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大人の居酒屋旅

太田和彦/著

880円(税込)

発売日:2024/03/18

  • 新書
  • 電子書籍あり

孤高の居酒屋評論家が伝授! 今宵の一献をより美味くする達人の旅の歩き方。

「呑んだ、食べた、うまかった!」と仲間で騒いだ若い頃の居酒屋巡りももちろん結構。しかし、歳を重ねた身には一人旅こそ快適。あるのは誰気兼ねなく好きに過ごせる時間だけ。口開けまで、と気になった美術館を巡り、名所の碑文・銘文をじっくり眺め、常連ばかりの喫茶店で一休み。そうして土地をより深く知ったのち、これと決めた名店でやる一杯の美味さよ――孤高の居酒屋評論家がたどり着いた居酒屋旅がここに。

目次
はじめに
1 白鷺城の昔日の客――姫路 「プロレタリア酒場」●湯どうふ
天守を降りれば、名酒で壺中の天地
2 どっぺり坂の寮生たち――新潟 「酒亭 久本」●干しカレイ焼き
弊衣破帽も繰り出す、古町通りの花街
3 風になる口笛――盛岡 「海ごはん しまか」●どんこ丸焼
賢治が詠んだ川と銀行、水面に映る弧光燈アークライト
4 鋳物の町の大仏――高岡 「酒蔵 盛盛」●かぶら寿し
万葉歌人が詠み、出身作家が書いた町
5 ふるさとの古書店――松本 「きく蔵」●馬刺
なじみの居酒屋で、来し方を想う
6 信濃の国の歌人――松本 「満まる」●雑きのこ
秋にはきのこで、海こそなけれ物さわに
7 藤村の青春の碑――仙台 「一心」●活きボタン海老
カウンターで蘇る「人こひ初めし」ころ
8 弁天島の舞ちゃん音頭――浜松 「娯座樓」●生シラス
盃を口に運んで、気分は出世城
9 舞子の浜の歌詠み――明石 「たなか屋」●煮穴子
明治天皇が七回訪れた白砂青松の浜
10 港都文学の誕生――神戸 「ばんぶ」●春キャベツ
人々が集まり去る「港都」の酒の味
11 VIKINGの世界――神戸 「すぎなか」●甘海老の醤油漬
同人誌に心をあずけた若き令嬢の生涯
12 けんかえれじいと桃太郎――岡山 「小ぐり」●ちんたい貝浜焼き
地酒でほろ酔う耳に響く湯釜の音
13 望郷の歌――鳥取 「ファルケンシュタイン」●ジャーマンポテト
名唱歌の地で、ドイツビールをぐい!
14 太宰治と珈琲――弘前 「土紋」●いがめんち
北国津軽の酒と肴、そして情と文学
15 小泉八雲と川端の居酒屋――松江 「やまいち」●宍道湖七珍
川をはさんだ居酒屋母子の物語
16 墨堤の桜――浅草 「ぬる燗」●メバチ鮪赤身漬け
観音裏でやる花見帰りのぬる燗
17 文人をたどる――鎌倉 「企久太」●カワハギ
作家はなぜ鎌倉に住むのか
18 清方と鏡花――鎌倉 「よしろう」●湯たら
美人画、映画ポスター、白割烹着美人女将
19 母をたずねて――長崎 「こいそ」●きびなご
雨ふるオランダ坂、暮れなずむ思案橋
20 偉人の銅像――高知 「黒尊」●鰹の塩たたき
仰ぐは板垣退助、坂本龍馬。呷るは盃
21 文学者と鰹たたき――高知 「割烹タマテ」●正調鰹たたき
「土佐のいごっそう」の高知文学とは
22 若き詩人の修学旅行――佐世保 「ウェスタナ」●テキーラホッパー
「五足の靴」の旅をたどって、島の教会へ
23 文人気風の町――中野・高円寺・阿佐ケ谷 「だいこん屋」●はまぐり紹興酒漬け
中央線沿線の町柄が表れる酒場
24 豪邸の教養人――荻窪・三鷹 「婆娑羅」●もつ焼
あまたの作家、文化人が住んだ町の居酒屋
25 長者丸の文化――白金 「壱」●焼き空豆
文化と緑薫る高級住宅地
26 馬込文士村の村長――大森 「吟吟」●地酒「幻舞」
大正リベラルを謳歌した芸術家たち
あとがき

書誌情報

読み仮名 オトナノイザカヤタビ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-611036-8
C-CODE 0226
整理番号 1036
ジャンル 歴史・地理・旅行記、旅行・紀行
定価 880円
電子書籍 価格 880円
電子書籍 配信開始日 2024/03/18

インタビュー/対談/エッセイ

齢七十八、報恩全国居酒屋巡礼は今日も続く

太田和彦

 四十歳になったころから居酒屋通いを始め、飲み仲間と会報「居酒屋研究」を発行。それを見た編集者から雑誌に居酒屋コラム連載を頼まれ、1990年『居酒屋大全』という本になった。
 すると別の出版社から書き下ろし依頼がきて、取材に二年かけた『精選 東京の居酒屋』は、それまでの居酒屋記事はコラム程度だったのを評論にしようと、一店・二〇〇〇字の長文で五十六軒書いて東京の居酒屋を俯瞰した最初の本となり、八年後に改訂『新精選 東京の居酒屋』も出た。
 本業のデザイナーで新潮社の雑誌の仕事をしているうち、編集者から居酒屋紀行を書かないかと誘われ、二泊三日で大阪に行った「大阪でタコの湯気にのぼせる」がきっかけで「小説新潮」の連載「ニッポン居酒屋放浪記」が始まった。
 こんどは日本中が舞台だ。編集者、カメラマンと三人のお気楽旅は三年続き、南北に長い島国日本の風土、歴史、産物、人情は、各地にながく続く居酒屋にまことによく表れているとわかった。「立志篇」「疾風篇」「望郷篇」の三部作で出版され、その文庫版あとがきの立志篇は〈地方都市のうまい肴で酒を飲めることに無邪気にはしゃいでいる〉、疾風篇は〈酒肴から町や人々に視野が拡大〉、望郷篇は〈町歩きの感傷が自分の過去への旅になる〉と書かれた。
 いつのまにか居酒屋の本を書く人になり、『居酒屋かもめ唄』『東海道居酒屋五十三次』『居酒屋百名山』『居酒屋おくのほそ道』と続く。
 年齢六十代、一人旅で始めた週刊誌連載「ニッポンぶらり旅」、続く「おいしい旅」「浮草双紙」は計八年続き、十一冊の文庫になった。昼は町を歩いて建物や歴史を知り、迎えた夜の居酒屋で目も耳も舌もこらすのは宮本常一の民俗学の如く。一人旅の良さは、大将や女将とじっくり話せることにあり、その成果のひとつ、日本三大美人白割烹着女将は今や三人ではおさまらなく……(コラ)。日本中を二巡、三巡するうち、昔入った店を再訪する楽しみが生まれてきた。酒よりも人。「お、太田さん」と迎えられ、お互い元気で何よりと一杯注がれ、後を継ぐ若い息子や娘を紹介されるのは親戚になったようなうれしさだ。
 これほど日本中の居酒屋に入り、何冊も書いた人はいないだろう。カネもずいぶん使った。
 とはいえ齢七十八。体力、酒量もおちてきた。それでも続けているのは、もはや報恩八十八ヶ所巡礼の気持ちだ。チーン(鉦の音)。
 何かを探求しようなどと思ったわけではない。日常の場を離れて知らぬ地をぶらぶら歩くのに少しも飽きなかったからだ。日本は広かった。
 この『大人の居酒屋旅』は、そんな今の巡礼を書いた。古くからの担当女性編集者は、いたわりの気持ちをこめるように原稿に赤字を入れてくれ、無事校了となった。
 チーン……。

(おおた・かずひこ グラフィックデザイナー、作家)

波 2024年4月号より

蘊蓄倉庫

居酒屋旅歴30余年の達人の歩き方

 著者の新潮新書前著となる『居酒屋を極める』では、出張などで訪れた見知らぬ土地や旅先で、いい店をどう探して、初めての客としてどう振る舞うか……といったことについても、居酒屋探訪30余年の知見(?)を存分に披露してくれました。「居酒屋ほど土地の風土、産物、気質、歴史、人情を反映している所はない」とは、著者が常々各所で語る持論。どんな名店でも、店だけを楽しむのではなく、ご当地について少しでも情報・知識を入れてから訪ねたほうが、断然、本当の魅力がわかります。そこで今回は、名店を訪ねる旅先で、店が開く前の時間をどう歩き過ごしているか、これまた居酒屋旅30余年の知見から開陳します。

掲載:2024年3月25日

担当編集者のひとこと

師匠の居酒屋探訪旅の極意を知った日

 実は担当は『東京・居酒屋の四季』(とんぼの本・小社刊 2005年)以来、20年ほど太田さんの居酒屋巡りにお供してきました。取材のためには、一晩に4~5軒を訪ねることも。「1軒目の開店に合わせて現地集合」が常ですので、他県にお邪魔しているときは「昼間はよく休んでおいてください」とおっしゃるお言葉に甘えて、ホテルの部屋で仕事の連絡などを済ませたら、素直に「よく休んで」いました。
 ところが、師匠(と太田さんを呼んでいます)は開店までの時間に、地元の市場や商店街を歩き、あらかじめ調べておいたらしい美術館や資料館、名所にも足を運んでいる模様。そのことを、お店の人やご主人、女将さんとお話が始まって、「今日は○○に行ってきてね、あれはいいですねぇ。そこの人がご主人のこと知っててね……」といった話の手向け方から知りました。もちろん、ご当地産物の肴や地酒の話もお店の方々には嬉しい話題でしょうが、遠路訪ねて来た来訪者から自分の住む地元について話されるのは、また違った嬉しさでしょう。
 土地の歴史と文化を知り、住む人の胃袋を支える商店街・市場、食堂や喫茶店などで何気ないやり取りから人情を知り、それらに培われてきた気風を肌身に感じてから、ご当地名店の暖簾をくぐる。だからこそ一杯目の味わいが格別になることを、不出来な弟子は、師匠のふるまいから知ったのでした。日々精進……。

2024/03/25

著者プロフィール

太田和彦

オオタ・カズヒコ

1946(昭和21)年生まれ。グラフィックデザイナー、作家。東京教育大学(現・筑波大学)卒。資生堂宣伝制作室を経て独立。著書に『超・居酒屋入門』『日本居酒屋遺産』『映画、幸福への招待』など。

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