ホーム > 書籍詳細:悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト―パガニーニ伝―

守銭奴、女好き、涜神者。なれど、その音色は超絶無比――伝説に包まれた史上最強の演奏家、本邦初の伝記。

悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト―パガニーニ伝―

浦久俊彦/著

821円(税込)

本の仕様

発売日:2018/07/14

読み仮名 アクマトヨバレタヴァイオリニストパガニーニデン
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 222ページ
ISBN 978-4-10-610775-7
C-CODE 0273
整理番号 775
ジャンル 歴史・地理
定価 821円
電子書籍 価格 821円
電子書籍 配信開始日 2018/07/27

ニコロ・パガニーニ。全身黒ずくめの姿で繰り出す超絶技巧で人々を熱狂させた、空前絶後のヴァイオリニストである。「悪魔ブーム」をブランディングに用い、巨万の富を築いた守銭奴にして女好き。「無神論者」の烙印を押され、遺体となっても欧州をさまよった彼には、「幽霊となっても音楽を奏でている」との伝説も生まれた。十九世紀に鮮やかな刻印を残した「西洋音楽史のメフィストフェレス」、本邦初の伝記。

著者プロフィール

浦久俊彦 ウラヒサ・トシヒコ

1961(昭和36)年生まれ。文筆家・文化芸術プロデューサー。一般財団法人欧州日本藝術財団代表理事。代官山未来音楽塾塾頭。サラマンカホール音楽監督。著書に『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』『138億年の音楽史』など。

目次

はじめに
第一章 悪魔誕生
黒い森/影のある時代/黒猫小路/長靴半島の統合/天才誕生/ヴァイオリンとの出会い/パルマでの修業時代/「悪魔」の烙印/超絶技巧はどこで身につけたのか/広い肩と柔軟な身体/博打でスッて楽器を失う/ヴァイオリンを捨てて農園経営者に?/息づく「ベルカント」の精神/嵐の予兆
第二章 ナポレオン一族との奇縁
コルシカの没落貴族/ナポレオンの兄弟姉妹たち/パガニーニを取り合った姉妹/二本の弦によるデュエット/ナポレオン・ソナタ/肉食系王女ポーリーヌ/イタリア半島の英雄/「比類なきキャラ」を確立
第三章 喝采と栄華の日々
伝説はアルプスを越えた/イタリアに留まっていた理由/「子連れ狼」のコンサート・ツアー/音楽家が「稼げる時代」の幕開け/ウィーンでの大旋風/パガニーナー紙幣/「パガニーニ・グッズ」大流行/ベルリンの乱闘公演/パリで栄光は頂点に/興行師としての戦略/ロンドン上陸/英国の一年で八十億円稼いだ!/満身創痍
第四章 悪魔に魂を奪われた音楽家たち
同時代の音楽家たちに残した刻印/ツェルニーともうひとつの『ラ・カンパネラ』/シューベルトが聴いた天使の声/ショパンと『パガニーニの思い出』/ゲーテとハイネはこう記した/シューマンの運命を変えた演奏/リスト、「ピアノのパガニーニになる!」と決意/ベオルリーズとの友情/オペラの帝王ロッシーニも/弟子からみたパガニーニ/同時代のヴァイオリニストはこう聴いた
第五章 晩年と死
六年ぶりの帰郷/幻のオーケストラ計画/晩節を汚したカジノ建設騒動/生涯最後の演奏/病という名の悪魔/悪魔、死す/莫大な遺産と拒否された終油の秘跡
第六章 パガニーニ幽霊騒動
地中海の港町で起こった幽霊騒動/カトリック教会との対立/外の悪魔、内の悪魔/十九世紀の悪魔ブーム/生ける悪魔を演じ続けて/さまよえる遺体
第七章 神秘の楽器ヴァイオリン
マン・レイ「アングルのヴァイオリン」/ふたりの天才/神の視点から人間の視点へ/感情の楽器/ルネサンス・テクノロジーの結晶/気まぐれな天才が作った名器/愛器が「大砲」と呼ばれた理由/パガニーニの死後も現役/カノーネ訪問記/精巧なレプリカ/夢のクヮルテット
おわりに
略年譜 パガニーニの生涯
主要参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

悪魔がスーパースターになった時代

浦久俊彦

 われながらヘンな主人公を選んでしまったものだ。いまから二百年もまえの西洋クラシック音楽というまじめな世界に属する音楽家の評伝を書くのに、選んだのがよりによって悪魔と呼ばれたヴァイオリニストとは!
 でも書くと決めてしまったのだから仕方がない。とはいえ、いまでも冷や汗が出るのは、とにかく書けなかった日々である。まるで金縛りのように固まって筆が動かない。もしかすると悪魔に取り憑かれたのではないか、お祓いでもしてもらった方がいいのではないか。でも西洋の悪魔ならば日本の神社ではなく、やはりキリスト教の悪魔祓いだろうか? などと一時は真剣に悩んだものだ。やはり相手が悪魔だと、書き手にも相応の覚悟が必要ということなのだろうか。
 このような日々のなかから生まれた本である。書いていたというよりも、さまよっていたという方がよりふさわしい。この本を書きながら、ぼくはたしかに奇妙な世界をさまよっていた。そこは、主人公パガニーニが活躍した十九世紀革命期のヨーロッパというよりも、人類がAIに魂を売り渡してしまった近未来の世界のようでもあった。圧倒的な知能で民衆はそれを神のように崇め、サイボーグのような超絶パフォーマンスで群衆を虜にするスーパースター。しかし、肌を剥がせば、ハイパー繊維でできた強靱な筋肉と、鈍く光る超合金性の骨格があらわになる。
 ところが不思議なことに、その近未来の風景のなかに、十九世紀ヨーロッパの激動の世紀が透けてみえる。時空を超えて、十九世紀の煤けたようなヨーロッパの街並みと、無機質な金属色に輝く未来都市がクロスするような奇妙な感覚を、ぼくはこの小さな本を書きながら何度も味わった。
 革命期の十九世紀ヨーロッパは、悪魔がスーパースターになった時代である。かつては神の敵であった悪魔が、教会と結びついた王制や権力への反逆の象徴として、まるで民衆のヒーローのように君臨した時代。この時代に巻き起こった空前の悪魔ブームは、文学、演劇、音楽などあらゆる表現として社会に浸透し、さまざまな影響をもたらしながら、そのままディアボリズム(悪魔主義)と世紀末デカダンスに雪崩れこむ。そして、凄まじい破壊と欲望とパワーがうごめく新世紀へと突入する。現代はそのなれの果てともいえるのだ。
 もしかすると、十九世紀の民衆たちが、パガニーニの圧倒的なパフォーマンスにふれて、思わず悪魔と叫ばなければならなかった恐怖は、未来がAIに支配されるという漠然とした不安を抱えて生きる現代人の恐怖に通じるのかもしれない。この本を書き終えたいまも、そんなことをぐるぐると考えている。まだしばらく、ぼくのなかからパガニーニという悪魔は消えてくれそうにない。

(うらひさ・としひこ 文筆家・文化芸術プロデューサー)
波 2018年8月号より

担当編集者のひとこと

西洋音楽史の「ダークサイド」

 本書を手にしたら、まずは98頁に掲載されたイラストをご覧あれ。パガニーニ(1782~1840)のベルリンでの公演風景ですが、手前には折り重なる聴衆の姿が描かれ、その奥にバイオリンを手にしたパガニーニの姿が見えます。

 次に169頁のイラスト。木の上に腰掛け、魔女の踊りの伴奏をするパガニーニが描かれていますが、ご丁寧にも左上には悪魔の姿まで見えます(尻尾はバイキンマンと一緒で、おなじみの矢印形)。

「超絶技巧」が代名詞で、一部のクラシックファン以外にはあまり注目されないパガニーニですが、生前の人気はすさまじいものでした。ナポレオンの姉妹がパガニーニを奪い合ったり、ウィーンでの公演の際にはコンサートチケットの代金である5グルデン紙幣が「パガニーナー」と呼ばれるほど。ハンカチやネクタイ、たばこケースなどの「あやかりグッズ」もいろいろ登場し、カフェにはヴァイオリン型のケーキが登場する、といった具合です。イギリス滞在時には邦貨換算で80億円相当(!)をコンサートで稼ぎ出した、とも言われています。

 実はこのパガニーニ、西洋音楽史の「ダークサイド」とも言うべき存在で、彼の姿を見ると西洋音楽とその世界がくっきりと浮かび上がってくるのです。
 西洋音楽の母体は「教会」で、その源流には間違いなくキリスト教的な価値観がありますが、パガニーニは「守銭奴、女好き、涜神者」というキリスト教的な価値観と真逆の存在。臨終に際して神に許しを請う「終油の秘跡」を拒否したとされるパガニーニは、カトリック教会から埋葬を拒否され、遺体となってからも欧州をさまよい歩く羽目になったほどです。

 また、パガニーニは19世紀の「悪魔ブーム」に乗じる形で「悪魔」を自身のブランドイメージに使い、圧倒的な技量で大衆の心を掴むという「商業主義の権化」みたいな振る舞いに及んでいます。本書169頁のイラストは、そのイメージがどれくらい当時の欧州で共有されていたかの傍証と言えますが、晩年には「カジノ・パガニーニ」なる構想もあったくらい、彼の生涯は俗っぽいエピソードに彩られています。

 ついでに言えば、パガニーニが操っていたのがヴァイオリンというのも象徴的です。
 ヴァイオリンは何とも不思議な楽器で、すべてが進歩する現代においてもなぜか16世紀~18世紀にイタリアのクレモナで作られたものが最高とされている。近代楽器の王様とも言えるピアノが絶えざる技術革新の中にあるのとは正反対で、いわば、「近代性を拒否する楽器」とも言えます。
 その近代性を拒否する楽器を手にした悪魔、しかも守銭奴で女好きで死後も教会に埋葬を拒否された人物が、クラシック音楽が大衆に消費されていく時代に欧州で大ブームを作り出したというところが何とも逆説的です。

 著者の浦久さんの新潮新書前作は『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』。リストという音楽家も「近代の終わり」と「現代のはじまり」を一身にして体現した「媒介者」的な存在でしたが、パガニーニも時代の節目に現れた天才という意味で、同じような意味を帯びています。
 ただ、リストが「近代楽器の王様であるピアノを操る精神的貴族」であったのに対し、パガニーニは「近代性を拒否するヴァイオリンを操る俗っぽいイメージの演奏家」なので、より「ブラック」な印象は強くなります。音楽史における意味は似ているのにそれ以外の部分は対称的。「明のリスト」に対し「暗のパガニーニ」といった感じでしょうか。

 ショパンやベートーベンといった「メジャーどころ」ではなく、初めて書いた音楽家がリスト、次がパガニーニというところに、西洋音楽を俯瞰的に見て音楽と社会の関係を考えている浦久さんらしさがあります(なにしろ『138億年の音楽史』という著書もある!)。
 編集者として言えば、この「目のつけどころのオリジナリティ」が、浦久さんの書くものの面白さの源泉だな、と感じています。むしろクラシック音楽に詳しくない人の方が、新鮮な発見と驚きに出会える本だと思います。
 どうぞご一読ください。

2018/07/25

蘊蓄倉庫

弦一本の曲

 ヴァイオリンには弦が四本ありますが、時に曲芸的な演奏をすることをためらわなかったパガニーニは、弦一本(低音弦のG線)で演奏する曲を作っています。皇帝ナポレオンの誕生日に際してお披露目されたこの曲は「ナポレオン・ソナタ」と呼ばれており、独奏ヴァイオリンとオーケストラのための作品として現在でも演奏されることがあります。

掲載:2018年7月25日

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