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誰が農業を殺すのか

窪田新之助/著 、山口亮子/著

946円(税込)

発売日:2022/12/19

  • 新書
  • 電子書籍あり

農家が減って大変だ。遺伝子組み換えは危ない。市場開放で外資にやられる。全部ウソです。農業ジャーナリストが返り血覚悟で記した「農政の大罪」。

日本の農政は「弱者である農業と農家は保護すべき」という観念に凝り固まっており、産業として独り立ちさせようという発想が全くない。農家の減少は悪いことではない。数が減れば「やる気のある農家」が農地を持つことになって、生産性は上がるのだ。一方で、あまりにも内向きで国際的な趨勢についていけない対応が理由で、米価が中国の先物市場で決まってしまう未来も見えてきた。農業ジャーナリストが返り血覚悟で記した「農政の大罪」。

目次
はじめに
第一章 中韓に略奪されっぱなしの知的財産
1 中国の“フルーツのトップスター”はなぜ愛媛生まれなのか
2 “意識高い系”が反対した種苗法改正
3 知的財産権を軽視する農業界の重鎮たち
4 種苗は海外展開で守れ
第二章 「農産物輸出5兆円」の幻想
1 農水省が自賛する「輸出1兆円」の呆れた実態
2 ズレすぎ! 上海の高級料理店でパックご飯をアピール
3 輸出すべきは農産物より知的財産
第三章 農家と農地はこれ以上いらない
1 農家が減れば農業は強くなる
2 減反政策で失われた国際競争力
3 耕作放棄地問題は農水省のマッチポンプ
第四章 「過剰な安心」が農業をダメにする
1 「有機25%」というありえない国家目標
2 「有機0・6%」の現状には理由がある
3 遺伝子組み換え作物こそ、最も安全な食べ物である
第五章 日本のコメの値段が中国で決まる日
1 JAに潰されたコメの先物市場
2 先物市場を国策として推進する中国
第六章 弄ばれる種子
1 「日本の農業がグローバル企業に乗っ取られる」という大ウソ
2 「奨励品種」という排除の論理
第七章 農業政策のブーム「園芸振興」の落とし穴
1 コメを敵視してきた秋田県知事の変節
2 高知県がうまくいっている理由
第八章 「スマート農業」はスマートに進まない
1 農業アプリの開発責任者が利益相反で解任されたスキャンダル
2 「スマート農業」の本質はデータにあり
3 ロボットを使うと効果がマイナスの場合も
おわりに
主要参考文献 初出一覧

書誌情報

読み仮名 ダレガノウギョウヲコロスノカ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-610976-8
C-CODE 0261
整理番号 976
ジャンル 農学
定価 946円
電子書籍 価格 946円
電子書籍 配信開始日 2022/12/19

蘊蓄倉庫

遺伝子組み換え作物は、最も安全な食べ物である

 日本では遺伝子組み換え作物に対して根強い不信感がありますが、日本で輸入、流通、栽培できる遺伝子組み換え作物は、法律によって厳密に安全性が担保されています。食品なら食品衛生法と食品安全基本法、飼料なら飼料安全法と食品安全基本法、環境への影響(生物多様性)にはカルタヘナ法があり、これらの法律をクリアしたものしか認められないのです。
 一方で、通常の育種技術によって生み出される作物と食品には、これほど厳密な審査は求められません。その意味で、遺伝子組み換え作物や食品こそ、「科学的に最も安全が担保された食べ物」と言えます。

掲載:2022年12月23日

担当編集者のひとこと

農政の常識はウソだらけ

 日本の農政は「弱者である農業と農家は保護すべき」という観念に凝り固まっており、産業として独り立ちさせようという発想が全くありません。あらゆる政策がそうした発想から作られているため、しばしば相互に矛盾した政策が繰り出されることになります。

 農政の界隈では、「農家の減少は大問題だ」「耕作放棄地が増えて大変だ」という議論が常に言われていますが、日本の主要作物であるコメについては減反政策をとっているわけですから、農家の減少も耕作放棄地の増加もその当たり前の結果に過ぎません。それどころか、「やる気のある農家」が耕作地を担うようになれば、農業の効率性も生産性もあがります。実際、やる気のある農家が耕作地をどんどん引き受け「大規模化」するという流れは続いています。「産業」としての農業にとっては、農家の減少は「いいこと」のはずなのです。なのに、いまでも補助金を出して就農者を支援するような政策があちこちで行われ、農業の「産業化」の邪魔をしています。

 日本政府は農産物の輸出額を2030年までに5兆円にするという目標も掲げていますが、もしこうした目標に本気で取り組むなら「減反」なんてやっている場合ではないはずです。輸出振興のベースになるのは、産業を特定の方向に誘導するような政策ではなく、農家の自由な創意を引き出し、産業として独り立ちさせる環境の整備でしょう。しかし、農政が実際にやっているのは、チョコレートやらソースやらといった加工品までも「農林水産物・食品」というカテゴリーにカウントして、「2021年には輸出1兆円を達成しました!」と騒ぎたてること。しかも、輸出振興策の現場を見ると、パックご飯を上海の高級料理店に売り込むような「ズレすぎ」の対応の連続なのです。

 日本の農政が国際的な流れと隔絶した対応を続けている中、実は米価が今後、中国の先物市場で決まっていくかも知れない未来も見えてきました。日本ではコメの先物市場はJAなどの反対によって潰されましたが、中国の先物市場は中国のみならず、東アジア全体の米価の基準を示す場になっていく可能性が高いからです。
「弱者の代理人」然として既得権益を手放さない利益団体や関係者によって、農業政策が「ガラパゴス化」しており、それがさまざまな形で農業の発展を阻害し、さらに産業としての競争力を弱めガラパゴス化を促進する、という悪循環が続いています。

 本書では徹底的に現場の様子を活写することによって、農業政策の矛盾、ズレ、非効率、現実離れした言説のウソ、などをあぶり出していきます。ご一読頂ければ幸いです。

2022/12/23

著者プロフィール

窪田新之助

クボタ・シンノスケ

農業ジャーナリスト。日本農業新聞記者を経て2012年よりフリー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『データ農業が日本を救う』『農協の闇』など。

山口亮子

ヤマグチ・リョウコ

ジャーナリスト。愛媛県生まれ。京都大学文学部卒。中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリーに。共著に『誰が農業を殺すのか』『人口減少時代の農業と食』などがある。雑誌や広告の企画編集やコンサルティングなどを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。

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