ドーパミン中毒
1,210円(税込)
発売日:2022/10/15
- 新書
- 電子書籍あり
世界的ベストセラー! 動画、ネットショッピング、酒、セックス、快楽に殺される! スタンフォード大学教授が伝授する、全ての現代人のための「依存症からの脱出法」。
人は「推し」に夢中になると昼夜を忘れ、やがて「沼」にハマってしまう。その鍵を握るのが「脳内快楽物質」ドーパミンだ。恋愛、セックス、買物、ゲーム、SNS、酒、ギャンブル、薬物……快楽をビジネスにする「ドーパミン経済」の渦中で、現代人が陥る依存の対象は数限りなくある。スタンフォード大学医学部教授で、かつて自身も依存症を経験した第一人者が教える脱出法と、心豊かに生きるための防衛術。
訳者あとがき
書誌情報
読み仮名 | ドーパミンチュウドク |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | brucke/イラスト、新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 320ページ |
ISBN | 978-4-10-610969-0 |
C-CODE | 0247 |
整理番号 | 969 |
ジャンル | 心理学 |
定価 | 1,210円 |
電子書籍 価格 | 1,210円 |
電子書籍 配信開始日 | 2022/10/15 |
書評
「ドーパミンの沼」から「人間」を取り戻す
人間の脳を考える上でドーパミンは最も重要な神経伝達物質の一つである。脳の「報酬系」の活動を担い、放出されると快楽を感じ、神経細胞の結合が強化される学習が進む。ドーパミンが出る方向に人間が変わっていってしまうのだ。
ドーパミンをうまく活かせば、無限の学びを支えることができる。一方で、付き合い方を間違えると「沼」にハマり、人間として堕落していってしまう。脳内の「ドーパミン経済」においては、天国と地獄が紙一重のバランスで分かれるのだ。
本書『ドーパミン中毒』には、依存症に陥ってしまった極端なケースが登場し、読者を驚かせる。しかし、どの事例も依存症医学の世界的な第一人者であるスタンフォード大学教授、精神科医のアンナ・レンブケが実際に出会った人たちなのだ。
人間は、苦痛と快楽の間で揺れ動く。そのバランスのとり方を、本書は教えてくれる。その際に大切な考えが、「セルフ・バインディング」。自分自身を見つめ、客観的に観察することで、依存への安易な道をたどることを避けるのである。
快楽は脳にとって大切だが、野放図に追い求めれば良いというものではない。運動は苦しいが、スポーツをやっていた人は薬物依存症になりにくい。快楽主義をつきつめると「無快感症」になってしまう。ギャンブルでは、負ける時にもドーパミンが上昇し、その上で勝つと大きな喜びを感じる「損失追跡」と呼ばれる現象が見られる。
インターネットを通して「デジタルドラッグ」とも呼ばれるドーパミン系を刺激する情報が氾濫する現代において、私たちは「熱帯雨林の中のサボテン」のような状況に置かれている。かつてはそれほど存在しなかった快楽の源が生活の中にあふれているのだ。
だからこそ、苦痛と快楽のシーソーのバランスを測り、安易な快楽の充足を避ける「セルフ・バインディング」こそが「自由になるための手段」となる。自分を正直に見つめることが人生の道を開くという本書の視点は、現代を生きるすべての読者にとって参考になることだろう。
何よりも、自身も依存症を経験している著者の視点が温かい。「患者を好きになれなければ助けることはできない」という同僚の言葉を深く心に刻むレンブケさんの態度は、さまざまな現場で人間について考える上で大切なことが何かを教えてくれる。人との親密さを通してオキシトシンが分泌され、そのことでドーパミンが程よく放出されるという本書の記述の中に、現代人にとっての生きるヒントが隠されているように思う。
訳文はとても読みやすく内容がすっきりと頭に入ってくる。さまざまな刺激が過多の現代文明において、「ドーパミンの沼」から「人間」を取り戻すための叡智が伝わってくる良書である。
(もぎ・けんいちろう 脳科学者)
波 2022年11月号より
著者プロフィール
アンナ・レンブケ
Lembke,Anna
1967年アリゾナ州生れ。精神科医。医学博士。スタンフォード大学医学部教授。同大学依存症医学部門メディカル・ディレクター。イエール大学を卒業後、スタンフォード大学で医学を修める。依存症医学の第一人者であり、前著Drug Dealer, MDが話題に。論文、受賞歴多数。
恩蔵絢子
オンゾウ・アヤコ
1979(昭和54)年神奈川県生れ。脳科学者。東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程を修了、学術博士。2022年5月現在、金城学院大学・早稲田大学・日本女子大学で、非常勤講師を務める。著書に『脳科学者の母が、認知症になる』、訳書に『生きがい』(茂木健一郎著)、『顔の科学』(ジョナサン・コール著、茂木健一郎監訳)がある。