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AIか、愛か。ユートピアか、ディストピアか。300万部超の大ベストセラーから18年、「シンギュラリティ」をめぐる思索の旅。

世界の中心でAIをさけぶ

片山恭一/著

799円(税込)

本の仕様

発売日:2019/07/13

読み仮名 セカイノチュウシンデエーアイヲサケブ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 206ページ
ISBN 978-4-10-610821-1
C-CODE 0210
整理番号 821
ジャンル 政治・社会
定価 799円
電子書籍 価格 799円
電子書籍 配信開始日 2019/07/13

世界に新しい宗教が生まれつつある。その名は「シンギュラリティ」。急速に進化する人工知能がやがて人間知を超えたとき、人間存在の意味はどこに見いだせるのか。ビッグデータとアルゴリズム、AIが支配するデジタルテクノロジーの中心地アメリカ西海岸を旅しながら、変わりゆく人々の思考様式、労働と民主主義の価値、国家と企業の未来像を見つめる。ベストセラー作家が深く問う、AI時代の人間の意味論。

著者プロフィール

片山恭一 カタヤマ・キョウイチ

1959(昭和34)年愛媛県生まれ。作家。九州大学農学部卒、同大学院修士課程を経て博士課程中退。1986年、「気配」で文學界新人賞。2001年刊行の『世界の中心で、愛をさけぶ』が三百万部を超えるベストセラーとなる。『死を見つめ、生をひらく』など著書多数。

目次

1 シンギュラリティへの道
新しい世界宗教/データ提供するだけの存在/人間はアルゴリズム?
2 世界はどこへ向かうのか
シアトルでAmazon Go/テクノロジーの指数関数的進化/スピーディで簡便という恐怖
3 「労働」から「表現」へ
犬を連れて働く人たち/moreからbetterへ
4 民主主義からベーシックインカムへ
肉食獣の「餌」?/飼いならされた動物/人間とAI/1%の富裕層、その他99%
5 生化学的に定義される幸せとは
マウント・レーニア/ポケットのなかのスパコン/アルゴリズムが支配する世界
6 リアルタイム化していく日常
贈与なきストレスフルな世界/夜空の星に涙して
7 「いま」と「ここ」での停滞
Walmartと肥満の相関/世代の消失、国家の解体/ホームグローン・テロリスト/好きになるための時間
8 「一人」から〈ふたり〉へ
人間のなかの善なるもの/行き詰まった世界のキーワード
9 世界といかに相対して生きるか
動物的な摂食行動/肥大化する自我と自己/遺伝子レベルの記憶
10 この先危険、リスクはあなたが負う
消費行動としての大統領選/トランプはジョン・ウェイン?/モナド化する個人
11 来るべき世界のいかがわしさ
単純で分かりやすい/未来をアレンジする人たち/クリーン・エネルギーという嘘/ハイデガーの技術論
12 ゼロサムゲームからメルトダウンへ
信じられていた未来/滅びの予感とともに/他者なき世界を生きる/ともに味わわれる世界
13 電脳空間のなかで幸せに?
自由、平等、我慢の近代/他者を見失った時代/物質形態と人間形態/無限の成長、偽装された未来
14 企業が国家の肩代わりをする
マイクロソフト/仮想通貨「セカチュー」?/国家を超える信用/リアル1からリアル2へ/人間とAIの融合
15 形なき約束の場所
アルコールとソフトクリーム/親鸞の「はからい」/自己の手前で/私よりも私に近いあなた/私は「他者性のプロセス」である/目に見えない信を生きる
あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

自己の手前でAIを超える

片山恭一

 現在、「自己」と呼ばれているものは、遠からずAIによって簒奪されてしまうだろう。医師や教師など、人間にしかできないと考えられてきた仕事の多くが、部分的あるいは全面的にAIに取って代わられる。画像認識などを含む認知能力にかんして、AIは人間よりもはるかにすぐれている。アマゾンのレコメンデーションなどを見ていると、将来は個人の好みや欲望も、自分よりアルゴリズムのほうがリアルタイムで的確に把握することになりそうだ。また心と身体の健康管理も医療用アルゴリズムに委ねるようになるだろう。
 映画「2001年宇宙の旅」では宇宙船に搭載されたコンピュータ(HAL9000)が異常をきたし、自分を停止させようとする乗員を排除してしまう。HALがクルーを殺すのは自己保存のためではない。ただ宇宙船を監視・管理するためのアルゴリズムに則って動いているだけだ。接続を切られて停止すれば、HALはミッションを遂行できなくなる。「彼」は任務遂行を妨げようとするものを排除するのである。将来、AIはHALのようなものになるだろう。ぼくたちはAIに「自己」の監視・管理を委ねるようになる。この任務遂行を妨げようとするものをAIは排除する。たとえそれが「わたし」であろうとも。こうして「自己」と「わたし」は切り離される。「自己」から主体という意味は失われ、たんなるデータの寄せ集めにすぎなくなる。
 人間のなかにAIによって収奪されない部分はあるだろうか。ぼくはあると思う。一人ひとりの固有性をAIは奪うことができない。それはどのようなものか。たとえば「好き」がそうである。ぼくたちが誰かと出会い、恋に落ちることを解読するアルゴリズムは存在しえない。なぜなら「好き」という出来事は、「自己の手前」で起こっているからだ。アルゴリズムが行うのは最適なAとBのマッチングである。ところがぼくたちが人を好きになるとき、まず「好き」ということが起こって、そののち「好き」を介してAとBが、たとえばアキと朔太郎として実詞化されるのである。
 誰もが体験する「好き」という情動は「自己の手前」にある。だから昨日まで見ず知らずだった人を好きになったはずなのに、「出会う前から出会っていた」とか「生まれる前から知っていた」といった不思議な感覚にとらわれる。そして死んだあとも、「あの世で会おう」とか「また一緒になろう」とか、往生際の悪いことを口走ったりする。いずれも「自己の手前」が自己によって追憶されているのだ。
 そんなことをアメリカ西海岸の旅のなかで、キャンプをしたりワインを飲んだりしながら考えてみた。考えたことも考え尽くせなかったことも、この本のなかに記録されている。

(かたやま・きょういち 作家)
波 2019年8月号より

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