
1本5000円のレンコンがバカ売れする理由
792円(税込)
発売日:2019/04/17
- 新書
- 電子書籍あり
パリ、NYでも人気です! 「ブランド力最低」茨城県から生まれた痛快な戦略ストーリー。
霞ヶ浦のほとりのレンコン農家に生まれ、民俗学者となった若者が実家の農家を大変革。目玉は1本5000円と超破格の値段のレンコンだ。マーケティングと民俗学の知識を応用した戦略で、そのレンコンはニューヨーク、パリ、フランクフルトなどの高級和食屋で使われるだけでなく、注文を断るほどの「バカ売れ」に。「ブランド力最低の茨城県」から生まれた、日本農業の方向性を示す「逆張りの戦略ストーリー」。
参考文献
書誌情報
読み仮名 | イッポンゴセンエンノレンコンガバカウレスルリユウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610808-2 |
C-CODE | 0261 |
整理番号 | 808 |
ジャンル | ビジネス・経済 |
定価 | 792円 |
電子書籍 価格 | 792円 |
電子書籍 配信開始日 | 2019/04/26 |
蘊蓄倉庫
「ありがたい野菜」が「ありふれた野菜」になった理由
レンコンと言えば、いまでは日常的な食べ物ですが、かつては「高級野菜」の代名詞的存在でした。高級野菜イメージが剥げた最大の理由は、1970年に始まった減反政策。これによって米からレンコンへ転業する農家が増え、最大の産地である茨城県では1960年から20年ほどで生産面積が6倍以上に拡大しました。そこに生産技術の向上も加わり生産量が拡大。かつては「ありがたい野菜」だったレンコンは、あっという間に「ありふれた野菜」になってしまった、というわけです。
掲載:2019年4月25日
担当編集者のひとこと
「普通の農家」が世界に売り込める高付加価値商品を作り出すまで
『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』の著者、野口憲一さんは、レンコン農家にして民俗学者でもあるという「異色の二刀流」。霞ヶ浦のほとりのレンコン農家に生まれ、学問の道で生きていくと志をたてて民俗学者となった果てに、その民俗学の知識を応用して実家のレンコン農家の商品を「高付加価値でバカ売れ」するところまで持っていった物語が本書になります。
著者の実家である「野口農園」の最高級レンコンは1本5000円しますが、ニューヨーク、パリ、フランクフルト、銀座、赤坂、神楽坂などの高級店で採用されているだけでなく、一般向けの注文も断らざるを得ないほど人気を集めています。
もともとの商品力は高かったものの、著者が加わる前の野口農園は、商品の全量をJAに出荷していたごく普通の農家に過ぎませんでした。著者は、農家の息子に生まれた「業」を引き受けつつ、悪戦苦闘を重ねながら、独自の戦略ストーリーを練り上げていきます。
「民俗学の知識」は、もう少し具体的に言うと、「伝統の創造」という考え方です。「伝統」とは不断に作り替えられていくものであり、決して固定したものとして存在しているわけではない。だったら、メディアや社会に操作されるのではなく、「伝統」を自分で創り、それを社会に受け入れさせればよい。そう考えた著者は、「大正15年創業」という「伝統」を創出し、そこを基盤にブランド化を図っていきます。
面白いのは、「戦略ストーリーが動画になっている」ところ。「大正15年創業という伝統」を出発点に、「伝統の価値を訴え、ブランド化する」→「ブランドの裏付けとなる商品力を高める」→「規模の拡大を追わず、希少性を維持する」→「消費者が欲しいと思う状態をキープする」→「価値が認知される」→「高い値段でも買ってくれる」→「さらにブランド価値が高まる」(以下、繰り返し)という道筋で、次々と施策を打っていきます。
その結果、「生産性の向上は目指さない」「マーケットインよりプロダクトアウト」「消費者ニーズより生産者の事情を優先」「既存の認証には頼らない」といった、「逆張りの戦略」が練り上げられたのです。
農家に生まれ、その不合理や哀しみをも背負う覚悟を固めた著者が目指すのは、「農業の価値を正しく社会に位置づける」こと。本書では、著者の友人で『新しい市場のつくりかた』の著者である三宅秀道さんの言葉(「新企画の商品によって、つくられる商品は、新しい社会のありようそのもの」であり、「社会に需要が存在している商品をつくろうというのではなく、新企画商品を受容する社会そのものもセットで形づくろう」)が引用されていますが、単に「商品を売る」ことではなく「農家が心を込めて大切に育てた作物を、本当に大切に扱ってもらえるような社会」を目指す著者の視線は、かなり遠くの方まで向いています。
「ブランド力最低」の茨城県から世界に売り込める高付加価値商品を作り出した著者の軌跡は、日本農業の可能性を示す1つのモデルケースと言えます。同時に、モノを売るどころかろくに働いたこともなかった青年が、体験の中で学び成長していく姿には、一種の「成長小説」の趣もあります(個人的には、テレビドラマ化も出来そうな気がしている。怒鳴りまくりのお父さんは松重豊、強烈な茨城弁を繰り出すお母さんはあき竹城、著者の野口さんは斎藤工、というのが脳内配役)。
読んで楽しい本ですので、興味を持たれたらぜひご一読ください。
2019/04/25
著者プロフィール
野口憲一
ノグチ・ケンイチ
1981年、茨城県新治郡出島村(現かすみがうら市)生まれ。株式会社野口農園取締役。日本大学文理学部非常勤講師。日本大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程修了、博士(社会学)。著書に『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』。