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患者が知らない開業医の本音

松永正訓/著

880円(税込)

発売日:2023/01/18

  • 新書
  • 電子書籍あり

いい医者の選び方、お金と経営のリアル、鼻血、難病、クレーマー。すべて書きました! 涙と笑いのドキュメント。

まさかの脳動脈瘤発症、大学病院で働けなくなった著者に残された道は「開業医」だった。貯金少なめ、経営知識ゼロでどうする? 飛び込むとそこは開業医だけが知る医療のワンダーランド。患者の取り合い、鼻血から小児難病まで、クレーマー、高額な医師会費、コロナで収入激減。「よう、儲かってる?」なんて聞かないで――。医師の実力とは、と問い続けながら日々奮闘する舞台裏を、ユーモアを交えて明かす。

目次
はじめに
1 40歳、大学病院を去ることに
千葉大学小児外科での19年/インパクトファクター/これってヤバい頭痛?/「夜の勤務はダメ」
2 「残念ですが、ポストが空いていません」
医師から科学者に?/数学は一番苦手/足掻いても成果は出ず
3 貯金200万で開業できる?
開業医になるという選択肢/妻は大賛成/リース会社って何?/「建て貸しはどうですか?」
4 「ここに建てよう」妻が指差したのは
候補地は3か所/家賃相場は1坪1万円/営業部長が「じゃあ、どこがいいんです?」/住民から反対の声/設計図も自分で
5 30人の教授に決意の手紙
大切な電子カルテ/ホームページに論文一覧/ついにクリニックが完成/こだわった院長室の机/開業初日の患者数は……
6 開業医になって驚いた
開業初日に麻疹患者/「風邪」の中に多くの喘息が/「朝一回くしゃみをしたんです」/これ「お医者さんごっこ」では?/「鼻血が止まりません!」
7 「この子、死ぬんじゃないか?」救急車に同乗
最も死に近づいたケース/悲しい知らせ/看護師の機転で再診
8 医局員と院長、どっちが楽しい?
「教授スタイル」は大失敗/晩酌ができる……/年間100冊読む/「『できません』と言うな」/同僚がいないさみしさ/東大小児外科のHK先生
9 医師会は「弱小圧力団体」?
医師会をめぐる誤解/会員は自民党を応援すべきか/会費42万円で得るメリット/ワクチンの定期接種/持病と当番医の問題
10 クリニック名はどうすべきか
「こどもクリニック」への懸念/頭部外傷を嫌がる脳外科/10秒で「白血病だ」/遠方から来る子どもたち/火傷を負ったら何科に?/子どもを痛がらせてはいけない
11 小児科と耳鼻科の微妙な関係
お母さん方の迷い/お薬手帳を見て驚愕/中耳炎患者を紹介すると……/小児科医が我流に陥らない理由/小児クリニックを入り口に
12 大学病院でやり残したこと
16年経っても見る「夢」/目指すはシドニー/アポ無し突撃が奏功/「お前を遊ばせておくわけにはいかない」/2度目のチャンス/若い読者の皆さんへ
13 頼まれ仕事はするもんじゃない
日本で初めての死体肝移植/「ゲダンケンガング」/国立がんセンターからの依頼/脳内出血を起こすかも
14 やってきました、クレーマー
「医者として許されるのか」/保健所から電話が/弁護士登場/直接対決のとき/弁護士が残していった「投書」
15 クリニックの選び方、教えます
グーグルのクチコミはあてにならない/ホームページで何が分かるか/医師にするべき質問/最新医療機器があるクリニック
16 「よう、儲かってる?」
同門会に行かなくなった/年収7000万円の内科開業医/リースと借入金の使い道は/開業3年目にベンツ/自分が病気になるリスク/「開業医が失敗しない理由」
17 小児医療はなかなか難しい
何倍にもなった親の愛情/小児クリニックは夏が厳しい/収入39%減/小児医療の抱える課題
18 自由な時間をどう使うか
開業医は勉強しない?/ゴージャスな開業医たち/よし、書いてみよう/13トリソミーの子の主治医に/障害を生きる/障害児が通えるクリニック/発達障害という難問/患者激減の「いいこと」/「困っている」人を助けたい
19 医師としての実力
いい医者ってなんだ?/突然泣き始めた母親/患者と目を合わせないの?/「誠実さ」は医療の基盤/95%は診断に悩まない疾患
あとがき

書誌情報

読み仮名 カンジャガシラナイカイギョウイノホンネ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-610982-9
C-CODE 0247
整理番号 982
定価 880円
電子書籍 価格 880円
電子書籍 配信開始日 2023/01/18

インタビュー/対談/エッセイ

「開業医は成功者のイメージ」ってホント?

松永正訓

 ちょっと驚いてしまった。と言うのは、本書を作っている途中で編集者から「開業医には成功者のイメージがある」と聞かされたからだ。
 いやいやいや、それはない。みなさんはそんなふうに思っているのかな? 開業医になって16年。ぼくは自分のことを成功者と思ったことは一度もない。
 WEB記事にはこんな言葉もあった。「勤務医=過酷で安い給料、開業医=楽そうでお金持ち」であると。なるほど、それが世間の印象なんですね。これに関してはそれなりに当たっている。
 確かに勤務医の生活は過酷で、ぼくが大学病院で働いていたときは、勤務時間にけじめがなかった。おまけに安月給で生活はアルバイトで成り立っていた。こんなブラック企業はちょっとない。
 妻は、ぼくがいつか過労死するのではないかと不安だったらしい。その直感はほぼほぼ現実になり、40歳のときにぼくは解離性脳動脈瘤で倒れた。死ななくて済んだのはよかったけど、この病気でぼくのライフプランは卓袱台をひっくり返したように白紙になった。クビになったわけではないが、大学病院を辞めざるを得なくなったのだ。
 必死のジョブハンティングの末に辿り着いた結論は、開業医になるという道だった。しかし20年近く象牙の塔にこもっていたぼくは、経営の「いろはのい」も知らなかった。おまけに開業医になるということは、ぼくにとって「恥ずかしい」ことだった。だって大学病院からすれば無用の人間になってしまったわけだから。
 クリニックを作ったとき、目立つのが恥ずかしくて大きな看板を発注することができなかった。玄関に取り付けた看板はあまりにも小さ過ぎて、遠目では文字が読めなかった。業者さんも「これはいくら何でも……」と呆れ、二回り大きいものを作り直すことになった。出費2倍でアホである。
 大学病院時代と比べて確かに収入は増えたけど、では、楽かと聞かれるとそれはちょっと違う。勤務時間が大幅に短くなったのは事実だが、苦労は山ほどしている。
 くしゃみを1回しただけの患者も来るし、白血病の患者も来る。おまけにクレーマーも来る(来なくていい)。開業17年目を迎えても、未だにこの仕事になれないし、自信がない。
 開業医として、もし何かを成し遂げることができたら自分を成功者と褒めるところだが、そんな気配はまるでない。昨日も今日も悪戦苦闘である。そしてまた明日も同じだろう。でも、自分で自由に使える時間を手に入れて、少し心に余裕ができた。このことは本当によかった。
 そんな開業医の舞台裏を本音で書いてみた。きっとおもしろく読んでもらえるだろう。そこはちょっと自信がある(笑)。

(まつなが・ただし 医師・作家)
波 2023年2月号より

著者プロフィール

松永正訓

マツナガ・タダシ

1961(昭和36)年東京都生まれ。千葉大学医学部卒業、小児外科医に。同大附属病院で小児がんの治療・研究に携わる。2006年、「松永クリニック小児科・小児外科」開業。著書に『運命の子 トリソミー』(第20回小学館ノンフィクション大賞)『患者が知らない開業医の本音』等。

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