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厚労省―劣化する巨大官庁―

鈴木穣/著

902円(税込)

発売日:2022/02/17

書誌情報

読み仮名 コウロウショウレッカスルキョダイカンチョウ 
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 236ページ
ISBN 978-4-10-610940-9
C-CODE 0230
整理番号 940
ジャンル ノンフィクション
定価 902円
電子書籍 価格 902円
電子書籍 配信開始日 2022/02/17

予算33兆円、職員数3万人超。「生命」を左右する巨大組織を、徹底検証!

長引くコロナ禍の中、感染対策とワクチンや治療薬の承認など、最も世間の耳目を集める省庁・厚労省。医療、介護、年金、雇用などに毎年莫大な予算を執行し、3万人の人員を抱える巨大官庁の所管分野はとてつもなく広く、その激務ぶりは大臣も含めて時に“ブラック”とさえ揶揄される。同省を担当して10年余り、社会保障政策に精通するベテラン記者が、その成り立ちから、組織・人員・政策、不祥事までを徹底解説!

目次
はじめに
第1章 歴史は繰り返す
人員倍増の国立感染症研究所/結核感染症課/感染症との闘いの歴史/広がる守備範囲/戦時が後押しした厚生省創設/名前は中国の「書経」から/労働問題も厚労省が担う/結核感染症課のルーツ/感染症対策は安全保障問題/軍隊を含めた国を挙げての対策が必要
第2章 使うカネも組織も巨大
(1)予算と主な部局
社会保障費用は国家予算を超える/一般会計の3分の1を使う省庁/年金と雇用を支える特別会計/大臣答弁は「1000本ノック」/失敗できない国会答弁/大臣官房と13の局/医療分野だけで4つの局/国民全員に大きくかかわる年金局/介護保険制度を支える老健局/労働系の筆頭は労働基準局/格上の大臣官房の6つの課
(2)採用・給与・待遇
減り続ける国家公務員/キャリアとノンキャリア/採用試験は難関/年間給与は課長で1200万円/定年延長は一度お預けに/女性職員は3割に届かず/女性初の厚労次官・村木厚子氏/課長の右腕・課長補佐/公務員制度のルーツは明治期/民間企業にも拡がる人事制度/恒常的な「ブラック職場」/多忙な業務/忙殺される国会対応/厚生系と労働系/情報公開は厚生系から
(3)石を投げれば専門職にあたる
「接着剤の役割」/330人の医系技官/患者目線の看護系技官/人ではなく「モノを診る」薬系技官/壁に直面する技官の人材確保/「ホワイト職場」がライバル/働く人を守る労働基準監督官/薬物乱用防止に取り組む麻薬取締官
第3章 政策はどう決まる
厚労省最大の鬼門、年金制度/利害関係者が集まる審議会/一挙手一投足に関心が集まる年金部会/ガチンコ議論の中医協/汚職事件で権限縮小/労使が対立する労働条件分科会/崩壊した医薬品ネット販売検討会/意見が無視された生活保護基準部会/「おおむね了承」は「了承」ではない/最大の関門は与党手続き/財布のひもが堅い財務省/答弁に追われる国会審議/政治に翻弄される年金制度改革/最後は政治決着/熱気があった介護保険制度づくり/小回りが利く「事務連絡」
第4章 史上最長政権と厚労省
次々と変わった看板政策/「3年子ども抱っこし放題」への批判/「介護離職ゼロ」をめぐる混乱/泥縄の対応になった「幼児教育・保育無償化」/官邸主導が奏功した「働き方改革」/待遇格差是正を目指す「同一労働同一賃金」制度/逆らえぬ内閣人事局/官邸主導で政策立案力は低下する?
第5章 なくならない不祥事
薬害エイズ事件/「予防原則」へ発想を転換/審議会は非公開から公開へ/慎重さが求められる医薬品審査/官僚の倫理が問われた岡光事件/続いた旧社会保険庁の不祥事/保険料をつぎ込んだグリーンピア事業/公的年金制度の信頼を傷つけた年金記録問題/長引いた問題への対処/統計不正事件の不可解さ/検証作業もお粗末/統計を軽視する危うさ
第6章 人生を支える社会保障制度
「失われた相互扶助」の役割/財源不足と人手不足の壁/戦後、社会保険を基軸に発展/日本の医療保険創設は関東大震災直前/戦争遂行のため整備された年金制度/起点は「50年勧告」/憲法第25条の「生存権」/国民皆保険・皆年金を達成/公的年金の課題/現役世代と高齢者痛み分けの改革/非正規雇用への適用拡大/応能負担を強める医療保険/人材確保と費用抑制を迫られる介護保険/仕事との両立を目指す子育て支援/少子化要因を分析した98年版厚生白書/続く保育所整備と育児休業の拡大/就労の安定と働き手を増やす雇用対策/非正規雇用をどう守るか/新たな働き方を示す「キャリア権」/社会保障財源としての消費税
おわりに
参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

国民の命を守る巨大官庁の実像とは

鈴木穣

 国の中央省庁の実態は見えにくい。巨大官庁ともなればなおさらだ。本書は、毎年国家予算の三分の一を使い、約三万人の職員が働く厚生労働省の内実を紹介した。
 新型コロナウイルス感染症は対策を担う厚労省をクローズアップさせた。だが、歴史をひもとくと、厚労省という省庁は感染症との闘いのために生まれ歩んできた。
 そうした出自を持つ官庁が、時代の変化にあわせ、どう姿を変えていったのかに力点を置いて描いた。そこには時代のニーズに応える政策をどう実現して来たのか、そこで働く官僚たちの苦悩や成果が連続した地層となって重なっている。
 今、厚労省を取り巻く環境で特に強く感じる問題がある。
 中央省庁では人員が減る一方で業務量が増え、やりがいを感じられず退職する若手が増えている。ブラック職場との実態が世の中に知れ渡り、国家公務員という働き方は敬遠されだした。厚労省は、省庁の中でも過重な働き方が問題視されている。
 さらに、安倍・菅政権は官邸で政策を決め、各省庁に指示を降ろして成果をすぐに求める手法で政治主導を演出してきた。官僚任せでは進まぬ政策を、スピード感をもって実現する効果はあった一方、省庁は官邸の下請け機関のようになり、官僚たちの政策立案の力を削ぐことにもなっている。
 組織の劣化は、「本来は、さまざまなデータに当たり、現場の話を聞き、問題を設定して解決策を考える。無駄に見えるかもしれないが、こうやって政策づくりの経験値を上げていくものだ。だが、今の若手はそれをやる機会が減っている」との厚労省官僚の言葉が象徴している。
 政策立案の基礎体力を培う余裕がなくなれば不祥事も起こる。労働分野での統計不正の発覚は、官僚の質低下が招いた例であったと考えている。まともに政策が進まなければ結局、そのツケは国民に回されることを忘れてはならないだろう。本書では副題を「劣化する巨大官庁」とし、こうした構造的な問題を指摘した。
 厚労省は年金、医療、介護、子育て支援、貧困対策、雇用政策など国民生活の基盤を支える社会保障制度を担う。人生のあらゆる場面で生活に密着した省庁だ。ところが、国民全員にかかわる制度群なのに、その複雑さゆえ理解が広がっていない。どう理解を広げるかも隠れた厚労省の課題だ。本書が一助になれば幸いである。
 最終章では、各制度が抱える課題を官僚たちがどう克服しようとしているのか、その考えと処方箋に触れた。少子化と高齢化が進む社会で社会保障制度の鍛え直しは待ったなしの課題だ。最終章は、制度の支え手となる若い世代にぜひ読んでほしいと願っている。

(すずき・ゆずる 東京新聞・中日新聞論説委員/社会保険労務士)
波 2022年3月号より

薀蓄倉庫

感染症を原点として

 この2年余り、日々何度となく耳にする「厚労省」。3万人の人員を抱えるこのマンモス組織の源流は明治政府の内務省衛生部門でした。当時たびたび猛威を振るっていたコレラや結核、文明開化にともなって流入する新たな感染症に対応するのが役割で、この頃から、内務省予算の3分の1を占めていたといいます。現在は医療や介護から雇用、年金まで、国民生活全般に広く関わり、一般会計の3分の1にあたる33兆円を執行。薬害エイズなどかつてのトラウマゆえに行政判断が慎重すぎるという批判もありますが、コロナ禍が続く中、当分は世間の注目を集めそうです。

掲載:2022年2月25日

著者プロフィール

鈴木穣

スズキ・ユズル

1962(昭和37)年、静岡県生まれ。1987年、日本大学芸術学部卒。記者として生活部、政治部などを経て、2010年より厚生労働省を担当する。2022年2月現在、東京新聞・中日新聞論説委員。社会保険労務士。共著に『連鎖・児童虐待』(角川oneテーマ21)。『厚労省―劣化する巨大官庁―』が初めての単著となる。

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