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データ・ボール―アナリストは野球をどう変えたのか―

広尾晃/著

1,166円(税込)

発売日:2024/08/19

  • 新書
  • 電子書籍あり

打率より打球速度、防御率よりK/BB、守備率よりRF。データ革命で進化する野球の最前線。

今やプロ野球の現場では、あらゆることがデータで分析されている。選手の評価軸も変わり、打率や打点、投手の勝利数といった従来型の指標は、MLBではもはや重視されていない。野球は、従来とは違うスポーツに進化したのだ。こうした「データ・ボール革命」の担い手となったのがアナリストたちだ。プロ野球の現場の隅々にまで入り込んだ彼らによって、野球はどう変わってきたのか。その深層をレポートする。

目次
プロローグ 世界の頂点をともに見たアナリストたち
第一部 日本野球「最新のリアル」
第1章 埼玉西武ライオンズのイノベーション
1-1 「ラプソード」が手放せない平良海馬/1-2 データ化を推進した市川徹
第2章 アナリストという仕事
2-1 「アナリストのパイオニア」川村卓/2-2 バイオメカニクスの先端を走る神事努/2-3 NPBの現場から
第3章 トラックマン、ラプソード、ホークアイ、そして……
3-1 軍用技術から生まれたトラックマン/3-2 より手軽なラプソード/3-3 画像をデータ化するホークアイ/3-4 弾道測定器から何を読むのか?
第4章 スポーツデータ関連ビジネスの進化
4-1 総合スポーツメーカー、ミズノの戦略/4-2 スポーツの「その先」を見つめるネクストベース/4-3 「球都桐生」から始まる新たな潮流
第5章 アマ球界のイノベーション
5-1 慶應義塾高校 優勝を支えたデータ戦略/5-2 学会で研究発表する高校生たち/5-3 ドラ1候補? 大学院アナリストが目指すもの/5-4 慶應義塾大学チーフアナリストの挑戦
第6章 データ野球の実験場 ジャパンウィンターリーグ
6-1 ドライブラインのトレーナーは何を語ったのか/6-2 選手はデータをどう活用すべきなのか
第7章 「素人」が切り拓くデータの世界
7-1 野球アナリスト界の“ブラック・ジャック”お股ニキ
第二部 「数字のスポーツ」野球の歩み
第8章 「記録の神様」たちの時代
8-1 アメリカ、公式記録の歴史/8-2 日本の公式記録のあゆみ/8-3 スカウト、スコアラーが刻んだ記録/8-4 記録の神様たちの横顔
第9章 『マネー・ボール』がやってきた
9-1 セイバーメトリクスの誕生/9-2 激変した評価基準/9-3 進化を続けるセイバーメトリクス
第10章 「アソボウズ」という会社があった
10‌-1 出発はゴルフのスコアアップから/10-2 元社員の証言/10-3 NPBのデータ化の進展と限界
第11章 MLBデータ野球、異次元の進化へ
11-1 イノベーションの背景にあるもの/11-2 野球そのものが変わった/11-3 ドライブライン、そしてその先へ
エピローグ 「よき進化」のために
あとがき
参考文献

書誌情報

読み仮名 データボールアナリストハヤキュウヲドウカエタノカ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 320ページ
ISBN 978-4-10-611053-5
C-CODE 0275
整理番号 1053
ジャンル 実用・暮らし・スポーツ、スポーツ・アウトドア
定価 1,166円
電子書籍 価格 1,166円
電子書籍 配信開始日 2024/08/19

インタビュー/対談/エッセイ

「野球」この不可思議で魅力的な「数字のスポーツ」

広尾晃

 筆者はときどきテレビやラジオでコメントを求められる。ある年の春、プロ野球のペナントレースについてコメントを求められたので「あの投手は昨年3000球以上投げたので、今季は厳しいのではないか」と話すと、横にいた選手上がりの解説者から「そんなのは関係ない!」とぴしゃりと言われたことがある。
 プロ野球で実績を重ねた野球人の中には「数字で語ること」を軽蔑する人がいる。「野球をやったこともない奴が、わけのわからないことを」と思っている人がいまだにたくさんいるのだ。
 一方で、セイバーメトリクス(野球の統計学)の普及以来、数字で野球を語る人が増えた。今のデータ野球では「運の要素」はどんどん排除される。ぽてんヒットでも数字が上がる「打率」や、味方の援護があれば何点取られてもかまわない投手の「勝利数」などの指標は、数字の専門家に言わせれば「無価値」になる。
 セイバーメトリクスなど新しいデータ野球の信奉者のなかには「いまだに3割打者とか20勝投手とかをありがたがっているのかよ、何時代だよ」と言う人もいる。これもちょっと残念だ。
 そして「野球のデータ」が重要視されるはるか以前から、試合のスコアをつけて集計してきた人たちがいる。選手からは「野球がへたくそだったからスコアラーやってるんだろ」と言われ、近頃のデータ野球信奉者からは「時代遅れ」と馬鹿にされる。しかし、こうした几帳面な「記録者」、つまり日米で営々と数字を紡いできた人たちがいたからこそ、大谷翔平と1世紀前のベーブ・ルースの「比較」が可能になったのだ。
 ざっくり言えば、野球という「数字のスポーツ」をめぐっては、この3つの立ち位置の人たちがいて、それぞれがあまり交流することなく、バラバラに存在しているような印象がある。
 この度上梓した『データ・ボール―アナリストは野球をどう変えたのか―』は、昨年のWBCで侍ジャパンの世界一に大いに貢献した「データ野球」の最先端を紹介している。しかしそれだけではなくデータ野球の発展に貢献してきた日米の多くの人たちの取り組みを通じて、野球が「数字」によっていかに豊かで、多様性のあるスポーツになっていったかを紹介している。
 無味乾燥に見える数字だが、それをどう解釈するか、何を読むか、どんなふうに役立てるかで、結果も次のプレーも大いに違ってくる。それが今の「データ野球」の魅力だと言える。
 今や、大谷翔平がホームランを打った瞬間に、膨大な量の「数字」が発信される時代である。選手のプレーが瞬時に「数字」に置き換わる「野球」というスポーツの「本当の魅力」について、その一端でも知っていただければ幸いだ。

(ひろお・こう スポーツライター)

波 2024年9月号より

蘊蓄倉庫

日本のデータ野球を飛躍させたWBC

 日本が優勝した2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、日本のデータ野球を飛躍させた契機だったと言えます。投手陣の柱だったダルビッシュ有が、弾道測定器「トラックマン」を使い一球一球データを確認している姿を見て、NPBから参加した投手たちもデータに対する意識をガラリと変えました。また、打撃練習で大谷翔平が、バットのグリップに装着してスイングの軌道のデータを録る「ブラスト」を装着し、打球速度、スイングスピードの圧倒的な速さをデータで示したことは、日本の打者たちに大きな衝撃を与えました。
 ダルビッシュも大谷も、データの使用については、「自分の感覚と(データが示す数字が)合っているかどうかを確認している」と全く同じことを語っています。データを盲信しているわけではないが、自分の感覚だけに頼っているわけではない。あらかじめ自分の「仮説」があり、それをデータによって確認・修正している。そうしたMLB選手たちの姿勢が、WBCに参加したNPB選手たちに大きな影響を与え、彼らのデータに対する意識を一段押し上げたわけです。

掲載:2024年8月23日

担当編集者のひとこと

安打も偶然の産物?

 今やプロ野球の現場では、あらゆることがデータで分析されています。選手の評価軸も変わり、打率や打点、投手の勝利数といった従来型の指標は、MLBではもはや重視されていません。驚くべきことに「安打は偶然の産物」とする考え方すら一般化しています。打率、打点、本塁打のいわゆる「三冠」のうち、重視されているのは本塁打だけ。その本塁打を打てる打者に共通しているのは打球速度が速いことで、打球速度を速くするにはスイングスピードを上げなければならない。かくしてMLBでは、「スイングスピードの速さ」が能力として重視されるようになっています。実際、2023年のMLBでスイングスピードが際立って速かったのは大谷翔平とロナルド・アクーニャJr.で、この2人はMVPに選ばれています。

 野球はもはや従来とは様相の違うスポーツに進化したわけですが、こうした「データ・ボール革命」の担い手となったのがアナリストです。元々は統計分析と独自の指標を駆使してチームの戦略構築を担っていた彼らは、今ではバイオメカニクスを武器にトレーニングも担うようになって、選手とチームの能力強化にも重要な役割を果たすようになっています。アナリストを活用してチーム力を底上げする動きはプロ野球に留まらず、昨年の夏の甲子園で優勝した慶應高校のように、アマ球界にも拡がっています。

 本書は、アナリストを取材することで野球界の近年の動向をレポートすると共に、野球のデータ化を担ってきた人たちの歴史も振り返って、「データ・ボール革命」の本質を描き出す内容となっています。野球という「データまみれのスポーツ」を一段深く楽しむのに、格好の読み物です。

2024/08/23

著者プロフィール

広尾晃

ヒロオ・コウ

1959年大阪府生まれ。スポーツライター。立命館大学卒業後、広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てライターに。ブログ「野球の記録で話したい」を運営。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』などがある。

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