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日本人はなぜ自虐的になったのか―占領とWGIP―

有馬哲夫/著

924円(税込)

発売日:2020/07/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

知識人・文化人・マスメディアを総動員! 全てアメリカの狙い通りに――。WGIPと心理戦の全貌を第1次資料をもとに明かす。

戦争は八月十五日で終わったわけではない。占領後もアメリカは日本に対する心理戦を継続していた。目的は日本人に罪悪感を植え付け、原爆投下等、アメリカによる戦争犯罪への反発をなくすこと。彼らはメディアを支配し、法や制度を思うままに変え、時に天皇までも利用して目的を達成していったのだ。数多くの第一次資料をもとに心理戦とWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)の全貌を明かす。

目次
まえがき
第I部 今ここにあるWGIPマインドセット
第1章 日本のマスメディアと教育は歴史的事実を教えない
今、ここにあるマインドセット/日本人が信じ込まされてきた嘘の数々/マスメディアの嘘が日本人の歴史認識を誤らせている/中国と韓国は戦勝国ではない/太平洋戦争という名称は矛盾だらけ/敗者のみが「戦争犯罪者」になる/敗戦国日本のマスメディアが「戦勝国史観」を採る矛盾/極東国際軍事裁判の欺瞞/慰安婦問題は日韓の問題ではない/朝鮮人戦時労働者問題も誤認だらけ/学校というマインドセット機関/教科書で教わった「戦後改革」は偽りだった/「改革」ではなくご都合主義のアメリカ化/占領軍の「改革」賛美はもうやめよう/マインドセットに陥ると歴史的事実を受け入れなくなる
第2章 なぜいまWGIPなのか
江藤はNHKと闘っていた/江藤の関心はWGIPに向かった/教育者高橋もWGIPに向かった/国連ウォッチャー関野もWGIPに向かった/江藤、高橋、関野に共通するもの/秦はWGIPを陰謀論とした/若林はGHQ洗脳説を誤りであるとした/山崎雅弘の問題点/論理のすり替えと根拠をあげない断言/第2次世界大戦についての教育内容は国によって異なる/嫌韓国、嫌中国気分の真の背景/山崎と江藤、高橋、関野との現状認識のギャップ/WGIP陰謀論者は第1次資料を踏まえた議論をしない/賀茂道子の「戦争の有罪性」はおかしい/WGIPは「民主化政策」や「啓蒙」などではありえない/WGIPは共産主義者の陰謀ではない/アメリカの公開文書を「英国立公文書館所蔵の秘密文書」にするトリック/切り取りジャーナリズム/WGIPはバターン・ボーイズが立案し、実施した/コミンテルン陰謀説の問題点/私のWGIPに関するポジション
第3章 WGIPマインドセットの理論的、歴史的証明
政治戦と心理戦/アメリカの第一線の科学者が動員された/「5大改革」は政治戦/狭義のWGIPは極東国際軍事裁判の広報計画/WGIPの正体/「情報プログラム」をWGIPに組み入れることにした/WGIPマインドセットは複合的/コミュニケーション理論からの説明/団塊の世代が自虐的になる理由/占領軍の「民主化」が日本のマスメディアを反日にした/「太平洋戦争史」は占領軍のブラック・プロパガンダ
第II部 占領軍の政治戦・心理戦はどのように行われたのか
第4章 ボナー・フェラーズの天皇免責工作と認罪心理戦
『終戦のエンペラー』は歴史的事実を踏まえている/フェラーズとは何者か/OSSからマッカーサーの幕僚へ/ホワイト・プロパガンダ、ブラック・プロパガンダとは何か/日本兵の心をつかみたければ天皇を貶めてはならない/効き始めたフェラーズの心理戦/天皇・軍閥分離プロパガンダ/日本は無条件降伏していない/日本はバーンズ回答を受け入れていない/アメリカ軍も戦争犯罪に手を染めていた/天皇を心理戦に利用/「敗戦ギルト」を植えつけた東久邇宮/トルーマンは約束を反故にした/占領軍は日本国民に戦争責任を負わせた/本国政府は天皇を戦争裁判にかける考えを捨てていなかった/認罪心理戦に利用された天皇免責
第5章 ケネス・ダイクと神道指令
ダイクとは何者か/ダイク起用の裏側/「太平洋戦争史」によるホワイト・プロパガンダ/「日本人には謙虚さが足りない」/検閲と言論統制の「閉された言語空間」/「太平洋戦争」を押し付ける/一丁目一番地は神道指令/神道指令の隠された意図/『真相はかうだ』は聴取者を激昂させた/番組名を変え、放送時間を変えて放送した/映画とニュース映画もWGIPに使われていた/WGIPニュース映画の絶大な効果/占領軍はまだ戦いのさなかにいた/WGIPに罪悪感を持った人たち/太平洋戦争史観を広めた東京大学教授/南京事件はWGIPのために持ちだされた/ダイクは広告マンとして出世した
第6章 ドナルド・ニュージェントと国体思想の破壊
教育者がCIEのトップに/玉音放送は教育における国体護持を命じていた/「國體の本義」とは何か/「國體の本義」の何を問題としたのか/教育における国体の改変/教育による国体改変とWGIPの関連/WGIP第2段階/黒澤明までWGIP映画を作っていた/ソ連がなぜ被害国とされたのか/WGIP第3段階/いつも朝日がそこにいた/占領軍はA級戦犯の遺灰を海に捨てた
第7章 心理戦は終わらない
ポストWGIPはPSB/テレビも心理戦に使われた/アメリカ文化センターが拠点/ポストWGIP「対日心理戦プログラム」/第五福竜丸事件以後の心理戦/「対日心理戦プログラム」とWGIPの関連/心理戦を行っているのはアメリカだけではない
第III部 WGIPの後遺症
第8章 原爆報道に見る自虐性
日本人の14パーセントが原爆投下を正当と思っている/「気持ちの悪い」日本のマスメディアの報道/なぜ「原爆」を「平和」と言い替えたのか/せめて両論併記とすべき/アメリカの博物館はどうか/ABCが原爆投下正当論を否定/ABCは不買運動を覚悟した/NHKの番組は原爆投下を正当化してきた/NHK番組は投下反対派科学者を無視した/原爆はソ連への威嚇という証言
第9章 慰安婦問題に見るWGIPの効き目
占領軍も「慰安所」を合法とした/吉田清治の「強制連行」捏造/朝日新聞は歴史的事実を無視し続けた/日本政府を窮地に陥れた文書誤読とクマラスワミ報告書/安倍首相のディレンマと「慰安婦問題」の見直し/「大誤報」の根底にはWGIP由来の「自虐バイアス」と「敗戦ギルト」
終章 WGIPマインドセットの副産物「平和ボケ」
スイス人は戦争抑止のための犠牲を惜しまない/戦争から逃げた国はどうなったか/自衛しない日本をアメリカは守ってくれない
あとがき
註釈
初出について

書誌情報

読み仮名 ニホンジンハナゼジギャクテキニナッタノカセンリョウトダブリュージーアイピー
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-610867-9
C-CODE 0221
整理番号 867
ジャンル 日本史
定価 924円
電子書籍 価格 924円
電子書籍 配信開始日 2020/07/17

インタビュー/対談/エッセイ

江藤淳氏への恩返し

有馬哲夫

 反省とは、自発的にするものだ。そうでなければ、反省とはいえない。しかし、近隣諸国との間の「歴史問題」に関して、日本人の心理的初期設定は「反省モード」になっている。つまり、とりあえず反省から始まるのだ。
 日本人の自虐性の根本にあるのはこのモードである。近隣諸国との間の「歴史問題」に関して毅然とした態度をとれないのもこのためだ。
 これは、日本という国、そして日本人であることを誇れないということにつながっていく。日本と日本人の良さを認めて、近隣諸国を含めて世界中から観光客や留学生が来ているのに、当の日本人は日本および自分をあまりよく思っていない。
 故・江藤淳氏は『閉された言語空間』のなかで、このような心理的初期設定のもとになったものをウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(以下WGIPとする)に求めた。これは、日本人に先の戦争について罪悪感を抱かせるため、新聞記事やラジオ番組などを通じて占領軍が行った心理戦で、極東国際軍事裁判(東京裁判)の判決を受け入れる心理的素地を作ることが目的だった。
 占領軍は、軍事戦が終わったのちも、5大改革という政治戦、WGIPという心理戦を続行していた。心理戦の方は、日本人にアメリカ軍の駐留を受け入れさせるという目的に変えたうえで、別部局によって占領が終わったのちも続けられていた。
 ところで、江藤氏は前述書に「占領軍の検閲と戦後日本」と副題をつけたが、このことが示すように、彼は検閲に重きを置き、WGIPにはあまり紙面を割かなかった。しかし、のちの批評家や研究者が重視したのは、むしろWGIPの方だった。
 近隣諸国との間の「歴史問題」が外交上のネックになり、メディアでも繰り返し取り上げられるにつれ、WGIPの問題性がより強く意識されるようになったからだ。かくして、私もこういった「江藤フォロワー」の一人に加わることになる。
 私は江藤氏とはちょっとした縁がある。1992年にフルブライト上級研究員プログラムに応募したとき最終面接にあたったのが江藤氏だった。そのとき第一次資料なども読んでみたいといった記憶がある。私はめでたくこの面接にパスし、アメリカに渡り、アメリカ第2国立公文書館で占領軍文書などを読むことになった。以来、20年以上にわたって、この施設をおとずれては、第一次資料を収集し、日本の戦後史に関する本を書き続けている。
 本書では、江藤氏があまり意識していなかった心理戦としてのWGIPとそれが戦後の日本のメディアに与えた影響を新に明らかにすることで、一種の「恩返し」をしようと思う。

(ありま・てつお 早稲田大学教授)
波 2020年8月号より

薀蓄倉庫

「反戦映画」の裏にあるもの

 戦争から帰ってきた日本兵が、戦時中にやったことに苦しみ、かつての上官たちへの反発心を抱き葛藤する――こんな図式の映画やドラマはよく目にします。重要なのは、普通の市民と軍人(軍国主義者)とを分断する構図があること。戦後、数多く作られたこの種の映画には、占領軍の意向が働いていたことを『日本人はなぜ自虐的になったのか―占領とWGIP―』は明らかにしています。アメリカの公文書には記録が残っているのです。そうした映画の監督には、黒澤明、木下恵介といった巨匠までいたというのは驚きではないでしょうか。

掲載:2020年7月22日

担当編集者のひとこと

心理戦研究の決定版

 WGIPという単語を編集部の会議で口にした時の反応は真っ二つでした。
「ああ、あの件か」という人と「何それ? プロレス団体?」という人がいたのです。
 ひょっとしたらそういう団体もあるのかもしれませんが、本書で取り上げているWGIPは「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」の略で、占領軍が日本に対して仕掛けていた心理戦の一つ。大雑把に言ってしまえば、日本人が、あの戦争の「加害者」であるという意識を持つようにして、間違っても「原爆投下は大虐殺じゃないか」とか「東京裁判はおかしい」といった考えを持たないようにするためのものでした。
 WGIPは評論家の江藤淳が『閉された言語空間』で取り上げられて以来、議論の対象となってきました。近年では「実はそんなに大した影響はなかった」という説を主張する人もいます。
 しかし、本書を読むとそんな考えが甘いということがよくわかります。アメリカは戦争に勝つ前からずっと、日本人相手の心理戦を研究、実践してきました。そして勝利に甘んじることなく、占領後、さらに心理戦を展開していくのです。工作にはメディア、知識人、文化人が総動員されていきました。
「実はそんなに大した影響はなかった」と考えたほうが、気分は良いのかもしれません。気づかぬうちに他国の、それも占領直後の心理戦の影響を受けているというのは、愉快なことではないでしょうから。
 しかし、本書を読めば、いかにWGIPなどの心理戦が周到かつ巧妙なものだったかがよくわかります。一次資料をもとにした心理戦研究の決定版です。
 知らず知らずのうちに影響を受けていないか、それを知るためにもご一読をお勧めします。

2020/07/22

著者プロフィール

有馬哲夫

アリマ・テツオ

1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『日本人はなぜ自虐的になったのか』など。

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