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デマ・陰謀論・カルト―スマホ教という宗教―

物江潤/著

858円(税込)

発売日:2022/11/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

反ワクチン、Qアノン、闇の政府、ゴム人間、守護霊、波動etc.「見たいもの」しか信じない。そんな人が増えている。

「国会議員や芸能人はゴムのマスクをかぶったゴム人間ばかり」「トランプ大統領率いる光の銀河連合が闇の政府と戦っている」etc.こんなトンデモ話、いったい誰が信じるのか。普通の人ならそう考えるが、SNS上では想像を超えるほど多くの人々が妄説を発信し続けている。かつての怪しげな新興宗教と違い、実体を伴わないからこそ恐ろしい、ネット世界のデマ、陰謀論、カルトの脅威を徹底分析。

目次
はじめに
第1章 日本中に光の戦士がいっぱい――スマホ教とは何か
すべては「闇の政府」のせいである/「光の戦士」の使命感/特別な自分になれる/傷を負うほど光り輝く/優しくて危険な唯一の居場所/「スマホ教」=被災地のスナック/やめたくてもやめられない/「遅れてきた青春」を謳歌
第2章 誰でも気軽に神と繋がれる――SNS時代のスピリチュアル
「スピ度」/不自由なほど幸せになれる/オウムから何も学んでいない/話が通じる宗教、通じない宗教/「やる気スイッチ」で読み解く/「最高のスピリチュアル・ライフ」に潜む危険/この世のすべては「波動」/ネトスピの見事な仕組み/エクササイズで宇宙と一体化/これ以上なく簡単に神と繋がれる/思考は現実化するのか/「ネトスピ」×「陰謀論」禁断のコラボ
第3章 検索すればするほどデマを信じてしまう――ネット社会の罠
中学生以下のネットリテラシー/同じ意見がこだまする閉鎖空間/「英雄」も「悪人」も自由自在/「真実」が力を失った時代/フェイクニュースほど拡散しやすい/『アンパンマンのマーチ』特攻隊起源説/旧統一教会と安倍元首相/陰謀論はドキドキしてワクワクする/世論を操作するフェイクアカウント/そして危険な世直しのリスクが生まれる/スマホ教とオウム真理教
第4章 スピリチュアルと陰謀論が出会うとき――禁断の魅力を持つスマホ教
オルグのしやすいネット社会/願望が反映されすぎる世界は危険/生きる意味を見つけられない/ビックリマンチョコで物語を消費する/「いいね!」の嵐で信者を獲得/混ぜるな危険! スピリチュアルと陰謀論/論理では太刀打ちできない最強世界
第5章 いつも心に「アンパンマン」を――わたしたちができること
あまりにも容易に生じる神秘体験/空中浮揚を笑い飛ばせなかった優等生/エリートたちをオウムへと導いたもの/スマホはいつでも「信じたい物語」を与えてくれる/自分なりの小さな物語をつくる/映画『ジョーカー』に共感した射殺犯の「物語」/スマホ教から身を守るために/「アンパンマン」の核にあるもの/捨てがたいピースさえあれば、何度でもやり直せる
おわりに
参考文献一覧

書誌情報

読み仮名 デマインボウロンカルトスマホキョウトイウシュウキョウ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610972-0
C-CODE 0236
整理番号 972
ジャンル 社会学、コミュニティ、思想・社会
定価 858円
電子書籍 価格 858円
電子書籍 配信開始日 2022/11/17

インタビュー/対談/エッセイ

実家の母が陰謀論者になってしまったら

物江潤

 もし実家の母が陰謀論者になってしまったら、あなたならどうしますか。懸命に説得、あるいは論破しようとするかもしれません。しかし、その試みはおそらく逆効果でしかないでしょう。「そういう人」とあなたとの間には想像以上に深い溝があるからです。
 ケムトレイルという言葉をご存じでしょうか。私たちの目には飛行機雲にしか見えませんが、ある種の人は、これは闇の政府が発する有害物質なのだと信じています。闇の政府は表の政府を支配する権力者集団であり、マイクロチップ入りの新型コロナワクチンで人間の奴隷化をも画策する巨悪だとされています。
 著名人たちが買い求める若返り薬には「アドレナクロム」というものがあり、これもまた、闇の政府による悪行の産物だと彼らは考えます。アドレナクロムは、恐怖した子供の脳内にある松果体から生じるため、闇の政府が子供たちを誘拐・虐待しているというのです。
 こうした闇の政府に対抗する正義の味方として、トランプ前大統領が率いる光の銀河連合が戦っていると信じる人々もいます。このように、自分たちが信じる「真実」を拡散するために、ネット上で光の戦士となった人々が、寸暇を惜しんで熱心に布教活動を展開しているのです。
 ……さて、この類の陰謀論は以前にも見られたものであり、特筆すべき現象ではないように思えます。が、スマホが普及した今、ただのトンデモ話だと一笑に付せなくなってきました。デマ・陰謀論・カルトの類とスマホとの相性が抜群である故に、気づけば実家の母が光の戦士となっていた、なんてことが現実化しているのです。
 科学的・客観的な言説よりも、人間は刺激的な物語から影響を受けるという研究が示すように、物語の持つ力は計り知れません。そしてスマホの世界は、陰謀論という名の刺激的な物語を効率よく創作・拡散する仕組みで満ちています。
 ネット上で形成される閉鎖空間、似たような考えを持つ人々が集うタコツボのようなコミュニティーに集ったユーザーから発せられる奇異な情報は、カルト宗教で見られるマインドコントロールを想起させます。しかも、この閉鎖空間で得られる情報こそが「真実」だと彼らは確信し、それを知らない市井の人々を「情報弱者」と見なします。彼ら陰謀論者からすれば、私たちのほうが無知で非常識なのです。
 本書では、スマホの普及とともに広がった、こうした脱世俗的な世界観のことを「スマホ教」と名付け、その実態を分析・解説しています。陰謀論に染まりつつある人々が身近に現れだした今、奇々怪々なスマホ教は私たちの生活とも地続きになっていて、もはや他人事ではないのです。

(ものえ・じゅん 作家)
波 2022年12月号より

蘊蓄倉庫

ちょっと笑える「おもしろ陰謀論」今昔

 世界中を賑わせた陰謀論といえば、ノストラダムスの大予言が記憶に新しいのではないでしょうか。世界滅亡、大地震といったスタンダードなものだけでなく「人間とトドを人工的に合成した新生物が出現し、ついには人類を征服する」だとか「板東英二が『世界ふしぎ発見!』を支配」するといった、ユニークすぎる予言まであったとか(『トンデモ ノストラダムス本の世界』山本弘著、洋泉社より)。ちなみに、現下の日本においては、新型コロナの株の名称であるDelta(デルタ)とOmicron(オミクロン)を並び替えるとMedia Controlとなることから、これを闇の政府からのメッセージだと解釈する人々がいるそうです。興味深いですね。

掲載:2022年11月25日

担当編集者のひとこと

ゴム人間とアンパンマン

 安倍元首相の事件を機に、旧統一教会への注目が高まっています。これをきっかけに、「カルト」とされる存在の脅威をあらためて感じた方も多いのではないでしょうか。
 こうした従来型のカルトとは別に、我々の身近には新たな脅威が生まれているのだといいます。著者の物江潤氏は、スマホやSNSを媒介として広まる陰謀論やカルト的な教えを「スマホ教」と命名し、警鐘を鳴らしています。
 
「世界を本当に支配しているのは闇の政府」
「コロナワクチンは人口削減のための生物化学兵器らしい」
「岸田首相はゴムのマスクをかぶったゴム人間である」

 普通の人なら一笑に付すような「説」を真剣に信じる老若男女が増えているというのです。
 若者だけではなく高齢者もスマホを積極的に活用するようになった結果、実際に極端な情報だけを仕入れるようになった身内との「断絶」が生まれることもあるのだとか。
 
 そして、これら陰謀論やトンデモ説と表裏一体なのが、フェイクニュースです。
 本書では、フェイクニュース拡散の仕組みについても非常に興味深い解説がなされています。
 たとえば「『アンパンマンのマーチ』特攻隊起源説」――これは、あの名曲はやなせたかし先生の特攻隊員だった弟さんへの想いから作られた、という説で、ネット上では広く読まれているものです。
 しかし、調べてみるとまったくのフェイク。では何をきっかけに、どのような経過をたどって拡散されたのか。様々な資料から読み解いた解説は、世に蔓延る大小さまざまなフェイクニュースに騙されないために、スマホやネットを日常的に使う方にはぜひご一読いただきたい内容となっております。

 オウム真理教をはじめとした、従来のカルト宗教との共通点や違いについての考察も、旧統一教会問題の脅威が世間を騒がせている今こそ読んでいただきたいトピックです。論理的思考能力の高い理系エリートがなぜ「空中浮揚」を信じてしまったのか? 友人をカルトから救おうとした優等生がなぜ逆にカルトにハマってしまったのか? 本書を読めば、「自分や家族は絶対大丈夫」と思っている方こそ危ないのだということをご理解いただけるかと思います。

2022/11/25

著者プロフィール

物江潤

モノエ・ジュン

1985(昭和60)年、福島県生まれ。早稲田大学理工学部社会環境工学科卒。東北電力、松下政経塾を経て、2024年10月現在は福島市で塾を経営する傍ら社会批評を中心に執筆活動に取り組む。著書に『空気が支配する国』『デマ・陰謀論・カルト』など。

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