大人の居酒屋旅
880円(税込)
発売日:2024/03/18
- 新書
- 電子書籍あり
孤高の居酒屋評論家が伝授! 今宵の一献をより美味くする達人の旅の歩き方。
「呑んだ、食べた、うまかった!」と仲間で騒いだ若い頃の居酒屋巡りももちろん結構。しかし、歳を重ねた身には一人旅こそ快適。あるのは誰気兼ねなく好きに過ごせる時間だけ。口開けまで、と気になった美術館を巡り、名所の碑文・銘文をじっくり眺め、常連ばかりの喫茶店で一休み。そうして土地をより深く知ったのち、これと決めた名店でやる一杯の美味さよ――孤高の居酒屋評論家がたどり着いた居酒屋旅がここに。
書誌情報
読み仮名 | オトナノイザカヤタビ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-611036-8 |
C-CODE | 0226 |
整理番号 | 1036 |
ジャンル | 歴史・地理・旅行記、旅行・紀行 |
定価 | 880円 |
電子書籍 価格 | 880円 |
電子書籍 配信開始日 | 2024/03/18 |
インタビュー/対談/エッセイ
齢七十八、報恩全国居酒屋巡礼は今日も続く
四十歳になったころから居酒屋通いを始め、飲み仲間と会報「居酒屋研究」を発行。それを見た編集者から雑誌に居酒屋コラム連載を頼まれ、1990年『居酒屋大全』という本になった。
すると別の出版社から書き下ろし依頼がきて、取材に二年かけた『精選 東京の居酒屋』は、それまでの居酒屋記事はコラム程度だったのを評論にしようと、一店・二〇〇〇字の長文で五十六軒書いて東京の居酒屋を俯瞰した最初の本となり、八年後に改訂『新精選 東京の居酒屋』も出た。
本業のデザイナーで新潮社の雑誌の仕事をしているうち、編集者から居酒屋紀行を書かないかと誘われ、二泊三日で大阪に行った「大阪でタコの湯気にのぼせる」がきっかけで「小説新潮」の連載「ニッポン居酒屋放浪記」が始まった。
こんどは日本中が舞台だ。編集者、カメラマンと三人のお気楽旅は三年続き、南北に長い島国日本の風土、歴史、産物、人情は、各地にながく続く居酒屋にまことによく表れているとわかった。「立志篇」「疾風篇」「望郷篇」の三部作で出版され、その文庫版あとがきの立志篇は〈地方都市のうまい肴で酒を飲めることに無邪気にはしゃいでいる〉、疾風篇は〈酒肴から町や人々に視野が拡大〉、望郷篇は〈町歩きの感傷が自分の過去への旅になる〉と書かれた。
いつのまにか居酒屋の本を書く人になり、『居酒屋かもめ唄』『東海道居酒屋五十三次』『居酒屋百名山』『居酒屋おくのほそ道』と続く。
年齢六十代、一人旅で始めた週刊誌連載「ニッポンぶらり旅」、続く「おいしい旅」「浮草双紙」は計八年続き、十一冊の文庫になった。昼は町を歩いて建物や歴史を知り、迎えた夜の居酒屋で目も耳も舌もこらすのは宮本常一の民俗学の如く。一人旅の良さは、大将や女将とじっくり話せることにあり、その成果のひとつ、日本三大美人白割烹着女将は今や三人ではおさまらなく……(コラ)。日本中を二巡、三巡するうち、昔入った店を再訪する楽しみが生まれてきた。酒よりも人。「お、太田さん」と迎えられ、お互い元気で何よりと一杯注がれ、後を継ぐ若い息子や娘を紹介されるのは親戚になったようなうれしさだ。
これほど日本中の居酒屋に入り、何冊も書いた人はいないだろう。カネもずいぶん使った。
とはいえ齢七十八。体力、酒量もおちてきた。それでも続けているのは、もはや報恩八十八ヶ所巡礼の気持ちだ。チーン(鉦の音)。
何かを探求しようなどと思ったわけではない。日常の場を離れて知らぬ地をぶらぶら歩くのに少しも飽きなかったからだ。日本は広かった。
この『大人の居酒屋旅』は、そんな今の巡礼を書いた。古くからの担当女性編集者は、いたわりの気持ちをこめるように原稿に赤字を入れてくれ、無事校了となった。
チーン……。
(おおた・かずひこ グラフィックデザイナー、作家)
蘊蓄倉庫
居酒屋旅歴30余年の達人の歩き方
著者の新潮新書前著となる『居酒屋を極める』では、出張などで訪れた見知らぬ土地や旅先で、いい店をどう探して、初めての客としてどう振る舞うか……といったことについても、居酒屋探訪30余年の知見(?)を存分に披露してくれました。「居酒屋ほど土地の風土、産物、気質、歴史、人情を反映している所はない」とは、著者が常々各所で語る持論。どんな名店でも、店だけを楽しむのではなく、ご当地について少しでも情報・知識を入れてから訪ねたほうが、断然、本当の魅力がわかります。そこで今回は、名店を訪ねる旅先で、店が開く前の時間をどう歩き過ごしているか、これまた居酒屋旅30余年の知見から開陳します。
掲載:2024年3月25日
担当編集者のひとこと
師匠の居酒屋探訪旅の極意を知った日
実は担当は『東京・居酒屋の四季』(とんぼの本・小社刊 2005年)以来、20年ほど太田さんの居酒屋巡りにお供してきました。取材のためには、一晩に4~5軒を訪ねることも。「1軒目の開店に合わせて現地集合」が常ですので、他県にお邪魔しているときは「昼間はよく休んでおいてください」とおっしゃるお言葉に甘えて、ホテルの部屋で仕事の連絡などを済ませたら、素直に「よく休んで」いました。
ところが、師匠(と太田さんを呼んでいます)は開店までの時間に、地元の市場や商店街を歩き、あらかじめ調べておいたらしい美術館や資料館、名所にも足を運んでいる模様。そのことを、お店の人やご主人、女将さんとお話が始まって、「今日は○○に行ってきてね、あれはいいですねぇ。そこの人がご主人のこと知っててね……」といった話の手向け方から知りました。もちろん、ご当地産物の肴や地酒の話もお店の方々には嬉しい話題でしょうが、遠路訪ねて来た来訪者から自分の住む地元について話されるのは、また違った嬉しさでしょう。
土地の歴史と文化を知り、住む人の胃袋を支える商店街・市場、食堂や喫茶店などで何気ないやり取りから人情を知り、それらに培われてきた気風を肌身に感じてから、ご当地名店の暖簾をくぐる。だからこそ一杯目の味わいが格別になることを、不出来な弟子は、師匠のふるまいから知ったのでした。日々精進……。
2024/03/25
著者プロフィール
太田和彦
オオタ・カズヒコ
1946(昭和21)年生まれ。グラフィックデザイナー、作家。東京教育大学(現・筑波大学)卒。資生堂宣伝制作室を経て独立。著書に『超・居酒屋入門』『日本居酒屋遺産』『映画、幸福への招待』など。