
本当はダメなアメリカ農業
814円(税込)
発売日:2018/06/15
- 新書
- 電子書籍あり
移民排除で労働者不足、輸出ひとり負け、遺伝子組み換え作物ばかり、農民に自殺とドラッグが蔓延。「自由化したら日本農業は壊滅」なんて大ウソ!
自由化したら日本農業が壊滅? とんでもない。アメリカ農業はハリボテだ! 消費者が求めるオーガニック作物は輸入だのみなのに、遺伝子組み換えがやめられない。除草剤に負けない「スーパー雑草」にはさらに強力な除草剤で対抗。人手不足なのに移民を追い詰め、農民には自殺とドラッグが蔓延。輸出はトランプの保護主義で一人負け……。現地を徹底取材したジャーナリストが描き出す等身大のアメリカ農業の姿。
書誌情報
読み仮名 | ホントウハダメナアメリカノウギョウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610769-6 |
C-CODE | 0261 |
整理番号 | 769 |
ジャンル | ビジネス・経済 |
定価 | 814円 |
電子書籍 価格 | 814円 |
電子書籍 配信開始日 | 2018/06/22 |
蘊蓄倉庫
三大作物から脱落する小麦
アメリカ農業の三大作物は従来「大豆、小麦、トウモロコシ」とされてきましたが、小麦は三大作物の座から脱落しつつあります。2017年の作付面積では、トウモロコシが9020万エーカー、大豆が9010万エーカーですが、小麦は4600万エーカーと、大豆やトウモロコシの半分程度にまで落ち込みました。これは、トウモロコシや大豆には遺伝子組み換えが認められているのに対し、小麦では認められていないという事情が大きく関係しています。
掲載:2018年6月25日
担当編集者のひとこと
隣の芝生も青くない
日本ではTPP論議の際に、「自由化したら規模の大きいアメリカ農業にやられて日本の農業は壊滅する」などの危機論が展開されました。日本の農業が問題だらけなのは確かですが、かといって隣の芝生が青いというわけではないようで、アメリカ農業にも問題が山積しています。
トランプ大統領が保護主義を発動してTPPを拒否している間に、日欧でEPA(経済連携協定)が結ばれてしまい、アメリカ農業は戦わずして「輸出ひとり負け」に陥りました。それどころか中国との貿易戦争で、対中輸出の多い大豆などが狙い撃ちにされるというしっぺ返しもくらっています。
アメリカでも消費者のオーガニック志向は顕著で、全食品に占める割合も5%を超えるところまで来ていますが、アメリカ農業は「遺伝子組み換え漬け」。なので充分なオーガニック作物を手当できず、輸入に頼る始末。それどころか、近年は遺伝子組み換え作物シフトに拍車がかかっており、遺伝子組み換えが全盛のトウモロコシと大豆の畑ばかりが増えて、遺伝子組み換えが認められていない小麦の畑は減少が続いています。
また、近年は除草剤の効かない「スーパー雑草」が登場していますが、これに対抗するために、農薬・種苗業界はさらに強力な除草剤と薬剤耐性のある遺伝子組み換え作物をセット販売するという戦略を採っています。除草剤や殺虫剤の過剰な使用や、遺伝子組み換えで生産管理がしやすいトウモロコシ畑ばかりが増えたことで、ミツバチが突然失踪するなどの自体も発生しており、生物多様性の喪失が止まりません。
近年の農薬・種苗業界のM&Aの進行などによって、農家が「弱者」となる傾向も強まっています。農家の平均年齢は58歳まで上がり、業種別の統計において自殺率とドラッグ中毒の率が全米最高であるという「窮状」もあきらかになってきました。現場の労働を担っているのは、まさにトランプに狙い撃ちされている「不法移民」ばかりなので、人手不足も解消される見込みが立ちません。
アメリカ農業の問題は、日本がおそれていた当の「規模の大きさ」にあるようです。でかすぎるので、問題が発生しても、なかなか舵を切り直すことが出来ないのです。加えて大統領が場当たり的な政策を繰り出すので、そのとばっちりも食らう。かなり「泣きっ面に蜂」的な状況です。そうした現状がイヤというほどわかるのが本書です。
著者の菅正治さんは時事通信の記者で、この2月までの四年間、アメリカ中西部の中心都市シカゴの駐在記者をつとめていました。この本には、現場を歩き続けて集めた事実がたっぷりと注ぎ込まれています。ちなみに菅さんの趣味はトライアスロンで、マラソンのタイムは3時間半を切るアスリート。シカゴ時代はそちらの記事もちょくちょく書いておられました。足で集めた情報に偽りなし!、というわけです。
どうぞご一読を。
2018/06/25
著者プロフィール
菅正治
スガ・マサハル
1971(昭和46)年生まれ。時事通信記者。慶応義塾大学商学部卒業後、時事通信社に入社。経済部で財務省、農水省などを担当した後、2014年3月〜2018年2月シカゴ支局勤務。同年3月からデジタル農業誌Agrio編集長。著書に『霞が関埋蔵金』。