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「嫌われ者」の正体―日本のトリックスター―

石戸諭/著

1,056円(税込)

発売日:2024/11/18

  • 新書
  • 電子書籍あり

玉川徹、西野亮廣、ガーシー、吉村洋文、山本太郎――。なぜ目が離せないのか? 本人・関係者に徹底取材!

玉川徹、西野亮廣、ガーシー、吉村洋文、山本太郎――時に大衆を熱狂させ、時に炎上の的になるメディアの寵児たち。毀誉褒貶付きまとう彼らは何者か。その存在はそのまま単純かつ幼稚な「正論」がもてはやされる日本社会の問題点、メディアの不健全さを映し出す。新聞、ネットメディアの記者を経て、ノンフィクションライターとなった著者が本人、周辺への取材を重ねて綴った、超ど真ん中、正統派人物ルポの誕生! 

目次

プロローグ 幼稚な極論に抗うために

玉川徹 権力批判は最高の素材である
怒れる会社員/「チーム玉川」の証言/数字が取れなければ追われる/権力批判は盛り上がる/時代を象徴するポピュリスト/「安倍首相国葬批判」での失敗と復活

西野亮廣 否定も批判も織り込みながら肯定し続ける
カリスマは五反田にいた/急成長と急停止/タモリからの一言/夢と金/肯定することの意味/約束されたカタルシス

ガーシー 暴露で革命は起こせないという現実
ヒーローか詐欺師か/アテンド能力とは何か/転落を招いた悪癖/10%の真実と90%の嘘/ご褒美は3億円と不逮捕特権/「ごぼうの党」の主張/ガーシーの肉声/週刊誌はガーシーに劣るのか

2022年の旧統一教会 カルトを絶対悪とするカルト的思考
カルト教団の「におわせ」/政治家との本当の関係/「キーマン」下村博文との一問一答/一人目の2世信者/二人目の2世信者/三人目の2世信者/四人目の2世信者/五人目の2世信者/カルト批判者のカルト的側面/無邪気に「排除」を主張した人たち/太田光の正論

吉村洋文 敵多き普通の男の苦悩
敵か味方か/結果は出ているのか/素顔の吉村/目立たない弁護士/「維新」の生い立ち/橋下チルドレンから側近、そして市長へ/ポピュリズムでは片付けられない/「大阪の外」へ/中道が武器になる/覚悟を決めた瞬間

山本太郎 稀代のポピュリストの栄光と限界
左派ポピュリズムの旗手として/曲解される「ポピュリズム」/右でも左でもないフリースタイル/東京8区混乱の研究/立憲民主党の安易さ/「市民派選挙の神様」による予言/オウンゴール連発の石原サイド/勝ったのは誰か/れいわ新選組のフォロワーたち

エピローグ 思慮深さを失わないために

主要参考文献

書誌情報

読み仮名 キラワレモノノショウタイニホンノトリックスター
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-611065-8
C-CODE 0230
整理番号 1065
ジャンル 社会学、思想・社会
定価 1,056円
電子書籍 価格 1,056円
電子書籍 配信開始日 2024/11/18

インタビュー/対談/エッセイ

「思慮深さ」を失っていないか

石戸諭

 2006年からマスメディアの世界に入って、取材をして原稿を書くという生活を続けてきた。その間、旧来の価値観ではうまく捉えきれない“現象”も2010年代後半から増えてきたように思う。その一つがまさに本書の主題とする「嫌われ者」の存在である。
 より正確に記せば、本書で取り上げた玉川徹、ガーシー、吉村洋文、山本太郎といった人物は全員に嫌われているわけではない。熱狂的な支持者を抱えているが、同時に同じような熱量で嫌われ、社会を二つに分割してしまう存在だ。一体、彼らはなぜ強烈に好かれる一方で、強烈に嫌われてしまうのか。その謎を、当人やその周囲を取材することで解き明かすというのが本書の趣旨である。
 キーワードは「思慮深さ」だ。
 私がかつて所属した新聞社、インターネットメディアでも社会現象を批判的に捉えることに価値をおいてきた。批判精神は大切だが、この時代に必要なのは時に安直すぎる批判よりも、丁寧な取材によって現象の本質に迫り、世に問うことだと考えてきた。本書は彼らの存在の是非に焦点は当てず、その存在がどのような意味を持っているかという問いを立てる。
「嫌われ者」が持つ最大の力は社会をあっという間に二つに分かつことだ。だが、彼らの言動に一喜一憂し、社会が振り回されていいのか。私はそうは考えない、という立場をとる。彼らの発言が一定の影響力を持つことがあったとしても、取材をもとに考えを進めれば、可能性だけでなく同時に限界も見えてくる。「嫌われ者」の言動は何らかの問題提起になることはあっても、多くの場合は社会が抱えている問題の解決には結びつかない。過激な言動に反射的に反対しても、熱狂的に賛成してもそこは変わらないのだ。
「嫌われ者」たち、そして彼らを生み出した構造はこの先も社会を騒がせるだろう。今の日本社会の分断はドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲くアメリカに比べるとたかが知れている。しかし、それがいつまでも続くとは限らない。極端な言葉を巧みに使って、分断を煽る人々が登場しては社会が揺らぐことはほぼ確実だ。極論に流され、安易な二項対立に熱狂してはいけないのだが、私が同時代に見てきたのは、ジャーナリズムの世界にいる人々も含めた知識層もまた対立に熱狂したという現実である。
 思慮深くあるということ――それはどんな荒波の中にあっても冷静さを失わない態度と言い換えることができる。考えてみれば私が憧れていたノンフィクションの先人たちの優れた仕事は熱狂から巧みに距離をとっていた。本書は彼らが積み上げてきた歴史に連なっている……。読後にそんな感想を持ってもらえれば望外の喜びである。

(いしど・さとる ノンフィクションライター)

波 2024年12月号より

蘊蓄倉庫

旧統一教会2世信者の意外な姿

 政治家と旧統一教会との関係が大きな問題になってから、メディアには多数の2世信者が登場し、自らの経験を語りました。彼らの多くは、幼い頃から閉鎖的な環境の中で親や教団から教義を押し付けられ、その影響に今も苦しんでいるようでした。
『「嫌われ者」の正体―日本のトリックスター―』に登場する5人の2世信者たちも、特殊な環境で育ち、大きな苦悩を抱えています。しかし取材に対し、冷静に自らの来し方を振り返る姿はどこかたくましくもあります。特に自らの苦しい経験を糧にして、学生起業を成功させたある信者のエピソードからは、これまでの“かわいそうな2世信者”のイメージとは違った姿が見えてきます。

掲載:2024年11月25日

担当編集者のひとこと

“炎上”に振り回されない

 玉川徹、西野亮廣、ガーシー、吉村洋文、山本太郎――政治家やコメンテーター、絵本作家、さらには暴露系YouTuberと、本書ではさまざまなジャンルの人物を取り上げています。名前を見ただけで、ここ数年、彼らの周りで起きた“炎上”がいくつか頭に浮かぶのではないでしょうか。

 本書を貫く大きなテーマの1つが「思慮深さ」です。特にSNS上では煽情的な情報があふれかえっており、つい怒りや悲しみといった強い感情で反応してしまいがちです。しかし、炎上すら巧みに利用しながら、過激な言動で賛否を巻き起こし、社会を二分してしまうような存在に簡単に振り回されてよいのでしょうか。

 タイトルに「嫌われ者」とありますが、著者の石戸さんは彼らにただ批判的な目を向けているわけではありません。個人的には、本書を読んでこれまでの“なんとなく鼻につく存在”といったイメージが変わった人もいます。大手新聞社からキャリアをスタートさせ、ネットメディアの編集者を経て、ノンフィクションライターとなった著者ならではの冷静な視点で、世間から「嫌われ者」であると同時に、熱烈な支持者によって支えられている人物を丁寧に取材し、そこから浮かびあがる日本社会、メディアの問題点にまで論を展開していきます。

2024/11/25

著者プロフィール

石戸諭

イシド・サトル

1984(昭和59)年、東京都生まれ。立命館大学法学部卒業後、毎日新聞、BuzzFeed Japanの記者を経て、2024年11月現在はノンフィクションライター。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』『ルポ 百田尚樹現象』『ニュースの未来』『東京ルポルタージュ』などがある。

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