興行師列伝―愛と裏切りの近代芸能史―
902円(税込)
発売日:2020/01/17
- 新書
- 電子書籍あり
やるか、やられるか。それが興行の世界だ! 松竹、吉本、大映、東宝……血と汗と金にまみれた、創業者たちの仁義なき攻防戦。
華やかな舞台での熱演、鳴り止まぬ大歓声……しかしその裏では、血と汗と金にまみれた争いがあった――。情熱と野望で大衆芸能の発展に貢献した、松竹・吉本・大映・東宝の創業者たち。その波瀾万丈の人生やライバルとの仁義なき戦いを、膨大な資料からドラマチックに描く。ヤクザや官との癒着、札束攻撃、二枚舌……昔も今も、芸能界はグレーゾーンだらけの弱肉強食の世界。注目の演劇研究者による、興行師たちの物語。
書誌情報
読み仮名 | コウギョウシレツデンアイトウラギリノキンダイゲイノウシ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 272ページ |
ISBN | 978-4-10-610845-7 |
C-CODE | 0274 |
整理番号 | 845 |
ジャンル | 歴史・地理 |
定価 | 902円 |
電子書籍 価格 | 902円 |
電子書籍 配信開始日 | 2020/01/24 |
インタビュー/対談/エッセイ
日本「興行」噺
2020年は、いよいよオリンピックイヤーである。
それにしても、開催決定からの日本は、新国立競技場建設問題にはじまって、エンブレム盗作疑惑、招致を巡る贈収賄疑惑、マラソンの開催地変更と、オリンピックに振り回されてきた。平和とスポーツの祭典のオリンピックといえども、観客から入場料をとって娯楽を提供するイベントである以上は、一種の興行だろう。そして興行には、昔からトラブルがつきものだ。その多発するトラブルを、カネとヒトを使ってうまくおさめるのは、興行師の役目である。だから、一連の東京オリンピック問題の対応が後手後手にまわっているのは、偉大な興行師が不在だからではないかと思えてくる。
本書は、近代日本の芸能史に登場する、五人の大興行師の栄枯盛衰を描いている。東宝の小林一三や松竹の大谷竹次郎、吉本興業の吉本せい、大映の永田雅一など、まさに興行界のレジェンドたちだ。彼らが、日本の芸能のかたちをつくったといっても言い過ぎではないだろう。彼らがオリンピックに関わることはなかったが、全く無関係というわけでもない。
明治十一(1878)年に再開場した新富座は、歌舞伎の劇場だが、外国の賓客を接待し、日本の「近代化」を世界に示すための「おもてなし」の劇場でもあった。近代オリンピックが誕生する以前には、国家の威信をかけ、世界に自国をアピールする役割を演劇が担っていたのである。もちろん、これには仕掛人がいる。政界・官界と歌舞伎界をつなぎ、歌舞伎を明治政府の国家戦略の中に位置付けようとしたのは、明治の興行師・十二代目守田勘弥である。昨今、吉本興業と政治の関係がしばしば話題にのぼるが、その萌芽は明治初期にまで遡るのだ。
また、オリンピックがもっていた、国威を発揚して国民を統合するという役割も、かつては演劇が担っていた。小林一三は、宝塚歌劇が成功してからも、男女俳優が共演し、国民が共有できる「国民劇」の創成に生涯こだわり続けた。興行師は、舞台をプロデュースするとともに、「国民」をもプロデュースしていたのだ。一方で、そのことが戦時下には暗い影を落とすことになる。
名作と呼ばれる大河ドラマ「いだてん」と比べるのはおこがましいが、「いだてん」が「オリンピック」を通じた近代史であるなら、本書は「興行」を通じた近代史であり、「興行」に携わった者たちの群像劇である。敵味方がたえず入れ替わり、ヤクザや政治家をも巻き込みながら、相手を出し抜こうと権謀術数をめぐらす。そこまでして、彼らが「興行」に魅せられたのはなぜなのか、その一端を感じてもらえればうれしい。
(ささやま・けいすけ 演劇研究者)
波 2020年2月号より
著者プロフィール
笹山敬輔
ササヤマ・ケイスケ
1979(昭和54)年、富山県生まれ。演劇研究者。筑波大学大学院博士課程人文社会科学研究科文芸・言語専攻修了。博士(文学)。著書に『演技術の日本近代』『幻の近代アイドル史――明治・大正・昭和の大衆芸能盛衰記』『昭和芸人 七人の最期』。