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ドーパミン中毒

アンナ・レンブケ/著 、恩蔵絢子/訳

1,210円(税込)

発売日:2022/10/15

  • 新書
  • 電子書籍あり

世界的ベストセラー! 動画、ネットショッピング、酒、セックス、快楽に殺される! スタンフォード大学教授が伝授する、全ての現代人のための「依存症からの脱出法」。

人は「推し」に夢中になると昼夜を忘れ、やがて「沼」にハマってしまう。その鍵を握るのが「脳内快楽物質」ドーパミンだ。恋愛、セックス、買物、ゲーム、SNS、酒、ギャンブル、薬物……快楽をビジネスにする「ドーパミン経済」の渦中で、現代人が陥る依存の対象は数限りなくある。スタンフォード大学医学部教授で、かつて自身も依存症を経験した第一人者が教える脱出法と、心豊かに生きるための防衛術。

目次
はじめに
第I部 快楽の追求
第1章 皆のマスターベーションマシン
診療室へようこそ/ジェイコブのケース1/ジェイコブのケース2/私の依存症/資本主義のダークサイド/依存症の危険因子/ドーパミン経済/インターネットと社会的伝染/人類は自分自身を貪り食っている
第2章 苦痛からの逃走
デビッドのケース1/「幸せの追求」の蔓延――ケビンのケース/快楽主義のニューエイジ/痛みのない世界へ/退屈することの必要性――ソフィーのケース/セルフケアの欠如か精神病か?――デビッドのケース2/私たちは、なぜ幸せになれないのか
第3章 快楽と苦痛のシーソー
ドーパミン/同じ場所で処理される快楽と苦痛/耐性(神経適応)/快楽主義が「無快感症」を生む/人、場所、物/なぜ1回で元に戻ってしまうのか/シーソーはメタファーに過ぎない/ドーパミンに溺れる私たち
第II部 セルフ・バインディング
第4章 ドーパミン断ち
デリラのケース1/「データ(data)」のD/「目的(objectives)」のO/「問題(problems)」のP/デリラのケース2/「何かを断つこと・節制(abstinence)」のA/「マインドフルネス(mindfulness)」のM/「洞察(insight)」のI/「次の段階(next steps)」のN/「実験(experiment)」のE
第5章 3つの方法――空間、時間、意味
ジェイコブのケース3/セルフ・バインディング/物理的なセルフ・バインディング戦略/薬で行うセルフ・バインディング/手術で行うセルフ・バインディング/時系列的なセルフ・バインディング戦略/暇な時間が依存を増やす/ジャンル的なセルフ・バインディング戦略/意識の中で行う手品/過剰摂取からの解放
第6章 壊れてしまったシーソー?
クリスのケース1/クリスのケース2/シーソーを水平に戻すための薬?/苦痛以外に薬が取り除くもの
第III部 苦痛の追求
第7章 苦痛の側に力をかける
マイケルのケース/冷水浴はなぜ気持ちがよくなるのか/ホルミシスの科学/運動の効能/痛みを治すための痛み/デビッドのケース3/苦痛への依存/エクストリーム・スポーツの快楽/仕事に依存する/苦痛と癒し
第8章 徹底的な正直さ
人は自然に嘘をつく/マリアのケース/自覚が自己を変える/正直さと親密な人間関係/説明責任を作る「正直な自伝」/真実も嘘も伝染する/予防としての「正直な物語」
第9章 「恥」が人とのつながりを生む
破壊的恥/向社会的恥のモデルとしてのAA/向社会的恥と子育て
結論――シーソーの教訓
訳者あとがき

書誌情報

読み仮名 ドーパミンチュウドク
シリーズ名 新潮新書
装幀 brucke/イラスト、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 320ページ
ISBN 978-4-10-610969-0
C-CODE 0247
整理番号 969
ジャンル 心理学
定価 1,210円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2022/10/15

書評

「ドーパミンの沼」から「人間」を取り戻す

茂木健一郎

 人間の脳を考える上でドーパミンは最も重要な神経伝達物質の一つである。脳の「報酬系」の活動を担い、放出されると快楽を感じ、神経細胞の結合が強化される学習が進む。ドーパミンが出る方向に人間が変わっていってしまうのだ。
 ドーパミンをうまく活かせば、無限の学びを支えることができる。一方で、付き合い方を間違えると「沼」にハマり、人間として堕落していってしまう。脳内の「ドーパミン経済」においては、天国と地獄が紙一重のバランスで分かれるのだ。
 本書『ドーパミン中毒』には、依存症に陥ってしまった極端なケースが登場し、読者を驚かせる。しかし、どの事例も依存症医学の世界的な第一人者であるスタンフォード大学教授、精神科医のアンナ・レンブケが実際に出会った人たちなのだ。
 人間は、苦痛と快楽の間で揺れ動く。そのバランスのとり方を、本書は教えてくれる。その際に大切な考えが、「セルフ・バインディング」。自分自身を見つめ、客観的に観察することで、依存への安易な道をたどることを避けるのである。
 快楽は脳にとって大切だが、野放図に追い求めれば良いというものではない。運動は苦しいが、スポーツをやっていた人は薬物依存症になりにくい。快楽主義をつきつめると「無快感症」になってしまう。ギャンブルでは、負ける時にもドーパミンが上昇し、その上で勝つと大きな喜びを感じる「損失追跡」と呼ばれる現象が見られる。
 インターネットを通して「デジタルドラッグ」とも呼ばれるドーパミン系を刺激する情報が氾濫する現代において、私たちは「熱帯雨林の中のサボテン」のような状況に置かれている。かつてはそれほど存在しなかった快楽の源が生活の中にあふれているのだ。
 だからこそ、苦痛と快楽のシーソーのバランスを測り、安易な快楽の充足を避ける「セルフ・バインディング」こそが「自由になるための手段」となる。自分を正直に見つめることが人生の道を開くという本書の視点は、現代を生きるすべての読者にとって参考になることだろう。
 何よりも、自身も依存症を経験している著者の視点が温かい。「患者を好きになれなければ助けることはできない」という同僚の言葉を深く心に刻むレンブケさんの態度は、さまざまな現場で人間について考える上で大切なことが何かを教えてくれる。人との親密さを通してオキシトシンが分泌され、そのことでドーパミンが程よく放出されるという本書の記述の中に、現代人にとっての生きるヒントが隠されているように思う。
 訳文はとても読みやすく内容がすっきりと頭に入ってくる。さまざまな刺激が過多の現代文明において、「ドーパミンの沼」から「人間」を取り戻すための叡智が伝わってくる良書である。

(もぎ・けんいちろう 脳科学者)
波 2022年11月号より

著者プロフィール

1967年アリゾナ州生れ。精神科医。医学博士。スタンフォード大学医学部教授。同大学依存症医学部門メディカル・ディレクター。イエール大学を卒業後、スタンフォード大学で医学を修める。依存症医学の第一人者であり、前著Drug Dealer, MDが話題に。論文、受賞歴多数。

恩蔵絢子

オンゾウ・アヤコ

1979(昭和54)年神奈川県生れ。脳科学者。東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程を修了、学術博士。2022年5月現在、金城学院大学・早稲田大学・日本女子大学で、非常勤講師を務める。著書に『脳科学者の母が、認知症になる』、訳書に『生きがい』(茂木健一郎著)、『顔の科学』(ジョナサン・コール著、茂木健一郎監訳)がある。

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