取ってくれればよいが(例えば、決して全ての毒親を分類、網羅するつもりなどない、という真意など)、そうでなければ人を傷つけることにもなってしまう。
 それをできるだけ防ぐため、いろいろと工夫をして誕生したのが本書である。本書によって、様々な角度から親との関わり方を考えていただければ何よりであるし、無条件の愛を親に対して持って生まれてくる子どもたちが、発達障害などの特徴を知ることで、「自分は愛されていなかったわけではないのだ」と、自己肯定感を回復してくれること、そして一生懸命育てたのに「毒親」と呼ばれるのはなぜ? と悲しい気持ちでいる親に指針を与えることを心から祈る1冊である。

(みずしま・ひろこ 精神科医)
波 2018年4月号より

著者プロフィール

水島広子

ミズシマ・ヒロコ

精神科医、対人関係療法専門クリニック院長。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。慶應義塾大学医学部精神神経科勤務を経て、2000〜2005年衆議院議員を務め、児童虐待防止法の抜本的改正などに取り組む。著書に『トラウマの現実に向き合う』『女子の人間関係』など多数。

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