ボブ・ディラン
836円(税込)
発売日:2023/02/17
- 新書
- 電子書籍あり
何がそんなに凄いのか? なぜノーベル文学賞なのか? いつまでツアーは続くのか? 「最重要アーティスト」の本質がわかる決定版!
代表曲「風に吹かれて」から60年。ノーベル文学賞を受賞した唯一のミュージシャン、ボブ・ディランは、80歳を過ぎた今なおコンサートツアーと創作活動を続けている。底知れぬエネルギーと独創性、ときに剽窃まがいと批判を受けても、なぜ彼の詞と音楽は時代もジャンルも越えて高く評価されるのか――ポピュラー音楽評論の第一人者が、数々の名曲の歴史的背景を分析、「ロック界最重要アーティスト」の本質に迫る。
書誌情報
読み仮名 | ボブディラン |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610986-7 |
C-CODE | 0273 |
整理番号 | 986 |
ジャンル | 音楽 |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 836円 |
電子書籍 配信開始日 | 2023/02/17 |
インタビュー/対談/エッセイ
なぜボブ・ディランは学生街で流れていたのか
1972年に発表されたGAROの「学生街の喫茶店」はフォーク/青春歌謡の定番曲としておなじみだ。歌は主人公の学生時代の回想からはじまる。場所はボブ・ディランの音楽が流れる喫茶店。その片隅で彼はよくガールフレンドと他愛のない話をして過ごした。しかし歳月は止まってくれない。時を経て店を再訪すると、人も音楽も変わっていた。別れてから愛していたことに気づいた彼女の消息はわからないまま……。
歌詞では説明されないが、主人公が店の常連だった1960年代後半は学生運動がさかんな時期だった。店でボブ・ディランが流れていたという設定は、彼の音楽が当時のカウンター・カルチャーの象徴と思われていたからだ。
この歌詞がもしボブ・ディランでなくビートルズだったらどうか。ビートルズもまた当時のカウンター・カルチャーの先導者だった。しかも街に流れていた音楽は、ボブ・ディランよりビートルズのほうが圧倒的に多かった。しかしここでビートルズにすると、当り前すぎて、主人公の少し屈折した気持は表現できなかっただろう。
ボブ・ディランは批評性に富む詩的な歌で「フォークのプリンス」「若者の代弁者」「時代の預言者」などと呼ばれ、エレキ・ギターを持つようになってからは、フォークの形骸化にも警鐘を鳴らすなど、変革や反骨の人として知られていた。
実はボブ・ディランは世間から貼り付けられたそんなイメージから逃れようと、1970年前後にはわざとカントリーをやったり、カヴァー・アルバムを出したり、ライヴを休んだりしていた。しかしイメージはいったん刻印されると、容易には覆せない。彼が7年前にノーベル文学賞を受賞して驚いた人が多かったのは、ミュージシャンの受賞ということに加え、彼に対する世間のイメージが昔のままだったことも大きい。
新潮新書で『ビートルズ』の本を出した後、『ボブ・ディラン』を書くことになったとき、真っ先に思ったのは、情報を更新しながら、なぜボブ・ディランの音楽が高く評価され続けてきたのかを考えられる入門書にしたいということだった。
彼の歌には、ギリシャやローマの詩人、シェイクスピア、エドガー・アラン・ポー、アルチュール・ランボーから佐賀純一まで、さまざまな人の作品の影がこだましている。彼はそれをフォーク、ブルース、ロック、ポップ、ジャズなど多彩な伝統音楽の要素とシャッフルして、別次元の万華鏡のような物語を作りあげてきた。80歳を超えてなおコンサート・ツアーを続け、いぶし銀のようなダミ声で現代の叙事詩をうたい続けるボブ・ディラン。ともすれば難解と思われがちだが、実は耳に残りやすい曲が多い。来日公演も近い。この本が少しでも彼の音楽を楽しむ手がかりになれば幸いだ。
(きたなか・まさかず 音楽評論家)
波 2023年3月号より
蘊蓄倉庫
スタンダードの巨人フランク・シナトラとの接点
フランク・シナトラといえば、今の日本では一般的には、「マイ・ウェイ」の人という認識でしょう。一方、「反逆者」「若者の代弁者」のイメージが強いボブ・ディランはポップ・スタンダードに背を向けてデビューした人ですから、シナトラとの関係が深いとは思えないのですが、ディランはシナトラの歌をたびたび取り上げています。「スタンダードをうたうなら、まずフランク・シナトラのことが浮かぶ。彼はそびえたつ山のようなものだから」とシナトラを高く評価していたのです。シナトラもそんなディランを気に入っていたようで、自身の80歳を祝うテレビ番組にディランを招待し、自宅のパーティーにも招いていたそうです。
掲載:2023年2月24日
著者プロフィール
北中正和
キタナカ・マサカズ
1946(昭和21)年奈良県生まれ。京都大学理学部卒業。音楽評論家。日本ポピュラー音楽学会、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。『ビートルズ』『ロック史』『毎日ワールド・ミュージック』『にほんのうた』『「楽園」の音楽』など著書多数。