財務省の「ワル」
814円(税込)
発売日:2021/07/19
- 新書
- 電子書籍あり
出世の三条件は? 名門校より浪人? 理系は迫害? 日本を牛耳る男たち、立身出世の掟。
霞が関のトップエリートが集う財務省。そこでは「ワル」と言えば、いわゆる「悪人」ではなく、「やり手」という一種の尊称になる。しかし、事務次官のセクハラ、国税庁長官の公文書改ざんなどで、“省庁の中の省庁”に巣くうワル文化はもはや崩壊待ったなしだ。求められてきた「勉強もできるが、遊びも人並み以上にできる」タイプとは? 出世の条件とは?――当代一の財務省通が「ワル」たちの内幕を明かす。
書誌情報
読み仮名 | ザイムショウノワル |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | 週刊新潮から生まれた本 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610916-4 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 916 |
ジャンル | 政治・社会 |
定価 | 814円 |
電子書籍 価格 | 814円 |
電子書籍 配信開始日 | 2021/07/19 |
インタビュー/対談/エッセイ
エリート中のエリートの素顔とは?
思い起こすと、初めて大蔵省(現財務省)の記者クラブである財政研究会(略して財研)を担当してから、今年でちょうど四十年の歳月が流れた。この間、彼らエリート官僚たちとさまざまな会話を交わしてきたが、ある時、幹部の一人がふと漏らした言葉が今も鮮明に胸に残っている。
「なんでそんなに、うちの組織や人事に興味を持つの?」
その問いにどう答えたかは忘れてしまったが、さりげない問いかけの裏に、「我々の聖域に土足であまり踏み込まないでほしい」というニュアンスを嗅ぎ取り、一瞬ぎくりとした。この幹部がそこまで意図したかどうかはわからないが、官僚と記者とを隔てる見えない壁が厳然と存在しているように感じられた。
そんな彼らの聖域に、一歩でも近づきたいと悪戦苦闘してきたのがこの四十年間であり、本書はいわばその集大成といっても過言ではない。どこまで肉薄できたかは読者の評価に委ねるとして、今まであまり触れられることのなかった彼らの真の姿に、初めて踏み込んだささやかな自負がないといえば嘘になる。
例えば、「出世の三条件」では、事務次官を目指す出世競争の背後に見え隠れする好対照な人物像にスポットを当てた。若い頃はピカピカの次官候補だった人が最後の詰めの段階で失速する一方、中堅クラスまではそれほど目立たなかった人が局長級に昇り詰める中で、まさにいぶし銀の光を放ちながら次官の椅子に辿り着く。そうした鮮やかな対比がなぜ起こるのか、興味ある読者は本書をぜひ手に取ってもらえればありがたい。
もう一つ、財務省の次官経験者といえばエリート中のエリートであり、大学受験や公務員試験をすべて無傷でパスしてきた人たちと想像しがちだが、それが意外とそうでもない。戦後の入省者の中から就任予定まで含めて三十六人の次官が誕生したが、現役が三九%、一浪相当(留年や休学を含む)以上が六一%にのぼり、ほぼ六割が何らかの回り道をしている。
さらに、1990年代後半の大蔵省不祥事以降、辞め急ぐ若手官僚が目に見えて増えてきた。不祥事がピークに達した1997年入省組は、十九人の採用者のうちほぼ半数の九人がすでに辞めた。「財務官僚」という霞が関の最高ブランドも堕ちるところまで堕ちたという印象が拭えない。
最後に、本書を通奏低音のように流れる「ワル」の文化に一言言及しておきたい。1886(明治19)年の大蔵省確立以来、東大法学部卒の中で「勉強もできるが、遊びも人一倍できる」人物が出世頭ともてはやされ、より上のポストに就いた。そうした蛮カラ気質が過剰接待汚職事件や次官のセクハラ騒動を生む土壌となったわけで、財務省も百数十年の悪しき伝統から脱皮すべき時期に来ている。
(きし・のぶひと 経済ジャーナリスト)
波 2021年8月号より
蘊蓄倉庫
人生すごろくの妙味
霞が関の頂点と言われる財務省なのだから、現役合格は必須で浪人や留年など出世の足を引っ張るものでしかない――。そんな風に思われる人は少なくないかもしれませんが、さにあらず。これまでに誕生した36人の事務次官だけを見ても、3分の2が浪人など何らかの回り道をしていることがわかりました。その他、まさに人生すごろくの妙味を感じさせるエピソードがたっぷりラインナップしています。
掲載:2021年7月21日
担当編集者のひとこと
「恐竜番付」と出世競争
著書とお目にかかることになったのは、「恐竜番付」がきっかけでした。これは財務省内のキャリア官僚をパワハラ度が高い順に大相撲の番付風に並べたもので、これを初めて世に出したのが他ならぬ著者でした。ある意味で、裏人事評価表とも言うべきもので、セクハラや公文書改ざんなど、その後に省を揺るがす事件の当事者として、時の人となる方々も上位にランクインしており、皮肉なことですが、財務省内の人を見る目の正しさを内外にアピールするものでもありました。組織で出世したい人はもちろんですが、出世競争に敗れたと思っている人、自分は失敗したと思っている人にも手に取ってもらえれば、人生を生き抜くためのヒントがきっと読み取れると思います。実際に、霞が関の頂点で出世争いを闘う人たちに肉薄してきた著者ならではのドキュメントをお楽しみください。
2021/07/21
著者プロフィール
岸宣仁
キシ・ノブヒト
1949(昭和24)年、埼玉県生まれ。ジャーナリスト。東京外国語大学卒。読売新聞経済部で大蔵省や日銀などを担当。財務省のパワハラ上司を相撲の番付風に並べた内部文書「恐竜番付」を公開したことで知られる。『財務官僚の出世と人事』 『同期の人脈研究』など著書多数。