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財務省の「ワル」

岸宣仁/著

814円(税込)

発売日:2021/07/19

書誌情報

読み仮名 ザイムショウノワル
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 204ページ
ISBN 978-4-10-610916-4
C-CODE 0236
整理番号 916
ジャンル 政治・社会
定価 814円
電子書籍 価格 814円
電子書籍 配信開始日 2021/07/19

出世の三条件は? 名門校より浪人? 理系は迫害? 日本を牛耳る男たち、立身出世の掟。

霞が関のトップエリートが集う財務省。そこでは「ワル」と言えば、いわゆる「悪人」ではなく、「やり手」という一種の尊称になる。しかし、事務次官のセクハラ、国税庁長官の公文書改ざんなどで、“省庁の中の省庁”に巣くうワル文化はもはや崩壊待ったなしだ。求められてきた「勉強もできるが、遊びも人並み以上にできる」タイプとは? 出世の条件とは?――当代一の財務省通が「ワル」たちの内幕を明かす。

目次
はじめに
第1章 ワルの源流
『青の時代』を生んだ「大蔵のドン」/「変わった奴、面白い奴をどんどん採ったから」/宴もたけなわの秘儀「ジャングル・ファイア」/公務員試験の原型となった「高文試験」/「百年一日の如き」慣習/「失われた二十年」は「東大法学部不況」?/パワハラ度を示す「恐竜番付」/「内閣人事局」の功と罪/「忖度」と「猟官」
第2章 出世の三条件
「将来の次官候補」に落とし穴/同期に黒田日銀総裁/スーパー次官候補の奇妙な趣味/「知謀の長野、行動の中島、バランスの武藤」/病に倒れた「いぶし銀」/「センス、バランス感覚、胆力」に収斂する/「頭の良さ」とは何か?/消費税にまつわる絶妙な比喩/「老後資金が二千万円不足」報告書の担当者は?
第3章 浪人は次官への近道〜挫折を知らない集団とは本当か?
「入省までに意外に回り道をしている」/東大法学部の学生時代に恋愛問題/“官僚ヤクザ”が二年遅れた理由/トップに上り詰めたドイツからの帰国子女/「国家公務員試験一番は次官にはなれない」ジンクス
第4章 灘・麻布出身者がトップになれない理由
出身高校から見た出世の構図/都会派vs.地方派/思いも寄らぬ落とし穴/東大の敷地内で生まれた男/開成は都会派じゃない?/空前絶後の「麻布三代連続」
第5章 コロナ禍で本質を問われる財政再建論
「要求を断ってくるのが我々の仕事」/「君子豹変」のキッカケとは?/竹下が語った大平の背負った十字架/達成されていた「赤字国債ゼロ」/「現代貨幣理論」による激しい揺さぶり/「破綻はない」と財務省は認めていた
第6章 「黒田バズーカ」の光と影
局長時代の“日銀批判”/「黒田さんを守ろうという人はいない」/「赤紙みたいなもの」/「歴代最長・黒田」の次の次は?
第7章 財務省の理系迫害
理系出身の局長/金融庁長官・森信親「かく語りき」/「東大法学部支配」への疑問/「360度人事評価」の原点/四分の一は民間、三分の一は女性/課長クラスが参加した「一泊二日の研修」/「問題を解くことではなく、問題をつくること」/もう一人の理系頭脳/一二年秋の前代未聞の異変
第8章 辞め急ぐ財務官僚
異変を感じた八五年夏/大蔵不祥事の頃に去った二人/九七年という悲劇/「自主退職者の会」/古巣に戻ってきた男
おわりに
主要参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

エリート中のエリートの素顔とは?

岸宣仁

 思い起こすと、初めて大蔵省(現財務省)の記者クラブである財政研究会(略して財研)を担当してから、今年でちょうど四十年の歳月が流れた。この間、彼らエリート官僚たちとさまざまな会話を交わしてきたが、ある時、幹部の一人がふと漏らした言葉が今も鮮明に胸に残っている。
「なんでそんなに、うちの組織や人事に興味を持つの?」
 その問いにどう答えたかは忘れてしまったが、さりげない問いかけの裏に、「我々の聖域に土足であまり踏み込まないでほしい」というニュアンスを嗅ぎ取り、一瞬ぎくりとした。この幹部がそこまで意図したかどうかはわからないが、官僚と記者とを隔てる見えない壁が厳然と存在しているように感じられた。
 そんな彼らの聖域に、一歩でも近づきたいと悪戦苦闘してきたのがこの四十年間であり、本書はいわばその集大成といっても過言ではない。どこまで肉薄できたかは読者の評価に委ねるとして、今まであまり触れられることのなかった彼らの真の姿に、初めて踏み込んだささやかな自負がないといえば嘘になる。
 例えば、「出世の三条件」では、事務次官を目指す出世競争の背後に見え隠れする好対照な人物像にスポットを当てた。若い頃はピカピカの次官候補だった人が最後の詰めの段階で失速する一方、中堅クラスまではそれほど目立たなかった人が局長級に昇り詰める中で、まさにいぶし銀の光を放ちながら次官の椅子に辿り着く。そうした鮮やかな対比がなぜ起こるのか、興味ある読者は本書をぜひ手に取ってもらえればありがたい。
 もう一つ、財務省の次官経験者といえばエリート中のエリートであり、大学受験や公務員試験をすべて無傷でパスしてきた人たちと想像しがちだが、それが意外とそうでもない。戦後の入省者の中から就任予定まで含めて三十六人の次官が誕生したが、現役が三九%、一浪相当(留年や休学を含む)以上が六一%にのぼり、ほぼ六割が何らかの回り道をしている。
 さらに、1990年代後半の大蔵省不祥事以降、辞め急ぐ若手官僚が目に見えて増えてきた。不祥事がピークに達した1997年入省組は、十九人の採用者のうちほぼ半数の九人がすでに辞めた。「財務官僚」という霞が関の最高ブランドも堕ちるところまで堕ちたという印象が拭えない。
 最後に、本書を通奏低音のように流れる「ワル」の文化に一言言及しておきたい。1886(明治19)年の大蔵省確立以来、東大法学部卒の中で「勉強もできるが、遊びも人一倍できる」人物が出世頭ともてはやされ、より上のポストに就いた。そうした蛮カラ気質が過剰接待汚職事件や次官のセクハラ騒動を生む土壌となったわけで、財務省も百数十年の悪しき伝統から脱皮すべき時期に来ている。

(きし・のぶひと 経済ジャーナリスト)
波 2021年8月号より

蘊蓄倉庫

人生すごろくの妙味

 霞が関の頂点と言われる財務省なのだから、現役合格は必須で浪人や留年など出世の足を引っ張るものでしかない――。そんな風に思われる人は少なくないかもしれませんが、さにあらず。これまでに誕生した36人の事務次官だけを見ても、3分の2が浪人など何らかの回り道をしていることがわかりました。その他、まさに人生すごろくの妙味を感じさせるエピソードがたっぷりラインナップしています。

掲載:2021年7月21日

担当編集者のひとこと

「恐竜番付」と出世競争

 著書とお目にかかることになったのは、「恐竜番付」がきっかけでした。これは財務省内のキャリア官僚をパワハラ度が高い順に大相撲の番付風に並べたもので、これを初めて世に出したのが他ならぬ著者でした。ある意味で、裏人事評価表とも言うべきもので、セクハラや公文書改ざんなど、その後に省を揺るがす事件の当事者として、時の人となる方々も上位にランクインしており、皮肉なことですが、財務省内の人を見る目の正しさを内外にアピールするものでもありました。組織で出世したい人はもちろんですが、出世競争に敗れたと思っている人、自分は失敗したと思っている人にも手に取ってもらえれば、人生を生き抜くためのヒントがきっと読み取れると思います。実際に、霞が関の頂点で出世争いを闘う人たちに肉薄してきた著者ならではのドキュメントをお楽しみください。

2021/07/21

著者プロフィール

岸宣仁

キシ・ノブヒト

1949(昭和24)年、埼玉県生まれ。ジャーナリスト。東京外国語大学卒。読売新聞経済部で大蔵省や日銀などを担当。財務省のパワハラ上司を相撲の番付風に並べた内部文書「恐竜番付」を公開したことで知られる。『財務官僚の出世と人事』 『同期の人脈研究』など著書多数。

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