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年寄嗤うな、明日の自分。最初で最後、最強の人生論!

老人の美学

筒井康隆/著

770円(税込)

本の仕様

発売日:2019/10/17

読み仮名 ロウジンノビガク
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書
判型 新潮新書
頁数 158ページ
ISBN 978-4-10-610835-8
C-CODE 0210
整理番号 835
ジャンル 文学・評論
定価 770円

青年、中年からやがて老年へ。人生百年時代にあっても、「老い」は誰にとっても最初にして最後の道行きなのだ。自分の居場所を見定めながら、社会の中でどう自らを律すればいいのか。周囲との付き合い方から、孤独との向き合い方、いつか訪れる最期を意識しての心の構えまで――85歳を迎えた巨匠・筒井康隆が書き下ろす、斬新にして痛快、リアルな知恵にあふれた最強の老年論!

著者プロフィール

筒井康隆 ツツイ・ヤスタカ

1934(昭和9)年、大阪市生れ。同志社大学卒。1960年、弟3人とSF同人誌〈NULL〉を創刊。この雑誌が江戸川乱歩に認められ「お助け」が〈宝石〉に転載される。1965年、処女作品集『東海道戦争』を刊行。1981年、『虚人たち』で泉鏡花文学賞、1987年、『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、1989(平成元)年、「ヨッパ谷への降下」で川端康成文学賞、1992年、『朝のガスパール』で日本SF大賞をそれぞれ受賞。1996年12月、3年3カ月に及んだ断筆を解除。1997年、パゾリーニ賞受賞。2000年、『わたしのグランパ』で読売文学賞を受賞。2002年、紫綬褒章受章。2010年、菊池寛賞受賞。2017年、『モナドの領域』で毎日芸術賞を受賞。他に『家族八景』『敵』『銀齢の果て』『ダンシング・ヴァニティ』『アホの壁』『現代語裏辞典』『聖痕』『世界はゴ冗談』など著書多数。

筒井康隆ホームページ (外部リンク)

書評

迷える男たちへ

橘玲

 日本社会の大きな特徴は男の幸福度が低いことだ。
 世界価値観調査(2010年)で男女の幸福度を比較すると、日本は「幸福な女性」が「幸福な男性」より8%以上も多く、その「格差」は世界一大きい。
 2015年に実施された大規模な社会調査SSP(階層と社会意識全国調査)では、もっとも幸福度(ポジティブ感情)が高いのは大卒の若い女性で、同じ大卒でも若い男性はあまり幸福ではなく、もっとも幸福度が低いのは非大卒の中高年男性だった。
 この「幸福度格差」は高齢になるほど拡大する。内閣府の『男女共同参画白書』(2014年)によれば、70代以上で「現状幸せである」と回答したのは女性(高卒)が5割ちかくで突出して高く、男性は大卒・高卒問わず3割程度でしかない。
 これまでさまざまな作品で日本の課題を先取りしてきた筒井康隆氏が『老人の美学』を執筆した理由は、おそらくここにあるのだろう。日本社会の主流派(マジョリティ)でありながら、若い時から幸福感を感じることができず、年をとるにしたがってますます不幸になっていく「男という問題」をなんとかしないと、すでに超高齢社会に突入した日本はどうにもならないのだ。
 なぜ高齢の男の幸福度はこんなにも低いのか。まず思い当たるのは「孤独」だろう。中高年のひきこもりが社会問題になっているが、その割合は男が75%(4人のうち3人)だ。自殺率も男が女の2倍で、孤独死の4人に3人は男だとされる。年をとると、相手が同性であれ異性であれ、男は社会的関係をつくるのが難しくなるのだ。
 このやっかいな問題を筒井氏は、「仕事をしなくてすむ境遇になった人の仕事は、孤独に耐えることである」と一刀両断にする。それ以外にも、人生の困難な時期を乗り越えるための実践的なアドバイスがこの本にはたくさん書かれている。
 たとえば、妻(パートナー)と融和する方法。男はつい理屈で説き伏せようとするが、これは最悪だ。本書で紹介される俳優リチャード・ギアの言葉、「こうしたらいいとか、自分ならどうするとかいった、自分の意見は絶対に言わないように。妻はそんなものを求めているのではなく、聞き手を求めているのだ。黙って、我慢して、最後まで聞くことだ」は、すべての男が覚えておくべき至言だろう。
 あるいは老いについて。「青春時代の十年、働き盛りの頃の十年を考えれば、どれだけ多くの出来事が、どれだけ多くの楽しいことがあったことだろう」として、80歳を過ぎても「これからの二十年を楽しみにしていればいいのである」と述べる。「一般的にも長生きすれば老衰で死ぬことになり、その方が『まるで眠るように死んでいく』ことができるのだから、こんなありがたいことはない」のだ。
 これからの時代に重要なのは、「評判」だと私は考えている。徹底的に社会化された動物である人間にとって、幸福も不幸もすべては評判=他者からの評価で決まる。フェイスブックやツイッターなどで評判が可視化できるようになったことは、人類が体験したとてつもなく大きな変化だ。
 じつは筒井氏は、早くも1972年の短編「おれに関する噂」で、すべての他人が自分についての噂をしている(と自分で思っている)世界について書いている。当時はたんなる「お話」と扱われただろうが、テクノロジーのとてつもない進歩によって、いまや現実が筒井氏の想像力に追いついてしまった。
 AI(人工知能)が囲碁や将棋の名人に勝ったことで、世界が劇的に変わりつつあることを私たちは思い知らされた。未来がますます不確実になるなかでいま切実に求められているのは、「男の老人」のロールモデルだ。幸いなことに女性の高齢者には、「ちょっと頑張ればなれるかも」というロールモデルがたくさんある。それに対して男には、80歳でエベレスト登頂に成功するとか、105歳まで現役医師として患者を診るとかのスーパーマンしかいない。
 いきなり「人生100年時代」といわれて、男も女もすべての高齢者が困惑している。どのように生き、どのように死を受け入れるかは、誰にとっても大きな課題だ。
 85歳を超えてなお矍鑠たる筒井翁は、そんな時代の迷える男たちに、「すこしだけ幸せになる方法」を指し示してくれているのではないだろうか。

(たちばな・あきら 作家)
波 2019年11月号より

目次

はじめに
一 人生の時代区分と老人年齢の設定
二 「敵」の主人公・渡辺儀助の美学
三 グランパ・五代謙三の生き方と死
四 老人が昔の知人と話したがる理由
五 孤独に耐えることは老人の美学か
六 ちょいワル老人はなぜか魅力的だ
七 ご隠居の知恵「愛のひだりがわ」
八 美しい老後は伴侶との融和にあり
九 老人が老人であることは悪なのか
十 「老人は汚い」と言われないために
十一 安楽死など老人の死にかたの問題
十二 老人が死を美的に迎え入れる方法
後記

担当編集者のひとこと

一老人としての美学

 超高齢化という面で世界の先頭を走り続ける日本では、これまで数多の老年論が刊行されてきました。老いを自然のなりゆきとして受容しようとするもの、あるいは一種の人間の成熟と位置付けて肯定的にとらえるもの、わが身の老化をふまえてユーモラスに体験を物語るもの、実用的なものから医学、哲学的なものまで、内容も実に多種多様です。
 もっとも、どれだけ一般化・普遍化しても、老いとは誰にとっても最初にして最後の道行きです。やがて訪れる最期を意識しながら、自分の居場所を見定め、社会の中で自らをどう律するか。著者が「作家としての美学ではなく、あくまで一老人としての美学」と言うように、老いて言動や生活態度がみっともなくならないための、実際的な知恵がふんだんに紹介されています。85歳を迎えた巨匠が、老年論の集大成として世に残す一作です。

2019/10/25

担当編集者のひとこと2

 85歳を迎えた現代日本文学の巨匠による書下ろしです。
 タイトルは内容を十全に表していますが、筒井さんの長年の愛読者としてこの題から思い出したのは、代表作『虚航船団』の冒頭すぐのこんな文章。「(前略)そんな必要はまったくないにかかわらずそのまったくない必要以上に彼は自分をスマートに見せかける努力を怠らなかったからだ。そのスマートに見せかけようとする行動の硬直性は彼の動作をかえって泥くさく見せた。スマートさに一部崩れた態度と身装りが必要だということをあきらかにコンパスは知らなかった」(この長篇小説の主人公は文房具とイタチなので、コンパスが出てくるわけです)。
 少年時代に上の文章を読んで、「これが男の美学ということか」と半可通に思い込んだものですが、あれから35年、今度は文房具ではなく、老人の生活と意識と将来をいかに優雅に、二枚腰に、色っぽく彩るかが本書のテーマです。ハイデガーを援用した死をめぐる考察あり、著者が化粧をしている告白あり、硬軟とりまぜた語り口はさすがに読む者を逸らしません。
 まあ、試しに冒頭の「一 人生の時代区分と老人年齢の設定」を立ち読みでもしてみて下さい。例えば、「人生忠臣蔵」説(森毅さんに教わった由)に引き込まれますよ。ちなみに、この説に依るとわたしの人生はいま七段目、お軽が手紙を読んでいるあたりでしょうか。
 新潮新書でいちばん薄い本ですが(当然安い)、けっこう持ち重りのする知恵と示唆が詰まっています。

2019/11/27

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