ホーム > 書籍詳細:ボブ・ディラン

ボブ・ディラン

北中正和/著

836円(税込)

発売日:2023/02/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

何がそんなに凄いのか? なぜノーベル文学賞なのか? いつまでツアーは続くのか? 「最重要アーティスト」の本質がわかる決定版!

代表曲「風に吹かれて」から60年。ノーベル文学賞を受賞した唯一のミュージシャン、ボブ・ディランは、80歳を過ぎた今なおコンサートツアーと創作活動を続けている。底知れぬエネルギーと独創性、ときに剽窃まがいと批判を受けても、なぜ彼の詞と音楽は時代もジャンルも越えて高く評価されるのか――ポピュラー音楽評論の第一人者が、数々の名曲の歴史的背景を分析、「ロック界最重要アーティスト」の本質に迫る。

目次
はじめに
序章 デビューから60年を過ぎて
「百万メガトンの爆弾」/フォークのプリンス/ロックへの転身/半隠遁生活/ローリング・サンダー・レヴュー/ゴスペル三部作/3000回超のコンサート/ブートレッグ・シリーズ/ピュリッツァー賞、ノーベル賞……
第1章 「風に吹かれて」の衝撃
いきなりの大抜擢/公民権運動/黒人霊歌とカトリック聖歌の影響/難しい言葉は出てこないが/ポピュラー音楽初の「鋭い問いかけ」
第2章 政治・社会に関わる2つの重要曲
63年発表『フリーホイーリン』/民謡が下敷きの「はげしい雨が降る」/「核」との関連は否定/ブライアン・フェリー、パティ・スミス……/軍産複合体に反対する「戦争の親玉」/エド・シーランもカヴァー
第3章 1つの金字塔「ライク・ア・ローリング・ストーン」
一段と増した歌の深み/ひとときの休息を願う「自由の鐘」/「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」/ヴィデオ・クリップの元祖的作品/「ミスター・タンブリン・マン」/ロック史上最重要曲の1つ/あふれる批判の中で/「どんな気持ちがする?」/1965年に何が起こったか
第4章 ブルース・シンガーとしてのボブ・ディラン
最初の録音はベラフォンテ作品?/ビッグ・ジョー・ウィリアムス/「朝日のあたる家」/デビュー・アルバムの過半が黒人音楽/黒人霊歌/貧しい黒人と貧しい白人/レコーディングの提案/ロバート・ジョンソンの影響/一貫して重要な要素/ジミ・ヘンドリックスの言葉
第5章 フォークの父ウディ・ガスリーとの出会い
オバマ就任記念式典/ウディ・ガスリーに憧れて/「ジス・ランド・イズ・ユア・ランド」/トーキング・ブルース/「凡庸な歌はひとつもなかった」/アメリカのルーツ・ミュージック/ビートルズへの影響も
第6章 スタンダードの巨人フランク・シナトラとの接点
「このクソは何だ」/評価が逆転した『セルフ・ポートレイト』/2015年『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』/ビング・クロスビーとシナトラ/ボビー・ソクサー/ディランの歌唱力/往年の曲の素顔/しわだらけの農夫の声/転換点は65年/お気に入りは「いつまでも若く」
第7章 「ネヴァー・エンディング・ツアー」はいつまで続く
「もうわたしの時代は終わった」/居心地の悪さ?/80年代をしめくくる名作『オー・マーシー』/異例ずくめの共同作業/試行錯誤の連続/ナッシュヴィルのミュージシャンたち/発売時期がずれ込んだ『血の轍』/「ブルーにこんがらがって」の変遷/芸能のあり方の枠を広げる
第8章 ボブ・ディランは剽窃者なのか?
「文学者」という新しいレッテル/先行者に対する敬意/剽窃論争への回答/労働者の歌に古代ローマの詩/「北国の少女」と「スカボロー・フェア」/「先立つものがあったんだ」/個人的な体験や感想の吐露/すべてに終わりがある/「上を向いて歩こう」のハミング
おわりに 主要参考文献

書誌情報

読み仮名 ボブディラン
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610986-7
C-CODE 0273
整理番号 986
ジャンル 音楽
定価 836円
電子書籍 価格 836円
電子書籍 配信開始日 2023/02/17

インタビュー/対談/エッセイ

なぜボブ・ディランは学生街で流れていたのか

北中正和

 1972年に発表されたGAROの「学生街の喫茶店」はフォーク/青春歌謡の定番曲としておなじみだ。歌は主人公の学生時代の回想からはじまる。場所はボブ・ディランの音楽が流れる喫茶店。その片隅で彼はよくガールフレンドと他愛のない話をして過ごした。しかし歳月は止まってくれない。時を経て店を再訪すると、人も音楽も変わっていた。別れてから愛していたことに気づいた彼女の消息はわからないまま……。
 歌詞では説明されないが、主人公が店の常連だった1960年代後半は学生運動がさかんな時期だった。店でボブ・ディランが流れていたという設定は、彼の音楽が当時のカウンター・カルチャーの象徴と思われていたからだ。
 この歌詞がもしボブ・ディランでなくビートルズだったらどうか。ビートルズもまた当時のカウンター・カルチャーの先導者だった。しかも街に流れていた音楽は、ボブ・ディランよりビートルズのほうが圧倒的に多かった。しかしここでビートルズにすると、当り前すぎて、主人公の少し屈折した気持は表現できなかっただろう。
 ボブ・ディランは批評性に富む詩的な歌で「フォークのプリンス」「若者の代弁者」「時代の預言者」などと呼ばれ、エレキ・ギターを持つようになってからは、フォークの形骸化にも警鐘を鳴らすなど、変革や反骨の人として知られていた。
 実はボブ・ディランは世間から貼り付けられたそんなイメージから逃れようと、1970年前後にはわざとカントリーをやったり、カヴァー・アルバムを出したり、ライヴを休んだりしていた。しかしイメージはいったん刻印されると、容易には覆せない。彼が7年前にノーベル文学賞を受賞して驚いた人が多かったのは、ミュージシャンの受賞ということに加え、彼に対する世間のイメージが昔のままだったことも大きい。
 新潮新書で『ビートルズ』の本を出した後、『ボブ・ディラン』を書くことになったとき、真っ先に思ったのは、情報を更新しながら、なぜボブ・ディランの音楽が高く評価され続けてきたのかを考えられる入門書にしたいということだった。
 彼の歌には、ギリシャやローマの詩人、シェイクスピアエドガー・アラン・ポーアルチュール・ランボーから佐賀純一まで、さまざまな人の作品の影がこだましている。彼はそれをフォーク、ブルース、ロック、ポップ、ジャズなど多彩な伝統音楽の要素とシャッフルして、別次元の万華鏡のような物語を作りあげてきた。80歳を超えてなおコンサート・ツアーを続け、いぶし銀のようなダミ声で現代の叙事詩をうたい続けるボブ・ディラン。ともすれば難解と思われがちだが、実は耳に残りやすい曲が多い。来日公演も近い。この本が少しでも彼の音楽を楽しむ手がかりになれば幸いだ。

(きたなか・まさかず 音楽評論家)
波 2023年3月号より

蘊蓄倉庫

スタンダードの巨人フランク・シナトラとの接点

 フランク・シナトラといえば、今の日本では一般的には、「マイ・ウェイ」の人という認識でしょう。一方、「反逆者」「若者の代弁者」のイメージが強いボブ・ディランはポップ・スタンダードに背を向けてデビューした人ですから、シナトラとの関係が深いとは思えないのですが、ディランはシナトラの歌をたびたび取り上げています。「スタンダードをうたうなら、まずフランク・シナトラのことが浮かぶ。彼はそびえたつ山のようなものだから」とシナトラを高く評価していたのです。シナトラもそんなディランを気に入っていたようで、自身の80歳を祝うテレビ番組にディランを招待し、自宅のパーティーにも招いていたそうです。

掲載:2023年2月24日

著者プロフィール

北中正和

キタナカ・マサカズ

1946(昭和21)年奈良県生まれ。京都大学理学部卒業。音楽評論家。日本ポピュラー音楽学会、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。『ビートルズ』『ロック史』『毎日ワールド・ミュージック』『にほんのうた』『「楽園」の音楽』など著書多数。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

北中正和
登録
音楽
登録

書籍の分類