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東京大学の式辞―歴代総長の贈る言葉―

石井洋二郎/著

924円(税込)

発売日:2023/03/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

知は力。平賀譲●南原繁●矢内原忠雄●大河内一男●有馬朗人●吉川弘之●蓮實重彦●安藤忠雄●上野千鶴子……。時代を超えて紡がれる「言葉」。

明治十年の創立から東京大学は常に学問の中心としてあり続けた。大震災、戦争、大学紛争、国際化――その歩みはまさに日本の近現代史と重なり合う。時代の荒波の中で、歴代の総長たちは何を語ってきたのか。名式辞をめぐる伝説、ツッコミどころ満載の失言、時を超えて紡がれる「言葉」をひとつずつ紐解く。南原繁から矢内原忠雄、蓮實重彦まで、知の巨人たちが贈る、未来を生きる若者たちへの祝福と教訓!

目次
はじめに
第1章 富強の思想、愛国の言葉(一八七七-一九三八)
明治維新後、ほどなく創設された東京大学。国力を高め、欧米列強に伍するために学問が果たすべき使命とは――日清・日露をはじめ「戦争の時代」を目前に語られたこと。
第2章 戦争の荒波に揉まれて(一九三八-一九四五)
一身を君国に捧ぐるの覚悟を――皇国史観に揺れる学問の府と、命を散らす学徒。日中戦争勃発から太平洋戦争、そして敗戦まで。色濃く映し出された、あの時代の空気とは。
第3章 国家主義から民主主義へ(一九四五-一九五一)
新憲法がもたらした戦後民主主義。女子学生の入学、新制大学への移行など大学のあり方が一新される一方で、講和をめぐり南原総長の理想と政治権力という現実が衝突する。
第4章 平和と自由のために尽くす人となれ(一九五一-一九五七)
講和によって日本は自主独立を取り戻し、大学は「国策大学」から「国立大学」へと姿をあらためる。平和主義、学問の自由、そして大学の自治を問い直す矢内原総長の信念。
第5章 肥った豚よりも痩せたソクラテス?(一九五七-一九六八)
東大籠城事件やデモ隊の国会突入など六〇年安保闘争の騒乱の中、大学教育の真価が問われる。長く語り伝えられてきた大河内総長の「名式辞」の真実とは。
第6章 ノブレス・オブリージュ、国際人、多様性(一九六八-一九八五)
「高き身分の者に伴う義務」を負い、「よくできる人」より「よくできた人」に――学生紛争が終わり、大学自体が大衆化していく転換期、求められる人材像にも変化が起きる。
第7章 あらゆる学問分野の連携を(一九八五-一九九三)
バブルの狂躁、冷戦終結など国内外とも情勢は大きく変わる。気候変動をはじめ人類規模の問題と学問はどう向き合うか。突っ込みどころ満載の言葉から次代への正論まで。
第8章 未来へ伝達すべきもの(一九九三-二〇〇一)
東大の式辞は、矛盾と葛藤に満ちた日本の近現代史と見事に重なりあう。阪神・淡路大震災を経て、二十世紀の終わりに二人の総長が贈った未来への「祝福」とは――。
補章 いま君たちはどう生きるか(来賓の祝辞から)
独創力、人間力、想像力、ノブレス……安藤忠雄、ロバート キャンベル、上野千鶴子ら近年話題になった三氏の祝辞が示した、若者たちへの熱いメッセージ。
おわりに
主要参考文献
脚注
東京大学の式辞関連年表

書誌情報

読み仮名 トウキョウダイガクノシキジレキダイソウチョウノオクルコトバ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-610988-1
C-CODE 0237
整理番号 988
ジャンル 教育学、語学・教育
定価 924円
電子書籍 価格 924円
電子書籍 配信開始日 2023/03/17

インタビュー/対談/エッセイ

式辞の変遷に見る日本の近現代史

石井洋二郎

 毎年、大学の卒業式や入学式の季節になると、そこで語られた式辞の内容がしばしば話題になる。中でも東京大学総長のそれは、良くも悪くもとかく注目されがちである。
 今回、1886年から1997年までの式辞を収めた『東京大学歴代総長式辞告辞集』を通読してみて、折々に語られた言葉が歴史の流れといかに密接に関わってきたかを実感した。
 近代化をめざして富国強兵にひた走った明治時代から、無謀な戦争に向かって突き進んだあげくに敗戦を迎え、戦後民主主義から高度経済成長へ、そして安保闘争から大学紛争へと混乱の続いた昭和時代を経て、バブルの狂躁と崩壊にいたる平成時代まで、歴代総長の式辞にはまさに日本の近現代史が色濃く影を落としている。
 特に印象深かったのは、太平洋戦争の前後に、何人かの総長たちがひたすら天皇を賛美し、愛国心を鼓舞する国粋主義的な式辞を述べていたことである。「諸君の多数はまた、遠からず皇軍に召されて、入営出征の光栄を担ふことにもならうと思ひます」(平賀譲)とか、「今こそ諸君は直接軍務につき、思ふ存分尽忠報国の誠を効すの光栄を荷ひ得ることとなり」(内田祥三)といった言葉が学問の府を代表する人間の口から発せられるのをまのあたりにすると、当時の社会を覆っていたどす黒い空気が紙面から漂ってくるようで、こちらまで息苦しくなってくる。
 これにたいして、戦後の復興期に総長を務めた南原繁や矢内原忠雄の式辞には、学問の自由と大学の自治を重んじる姿勢が明確に謳われており、文章もさすがに格調が高い。「虐げる者となることなく、虐げられた者を救ふ人となれよ。諸君の生涯を高貴なる目的のためにささげよ」(矢内原忠雄)といった言葉に触れると、その凜然たる語り口に思わず背筋が伸びる思いがする。
 もっとも、東京大学の総長だからといって皆が皆、立派なことばかり語ってきたわけではない。中には眉をひそめたくなるような失言のたぐいも少なからず含まれている。特に今日から見るとジェンダー平等の理念に抵触するような発言がしばしば見られるので、そうした箇所については本書でも遠慮なく指摘しておいた。
『式辞告辞集』に収録されているのは第二十六代総長・蓮實重彦の1997年入学式式辞までなので、その後の総長式辞は扱っていないが、最近は来賓の祝辞もネットでとりあげられる機会が多くなったので、本書では安藤忠雄ロバート キャンベル、上野千鶴子の三氏の祝辞を最後の「補章」でとりあげた。いずれも今日を生きる若者たちにとってのみならず、すべての人々にとって有益な示唆を含んだメッセージばかりなので、あわせて読んでいただければ幸いである。

(いしい・ようじろう 東京大学名誉教授・中部大学特任教授)
波 2023年4月号より

蘊蓄倉庫

東京大学は四度正式名称が変わった

 東京大学は1877年の創立後、1886年に「帝国大学」、1897年に「東京帝国大学」と名称を変更しています。初代総長の渡辺洪基から第五代総長の菊池大麓まで、創立当初の総長はいずれも当時の政界・官界の要職を歴任した政治家たちです。「帝国」と名の付く通り、当時の東京大学は明治政府と一体であったことは推測するに難くありません。その後、日本の敗戦を受け、戦後にふたたび「東京大学」、1949年には新制東京大学が発足、2003年(平成15年)の国立大学法人法制定以降は「国立大学法人東京大学」となって現在に至ります。

掲載:2023年3月24日

担当編集者のひとこと

東京大学の式辞は時代を映す鑑だった

 毎年東京大学の卒業式・入学式では総長による式辞が読まれます。これは大学創立時から長く続くもので、近年では入学式のゲストスピーカーによる祝辞もたびたび大きな話題になっています。大震災・戦争・大学紛争・国際化――時代の節目で、東大総長たちは学生にどんな言葉を贈ったのか。知られざる名演説はもちろん、ツッコミどころ満載の失言まで、時代を超えてなお生き続ける「言葉」の重みを実感させられます。
 本書『東京大学の式辞―歴代総長の贈る言葉―』はスピーチ集であり、日本近現代史をたどる歴史書であり、そしてこれからの未来を生きる若者たちへの祝福と教訓が詰まった「手紙」でもあります。心揺さぶられる言葉の数々は、きっと読者のこれからの人生の糧になるはずです。

2023/03/24

著者プロフィール

石井洋二郎

イシイ・ヨウジロウ

1951(昭和26)年東京都生まれ。専門はフランス文学・思想。東京大学教養学部長、副学長などを務め、2023年3月現在中部大学特任教授、東京大学名誉教授。『ロートレアモン 越境と創造』など著書多数。2015年に教養学部の学位記伝達式で読んだ式辞が大きな話題になった。

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