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ビートルズ

北中正和/著

858円(税込)

発売日:2021/09/17

書誌情報

読み仮名 ビートルズ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 238ページ
ISBN 978-4-10-610922-5
C-CODE 0273
整理番号 922
ジャンル ノンフィクション
定価 858円
電子書籍 価格 858円
電子書籍 配信開始日 2021/09/17

なぜ、彼らだけ別格なのか。解散から50余年、世界史の中でビートルズを読み直す。

1970年のグループ解散から数えて、すでに半世紀。にもかかわらず、いまなおカリスマ性を失わず、時代、世代を越えて支持され続けるビートルズ。いったん頂点に上り詰めても、たちまち忘れ去られるのが流行音楽の常なのに、なぜ彼らだけは例外なのか――。世界各地のポピュラー・ミュージックに精通する音楽評論の第一人者が、彼ら自身と楽曲群の地理的、歴史的ルーツを探りながら、その秘密に迫る。

目次
はじめに
序章 なぜビートルズだけが例外なのか
労働者階級/自作自演/世界で10億枚/変化し続けたグループ/「一過性」から「歴史」へ/政治的発言/前例のない文化現象
【1】故郷リヴァプール
「マギー・メイ」「ペニー・レイン」をめぐる章
田舎者扱い/植民地貿易の拠点/奴隷貿易による繁栄/メルヴィルとモービー/イギリス初の鉄道/ビートルズの青銅像とゴレー通り/空襲による衰退/リトル・アメリカ
【2】ジョン・レノンはアイルランド人か
「マイ・ボニー」「悲しみはぶっとばせ」をめぐる章
U2ボーノの発言/トニー・シェリダン&ザ・ビート・ブラザーズ/ドイツから取り寄せた25枚/民族と宗教/4人のルーツ/ベルト・ケンプフェルト/レイ・チャールズへの憧れ/ボニーとは誰か/ロッド・スチュワートとスティング/アイルランドの音楽/ボブ・ディランの影響/新天地ニューヨーク
【3】ミンストレル・ショウの残影
「ミスター・カイト」「フリー・アズ・ア・バード」をめぐる章
ジョン・レノンの祖父の経歴から/ブラックフェイス/イギリスでも流行/混血のサーカス団長とミスター・カイト/奴隷解放と黒人霊歌/ミュージック・ホール/BBCのミンストレル・ショウ/バンジョーを弾いていたジュリア
【4】スキッフルがなければ
「レディ・マドンナ」「ハニー・パイ」をめぐる章
手作りの楽器を使い演奏/南部からシカゴへ/ロニー・ドネガン/エルヴィスにはなれなくとも/ジョンとポールの出会い/バディ・ホリー調/ブギウギ風のピアノ
【5】作品の源流はどこに?
「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」「イエスタデイ」をめぐる章
あらゆるタイプの音楽の影響/両親も気に入る曲を/ジョンもロック一筋ではない/「バス内の合唱」はロック以外の曲/「ポップ」の定義とは/ジャズ、R&B、カントリー/ビートルズ登場前夜/ロックンロールとロックの関係
【6】カヴァー曲、R&B、ラテン音楽
「ベサメ・ムーチョ」「ツイスト・アンド・シャウト」をめぐる章
エルヴィスが壊した人種の壁/ジョージの「早熟」「通」/リトル・リチャード以後/黒人音楽のカヴァーの多さ/単なる模倣を超える/消えた「べサメ・ムーチョ」/キューバ音楽「ソン」の影響/ラテン系リズムのヒット曲/音楽の歴史のうねり/「アイ・フィール・ファイン」もラテンだった
【7】カリブ海、アフリカとの出会い
「蜜の味」「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」をめぐる章
大戦後に激増した移民/カリプソ歌手たち/スティール・ドラム/ハンブルクへの道/年齢詐称の入れ知恵も/舞台はマンチェスター/ジャマイカのリズム「スカ」/アイランド・レコード/ライフ・ゴーズ・オン/3度のレコーディング/ジャンルとして定着
【8】60年代とインド音楽
「ノルウェーの森」「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」をめぐる章
ロックの定義の更新/コーナーショップ/『ヘルプ!』に登場したインド人/何でもあり/『チベットの死者の書』/狂気を通訳したジョージ・マーティン/ラヴィ・シャンカルに弟子入り/ワールド・ミュージックの先取り/インド行き/ゴッドファーザー、ラヴィ
【9】ふたつのアップルの半世紀
「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」をめぐる章
係争を繰り返した両者/モノクロからカラーへ/完成までに5週間/オリジナリティと創造性/強い共感/空想は現実より素晴らしい/「ビジネスの手本はビートルズ」
【10】ビートルズはなぜ4人組か
「アイ・アム・ザ・ウォルラス」「ゲット・バック」をめぐる章
ハンブルクでは5人組/電気的なサウンド/放送禁止された「危険な」エレクトリック・ギター/電気エネルギー時代の象徴/既成の価値観が問われた時代/「彼らはお互いに属している」/青春物語の終わり/ヴァーチャルなバンドと幻の聴衆
おわりに
主な参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

なぜビートルズだけが別格なのか?

ピーター・バラカン北中正和

解散半世紀を経ても衰えぬ人気。新潮新書『ビートルズ』を上梓した音楽評論家の北中正和さんと、1960年代をロンドンで過ごしたピーター・バラカンさんが、その謎について語り合った。

バラカン(以下、バ) まず北中さんがビートルズに関する本を書くとは夢にも思っていなかったので、正直びっくりしました。

北中(以下、北) 友だち全員からそう言われてるんです(笑)。

 僕も最近、イヴェントとかでビートルズを語ることが結構あるんですよ。なぜなんだろう、よくわからないんですけど。でもさすがに、本を書くにあたって、ずいぶんビートルズを研究しましたね。参考文献は、この本を書くために読んだんですか? それとも全部読んでました?

 読んでいたものももちろんあるんですけど、今回初めて読んだもののほうが圧倒的に多いですね。僕自身が1960年代に少なくともヒット曲はリアルタイムで聴いていて影響も受けたし、いつか機会があればビートルズについて何か書いてみたいなという思いはあったんですね。最初、「ニューミュージック・マガジン」という雑誌で働き始めたころは、ロックとポップスの知識しかなかったので、ロックの原稿はいっぱい書いていたんですよ。1990年代以降はワールドミュージックの仕事の方が多くなったんですけど、ビートルズへの関心はずっと持っていた。けれども改まって書く機会がないなあと思っていたんです。でも21世紀に入ってから、昔聴いていたロック系のアーティストが次々に亡くなったり、あるいは自分の年齢を考えると、自分もいつ死ぬかもわからない。

 僕もそういう話をしたばかり(笑)。

21世紀版のビートルズ論

 で、生きているうちに機会があったら書くのもいいなあと思っていたのが一つですね。それと自分の中でビートルズの印象が鮮烈だったのはやはり1960年代なので、ビートルズというと真っ先に1960年代のことが頭に浮かぶんですけど、当時はハンター・デイヴィスが書いた伝記の本くらいしか読んだことはなかったし、その後随時新しい情報は入ってきましたけど、そんなに丁寧には追いかけてなかったので、自分自身のビートルズへの関心が20世紀のどこか途中で止まっている感じもあったんですよね。で、今の時代の情報でビートルズを聴き直してみたらどんな風になるか、21世紀版の自分のビートルズの認識をまとめたらどうだろうかなあ、みたいなことは思いました。それといっぱい本がありすぎて、入門書的なものがあまりないと人から言われたことも念頭にはありました。

 確かに入門的な本はあるにはあるだろうけど、何を入門的というかでしょう。いまは、かつて誰も知らなかったようなことがどんどん明らかになったり、いろんな関係者が語ったりするから。僕個人のことを言うと、「サージェント・ペパーズ」以降、ビートルズに少しずつ興味を持たなくなったんです。最初に知った時の印象が一番強いから、それが一番心に深く残っているのかもしれませんね。だから僕にとって「プリーズ・プリーズ・ミー」だったり「ツイスト・アンド・シャウト」だったり、あの初期から中期が一番好きで、ビートルズの音楽の幅が一気に広くなった時に、すでに違うタイプの音楽を聴くようになっていたんで、興味があまり持てなくなっていた。今聴くと、また全然違う大人の感覚で聴くことはできますけど、でも10代の感覚っていうのは抜けないんだな。北中さんはどうなのかな。

 最初の頃はすごく面白いロックのバンドっていう感じですよね。それで、シングルが出るごとにどんどん新しい感覚のものが出てくるし、複雑になっていく。ビートルズの成長と、自分自身の成長が、ちょっと重なり合うような感じがあったので、「サージェント・ペパーズ」までは文句なしに面白いなあと思いましたよね。ただ、「マジカル・ミステリー・ツアー」とか「ホワイト・アルバム」になってくると、幅が広がりすぎて、ちょっと焦点を絞りにくいなあという感じはあったんですけど、興味はずっと持ってました。

リヴァプール訛りは関西弁?

 ビートルズがデビューしたころのイギリスは、ラジオで映画音楽とかスタンダードなんかが掛かっていた時代です。突然出てきたビートルズを聴いて、「なんか違うなあ」という印象を持っていたけど、あっという間にラジオ、雑誌、テレビを席巻して、出すものは全部1位。1963年にはヨーロッパを完全制覇してしまいました。

 ビートルズはイギリスの北の方からやってきたバンドですが、田舎っぽい感じはなかったんですか?

 ありました。北中さんも本で書いていましたけど、リヴァプールというところはイングランドの北西部で天気は悪いし寒いし、僕は行ったことがなかった。北部って言うと、あまり行きたいとも思わない暗いイメージがあったんです。ところが、一夜にしてというか、ビートルズの異常なほどの人気でそれががらりと変わったんです。まだロックという言い方がないような時代だけど、ロックンロール的な音楽をやるイギリスの人はみんな、アメリカの発音を真似してた。中途半端な真似だったりするんだけど。でもアメリカっぽく歌わなければカッコ悪いというイメージがあった。そうじゃないことをやったのは、たぶんビートルズが初めてじゃないかな。ビートルズがいきなりリヴァプール訛りで、それも丸出しで、最初はえっ、ていう驚きがあった。

 しゃべりだけじゃなくて、歌の中にもそういうアクセント、訛りがあったんですか。

 そうね。しゃべるときほどではないかもしれないけど、かなり強かった。それが、彼らの存在がカッコいいものだったから、急に地方訛りがカッコいいことになっちゃったの。

——それは日本語で言うと、関西弁なのか東北弁なのか、どうなんでしょう?

 何弁なのかなあ……。

 関西弁というと、やはりお笑いのイメージが強くなっちゃいますよね。九州から来た鮎川誠さんが博多とか久留米の言葉をずっとしゃべっていて、そんなニュアンスかなあなんて思ったりもするんだけど。

 うーん……、日本の特定の地方には当てはまりにくいんだけど、要するに「田舎者」。当時の感覚で言うとね。

 日本でビートルズが出て来た時、インタヴューでの受け答えが面白いという評価がありました。

 当時のイギリスというのは、労働者階級の人たちが突然主役になるという時代だったんですね。そういう時期だから、ああいう生意気な受け答えをして僕らの世代に受けた、というところはあったと思います。

 ピーターから見てカッコいい受け答え? それとも気負っている感じ?

 いや気負っている感じは全然しない。イギリスの労働者階級の人たちって、ああいう結構イキのいい受け答えをするものなんですね。でもテレビのインタヴューに対してはどうかなあ。ビートルズのどこが一番救いだったかというと、下手に生意気なことを言うと、性格次第で嫌われることも当然あるんだけど、彼らの場合は「徹底的に憎めない」んです(笑)。なんかどこかかわいい。あのジョン・レノンの例の、宝石をじゃらじゃら鳴らしてちょうだいっていう、あれはねえ、普通だったらもう絶対に言えないコメントだけれども、あの時代だからかもしれないけれども、言われた皇太后だったかな、も笑ってるんですよね、客席で。

 ですよね。

 余裕があるっていうのも、当時のイギリスのいいところだったかもしれない。

 あんなことを言うのも勇気がいることですよね。

 言った時のジョンの表情もまた面白い。あー、なんかまずいこと言ってばれちゃったみたいな。そこがまたジョンの憎めないところでね。

 キャラクターもスターになる上では重要ですよね。理屈だけじゃなくて。

 そうだよね。しかもジョン一人じゃないからね。本でも書いてたけど、あの4人が1つのユニットになってて、バンドだからあそこまで行けたんだな。

「レヴォリューション」の真意

 11月に映画「ザ・ビートルズ:Get Back」が公開されるので、5分くらいの映像が宣伝で流れてますけど、ご覧になりました?

 観ました。すごく興味を持ちましたね。かつては「レット・イット・ビー」として公開された1969年のゲット・バック・セッションが、今回は「ザ・ビートルズ:Get Back」として公開されるわけですが、あの映画を観たときに何も面白くなくて、なんか暗い感じのものだし、これは観たくなかったなあと思ったくらいだったから、もう一度観たいと思ったことはなかった。それが今回、えっ、こんなに違うのって思うくらい、本当にびっくりしましたね。6時間あるっていうから、観るのも大変そうだけど、でも、どういう内容なのか興味があるな。

 僕は「レット・イット・ビー」を観た時に、確かに口げんかするシーンとかもあったんですけど、まあいろいろ演奏場面が観られたのが楽しくて、それほど暗い印象は受けなかったんですよ。

 そうかそうか。もしかしたら僕の記憶が偏っているかもしれない。

 でも暗い印象を持った人が多いですよね。

 うん。やっぱりブライアン・エプスタインが死んで、ちょっと方向性を見失ってビジネスもうまくいかなくなって、いろんな問題があったから、ゲット・バック・セッションももう一度原点回帰のつもりでやってたわけだからね。まあ、でも結局あそこまで成長したバンドが原点回帰はできないということになったんですね。そういうものなんだね。

 音楽的にも人間的にも成長を続けていったら戻れないですよね。

 そうそう。でもファンにはそれがわからない。自分ももちろんそうだったんですけど。今この年になると音楽聴いてて、もっと距離ができるっていうかね、客観的に物事を考える余裕が出てきたのかな、ようやく。

 当時は音楽にまつわる情報がイギリスでも少なかったかもしれないけど、日本ではもっと少なかった。そのぶん想像を膨らませて過大な期待を、夢を抱いたこともあった。それが楽しかったんですけどね。音楽が本当に未来を創る手立ての一つになるかもしれない。ディランを聴き、ビートルズを聴き、ストーンズを聴き、ジミ・ヘンドリックスを聴いていると、幻想を抱くなというのも難しいですよね。

 そうだよね、幻想だと思ってなかったからね。本当に音楽で世界を変えられるって言って、みんな本当に思っていた。でもね、あの時代をリアルタイムで生きた僕らの世代は、北中さんはどうかわからないけど、いまだに僕はどこかそういう甘い理想が、残ってるんですよ。捨てられない。捨てきれないっていうのかな。それでいいとどっかで自分も思ってます。

 どこかでそういう気持ちは持ち続けてますよね、みんな。日本は1960年代後半、学生運動が過激になったんですけど、イギリスとかロンドンは当時どうだったんですか。

 えーと、一部でやってましたね。僕はちょっと若くて、参加しなかった。北中さんは参加してました?

 デモを見に行ったりするくらいで、ヘルメットをかぶって何かをやったというわけではないんですけど。

 たしかに、なんかあんまりそういうタイプには思えない(笑)。

 ただ、それを抑圧する機動隊を見ると、やっぱりひどいなーと思いますよね。

 あの様相はねえ、テレビのニュースで日本の学生と機動隊のぶつかり合いを見て、ものすごくびっくりしたのを覚えている。えっ、学生ここまでやるのかって。

 僕が大学を卒業するときに、大学が全学ストライキになって、おかげで卒業研究もしないで出られたんですけど(笑)。ストーンズの「ストリート・ファイティング・マン」とか、ビートルズの「レヴォリューション」があった時代ですよね。「レヴォリューション」でジョンが言っている〈革命に名を借りて何か権力欲を満たすみたいなのには俺は与しないよ〉っていうのは、激しい運動をやっている人が、必ずしも正義のためにやっているとは限らないということですよね。冷めた目で見ているけれども、世の中変わってほしいという思いもあって、そういう気持ちと共鳴する音楽としてビートルズやなんかを僕は聴いていた気がするんです。学生運動をやっている人たちが本当にビートルズを聴いていたかというと、日本では多くはなかったと思いますね。

 うーん。日本に来て初めて知った話だけど、ビートルズが来日した時に、教育委員会が各地で子供たちがコンサートに行かないようにしていたとか、いや、それはちょっと本当に驚きでしたね。あの、髪を伸ばすことが不良だみたいなのは、たぶんイギリスでは数か月で終わっちゃいましたね。もうみんなが髪を伸ばし始めたから。

 日本では1970年代初めくらいまで髪を伸ばすのは変だと言われ続けました。

 そうね、僕が日本に来てみんなによく言われたのは、日本は1970年代に入ってロックが初めてリアルタイムで紹介されるようになったって。あ、なるほどな、やはり社会が違うんだなっていうのは、それで意識させられた。

音楽の間口の広さ

 今回の本を書くにあたって、忘れていた曲も含めて、いろんな曲を聴き直したんですけど、すごく印象的な曲をたくさん作ったグループだなあと、ありきたりな印象ですが、確認したところもありましたね。だから時代を超えても受け入れられるのかなあと。

 本にも書いてあったけど、本当に音楽の間口が広いんですよね。彼らが作った曲のカヴァーがものすごく多いでしょう。しかもあらゆるジャンルでのカヴァーがあって、どんな編曲をしてもちゃんと生きてくる曲がすごく多いと思う。それは、彼らが元々たくさんのいろんなタイプの音楽を聴いていたからかもしれないね。

 それを担っている土台の部分がみんな広いからということなんでしょうね。マーク・ルイソンの大著『ザ・ビートルズ史』で初めて知ったんですけど、ジョンの友達が、アメリカ大使館からレコードなんかを借りていて、カントリー・ブルースとか、そういう古いものまで聴いていたそうです。

 へー、ジョンの若いころを描いた「ノーウェアボーイ」っていう映画の1シーンで、ジョンが盗んだレコードを持ってて、それがクソだって言って、友達と交換するんだけど、交換して友達からもらうのがスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」なんだよね。あれはフィクションなんだろうけど。ちょっといいタッチだなあと思って。カントリー・ブルーズまで聴いてたんだ。デビュー前でしょう?

 そう、アマチュアの頃ですね。

 あの時代、ああいうレコードはほとんどないはずですよ。カントリー・ブルーズって言ったら、ロバート・ジョンスンの、ジョン・ハモンドが作った最初の「キング・オヴ・ザ・デルタ・ブルーズ・シンガーズ」は1961年発売だけど、イギリスでその時代に出てたかなあ? ほとんど誰も知らないと思う。あと、ブルーズマンの再発見が本格的になるのは、1963、1964年くらいだからね。
 1960年代の初頭だったらライトニン・ホプキンズが町のレコード屋にちょこっとあったり、あとジョシュ・ワイトのことも書いてましたっけ? あれはジョージが聴いてたのか。フォーク・リヴァイヴァルの延長線上に、割と白人に聴かれていた人だから、彼のレコードはちょこちょこってありましたね。ジョンは、ブラインド・ウィリー・ジョンスンを聴いていたとも書いてあったけど、そんなのをもし聴いていたとしたら、どうやって知ったんだろう、びっくりしますね。

変わり続けること

 時代を軸にしてビートルズが次々に何をしていったかというのは割とよく書かれて知られている。でもそういう本を今書いてもしょうがないと思う。書き手の独自の観点をもって書いてこそ、今読んでもらえるものなんだろうと思います。この本はカリブ、インド、アフリカの人たちとか、そういう英米以外の音楽の要素とビートルズとの接点が良く出ていて、そこが面白いと思います。あと、北中さんが自分の頭の中で推測している部分があって、そこも妙に面白い。ちょっと穿ちすぎかもしれないとか書いてるんだけど、でも、ああいうのを読むと自分も普通考えないことをちょっと考える。そういう面白い刺激があちらこちらにある。

 僕が1960年代にビートルズに学んだことは、変わり続けるというか成長し続けることの面白さだったんです。成長できたかどうかは全然心もとないんですけど、変わり続けるのは興味の対象にしてもそうですし、ほとんど自分の性格のようなものですね。この年で勉強して、知らなかったことを知るのはずいぶん刺激になりました。これは高齢化時代の時間の過ごし方のヒントになるぞという感じで(笑)。

 でも、本の一番最初に、なぜ彼らだけが別格なのかっていう問いがあるけど、そこはまだ謎が残るよね。

 まあ、謎を考え続けるのが楽しみでもあり、その手がかりにしていただければ幸いなんですけど(笑)。

(ピーター・バラカン ブロードキャスター)
(きたなか・まさかず 音楽評論家)
波 2021年11月号より

薀蓄倉庫

ジョージ・マーティンも偉大だった

 商業的な成功と社会的な名声を手にしたビートルズは、実験的な音楽にも挑戦します。代表作『リヴォルヴァー』に収録された「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」もその1つ。しかし、メロディ展開のない常識外れのこの曲がレコーディングできたことについて、ジョージ・ハリソンは、プロデューサーのジョージ・マーティンへの感謝を後日こう語っていました。「彼はいつもそばにいて、ぼくたちの狂気を通訳してくれた」。著者の北中正和さんはこうしたジョージ・マーティンの能力は、かつて彼が所属していたレコード・レーベル「パーロフォン」の多様な音楽の価値を認めてきた伝統に根ざしたものと指摘し、同じ時期に実験的な音楽を志しながらキャピトル・レコードの理解を得られなかったビーチ・ボーイズの不幸と対照的だと記しています。

掲載:2021年9月24日

担当編集者のひとこと

ビートルズは何からできているのか。

 どちらかというとワールド・ミュージックのイメージが強い北中正和さんに、ビートルズについて書いていただきました。とはいえ北中さんはポピュラー音楽評論の第一人者ですから、日本の歌謡曲にも詳しいし(『にほんのうた 戦後歌謡曲史』新潮文庫版は絶版、現在は平凡社ライブラリーから)、もちろんポピュラー音楽史に残る大事件であるビートルズについても詳しい。先日、担当編集者の実家に転がっていた1976年の音楽雑誌では「ビートルズの全アルバム徹底視聴!」という特集の中で、「ラバー・ソウル」を担当執筆されていました。
 とはいえ『ビートルズ』は、彼らについての知られざるエピソードを紹介するビートルズ・マニア向けの本ではありません。書かれているのは主に「ビートルズ(とその音楽)は何からできているのか」ということについてです。北中さんはそのために、ジョン・レノンの祖父が関わっていたかもしれない19世紀のミンストレル・ショウの歴史を遡り、ジョンとポールを結び付けた1950年代のスキッフル・ブームの中身を点検します。音楽の地理・歴史という点から見ると非常にマニアックではありますが、ビートルズ好きの上級者にも初心者にも、大変役に立つ本になっております。

2021/09/24

著者プロフィール

北中正和

キタナカ・マサカズ

1946(昭和21)年奈良県生まれ。京都大学理学部卒業。音楽評論家。東京音楽大学講師。日本ポピュラー音楽学会、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。著書に『ロック史』(立東舎文庫)『毎日ワールド・ミュージック』(晶文社)『にほんのうた』(平凡社ライブラリー)など。

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