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東京大学の式辞―歴代総長の贈る言葉―
924円(税込)
発売日:2023/03/17
- 新書
- 電子書籍あり
知は力。平賀譲●南原繁●矢内原忠雄●大河内一男●有馬朗人●吉川弘之●蓮實重彦●安藤忠雄●上野千鶴子……。時代を超えて紡がれる「言葉」。
明治十年の創立から東京大学は常に学問の中心としてあり続けた。大震災、戦争、大学紛争、国際化――その歩みはまさに日本の近現代史と重なり合う。時代の荒波の中で、歴代の総長たちは何を語ってきたのか。名式辞をめぐる伝説、ツッコミどころ満載の失言、時を超えて紡がれる「言葉」をひとつずつ紐解く。南原繁から矢内原忠雄、蓮實重彦まで、知の巨人たちが贈る、未来を生きる若者たちへの祝福と教訓!
主要参考文献
脚注
東京大学の式辞関連年表
書誌情報
読み仮名 | トウキョウダイガクノシキジレキダイソウチョウノオクルコトバ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-610988-1 |
C-CODE | 0237 |
整理番号 | 988 |
ジャンル | 教育学、語学・教育 |
定価 | 924円 |
電子書籍 価格 | 924円 |
電子書籍 配信開始日 | 2023/03/17 |
インタビュー/対談/エッセイ
式辞の変遷に見る日本の近現代史
毎年、大学の卒業式や入学式の季節になると、そこで語られた式辞の内容がしばしば話題になる。中でも東京大学総長のそれは、良くも悪くもとかく注目されがちである。
今回、1886年から1997年までの式辞を収めた『東京大学歴代総長式辞告辞集』を通読してみて、折々に語られた言葉が歴史の流れといかに密接に関わってきたかを実感した。
近代化をめざして富国強兵にひた走った明治時代から、無謀な戦争に向かって突き進んだあげくに敗戦を迎え、戦後民主主義から高度経済成長へ、そして安保闘争から大学紛争へと混乱の続いた昭和時代を経て、バブルの狂躁と崩壊にいたる平成時代まで、歴代総長の式辞にはまさに日本の近現代史が色濃く影を落としている。
特に印象深かったのは、太平洋戦争の前後に、何人かの総長たちがひたすら天皇を賛美し、愛国心を鼓舞する国粋主義的な式辞を述べていたことである。「諸君の多数はまた、遠からず皇軍に召されて、入営出征の光栄を担ふことにもならうと思ひます」(平賀譲)とか、「今こそ諸君は直接軍務につき、思ふ存分尽忠報国の誠を効すの光栄を荷ひ得ることとなり」(内田祥三)といった言葉が学問の府を代表する人間の口から発せられるのをまのあたりにすると、当時の社会を覆っていたどす黒い空気が紙面から漂ってくるようで、こちらまで息苦しくなってくる。
これにたいして、戦後の復興期に総長を務めた南原繁や矢内原忠雄の式辞には、学問の自由と大学の自治を重んじる姿勢が明確に謳われており、文章もさすがに格調が高い。「虐げる者となることなく、虐げられた者を救ふ人となれよ。諸君の生涯を高貴なる目的のためにささげよ」(矢内原忠雄)といった言葉に触れると、その凜然たる語り口に思わず背筋が伸びる思いがする。
もっとも、東京大学の総長だからといって皆が皆、立派なことばかり語ってきたわけではない。中には眉をひそめたくなるような失言のたぐいも少なからず含まれている。特に今日から見るとジェンダー平等の理念に抵触するような発言がしばしば見られるので、そうした箇所については本書でも遠慮なく指摘しておいた。
『式辞告辞集』に収録されているのは第二十六代総長・蓮實重彦の1997年入学式式辞までなので、その後の総長式辞は扱っていないが、最近は来賓の祝辞もネットでとりあげられる機会が多くなったので、本書では安藤忠雄、ロバート キャンベル、上野千鶴子の三氏の祝辞を最後の「補章」でとりあげた。いずれも今日を生きる若者たちにとってのみならず、すべての人々にとって有益な示唆を含んだメッセージばかりなので、あわせて読んでいただければ幸いである。
(いしい・ようじろう 東京大学名誉教授・中部大学特任教授)
波 2023年4月号より
蘊蓄倉庫
東京大学は四度正式名称が変わった
東京大学は1877年の創立後、1886年に「帝国大学」、1897年に「東京帝国大学」と名称を変更しています。初代総長の渡辺洪基から第五代総長の菊池大麓まで、創立当初の総長はいずれも当時の政界・官界の要職を歴任した政治家たちです。「帝国」と名の付く通り、当時の東京大学は明治政府と一体であったことは推測するに難くありません。その後、日本の敗戦を受け、戦後にふたたび「東京大学」、1949年には新制東京大学が発足、2003年(平成15年)の国立大学法人法制定以降は「国立大学法人東京大学」となって現在に至ります。
掲載:2023年3月24日
担当編集者のひとこと
東京大学の式辞は時代を映す鑑だった
毎年東京大学の卒業式・入学式では総長による式辞が読まれます。これは大学創立時から長く続くもので、近年では入学式のゲストスピーカーによる祝辞もたびたび大きな話題になっています。大震災・戦争・大学紛争・国際化――時代の節目で、東大総長たちは学生にどんな言葉を贈ったのか。知られざる名演説はもちろん、ツッコミどころ満載の失言まで、時代を超えてなお生き続ける「言葉」の重みを実感させられます。
本書『東京大学の式辞―歴代総長の贈る言葉―』はスピーチ集であり、日本近現代史をたどる歴史書であり、そしてこれからの未来を生きる若者たちへの祝福と教訓が詰まった「手紙」でもあります。心揺さぶられる言葉の数々は、きっと読者のこれからの人生の糧になるはずです。
2023/03/24
著者プロフィール
石井洋二郎
イシイ・ヨウジロウ
1951(昭和26)年東京都生まれ。専門はフランス文学・思想。東京大学教養学部長、副学長などを務め、2023年3月現在中部大学特任教授、東京大学名誉教授。『ロートレアモン 越境と創造』など著書多数。2015年に教養学部の学位記伝達式で読んだ式辞が大きな話題になった。