日本人はなぜ自虐的になったのか―占領とWGIP―
924円(税込)
発売日:2020/07/17
- 新書
知識人・文化人・マスメディアを総動員! 全てアメリカの狙い通りに――。WGIPと心理戦の全貌を第1次資料をもとに明かす。
戦争は八月十五日で終わったわけではない。占領後もアメリカは日本に対する心理戦を継続していた。目的は日本人に罪悪感を植え付け、原爆投下等、アメリカによる戦争犯罪への反発をなくすこと。彼らはメディアを支配し、法や制度を思うままに変え、時に天皇までも利用して目的を達成していったのだ。数多くの第一次資料をもとに心理戦とWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)の全貌を明かす。
初出について
書誌情報
読み仮名 | ニホンジンハナゼジギャクテキニナッタノカセンリョウトダブリュージーアイピー |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | 新潮45から生まれた本 |
発行形態 | 新書 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 288ページ |
ISBN | 978-4-10-610867-9 |
C-CODE | 0221 |
整理番号 | 867 |
ジャンル | 日本史 |
定価 | 924円 |
インタビュー/対談/エッセイ
江藤淳氏への恩返し
反省とは、自発的にするものだ。そうでなければ、反省とはいえない。しかし、近隣諸国との間の「歴史問題」に関して、日本人の心理的初期設定は「反省モード」になっている。つまり、とりあえず反省から始まるのだ。
日本人の自虐性の根本にあるのはこのモードである。近隣諸国との間の「歴史問題」に関して毅然とした態度をとれないのもこのためだ。
これは、日本という国、そして日本人であることを誇れないということにつながっていく。日本と日本人の良さを認めて、近隣諸国を含めて世界中から観光客や留学生が来ているのに、当の日本人は日本および自分をあまりよく思っていない。
故・江藤淳氏は『閉された言語空間』のなかで、このような心理的初期設定のもとになったものをウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(以下WGIPとする)に求めた。これは、日本人に先の戦争について罪悪感を抱かせるため、新聞記事やラジオ番組などを通じて占領軍が行った心理戦で、極東国際軍事裁判(東京裁判)の判決を受け入れる心理的素地を作ることが目的だった。
占領軍は、軍事戦が終わったのちも、5大改革という政治戦、WGIPという心理戦を続行していた。心理戦の方は、日本人にアメリカ軍の駐留を受け入れさせるという目的に変えたうえで、別部局によって占領が終わったのちも続けられていた。
ところで、江藤氏は前述書に「占領軍の検閲と戦後日本」と副題をつけたが、このことが示すように、彼は検閲に重きを置き、WGIPにはあまり紙面を割かなかった。しかし、のちの批評家や研究者が重視したのは、むしろWGIPの方だった。
近隣諸国との間の「歴史問題」が外交上のネックになり、メディアでも繰り返し取り上げられるにつれ、WGIPの問題性がより強く意識されるようになったからだ。かくして、私もこういった「江藤フォロワー」の一人に加わることになる。
私は江藤氏とはちょっとした縁がある。1992年にフルブライト上級研究員プログラムに応募したとき最終面接にあたったのが江藤氏だった。そのとき第一次資料なども読んでみたいといった記憶がある。私はめでたくこの面接にパスし、アメリカに渡り、アメリカ第2国立公文書館で占領軍文書などを読むことになった。以来、20年以上にわたって、この施設をおとずれては、第一次資料を収集し、日本の戦後史に関する本を書き続けている。
本書では、江藤氏があまり意識していなかった心理戦としてのWGIPとそれが戦後の日本のメディアに与えた影響を新に明らかにすることで、一種の「恩返し」をしようと思う。
(ありま・てつお 早稲田大学教授)
波 2020年8月号より
薀蓄倉庫
「反戦映画」の裏にあるもの
戦争から帰ってきた日本兵が、戦時中にやったことに苦しみ、かつての上官たちへの反発心を抱き葛藤する――こんな図式の映画やドラマはよく目にします。重要なのは、普通の市民と軍人(軍国主義者)とを分断する構図があること。戦後、数多く作られたこの種の映画には、占領軍の意向が働いていたことを『日本人はなぜ自虐的になったのか―占領とWGIP―』は明らかにしています。アメリカの公文書には記録が残っているのです。そうした映画の監督には、黒澤明、木下恵介といった巨匠までいたというのは驚きではないでしょうか。
掲載:2020年7月22日
担当編集者のひとこと
心理戦研究の決定版
WGIPという単語を編集部の会議で口にした時の反応は真っ二つでした。
「ああ、あの件か」という人と「何それ? プロレス団体?」という人がいたのです。
ひょっとしたらそういう団体もあるのかもしれませんが、本書で取り上げているWGIPは「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」の略で、占領軍が日本に対して仕掛けていた心理戦の一つ。大雑把に言ってしまえば、日本人が、あの戦争の「加害者」であるという意識を持つようにして、間違っても「原爆投下は大虐殺じゃないか」とか「東京裁判はおかしい」といった考えを持たないようにするためのものでした。
WGIPは評論家の江藤淳が『閉された言語空間』で取り上げられて以来、議論の対象となってきました。近年では「実はそんなに大した影響はなかった」という説を主張する人もいます。
しかし、本書を読むとそんな考えが甘いということがよくわかります。アメリカは戦争に勝つ前からずっと、日本人相手の心理戦を研究、実践してきました。そして勝利に甘んじることなく、占領後、さらに心理戦を展開していくのです。工作にはメディア、知識人、文化人が総動員されていきました。
「実はそんなに大した影響はなかった」と考えたほうが、気分は良いのかもしれません。気づかぬうちに他国の、それも占領直後の心理戦の影響を受けているというのは、愉快なことではないでしょうから。
しかし、本書を読めば、いかにWGIPなどの心理戦が周到かつ巧妙なものだったかがよくわかります。一次資料をもとにした心理戦研究の決定版です。
知らず知らずのうちに影響を受けていないか、それを知るためにもご一読をお勧めします。
2020/07/22
著者プロフィール
有馬哲夫
アリマ・テツオ
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『日本人はなぜ自虐的になったのか』など。