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ロビンソン酒場漂流記

加藤ジャンプ/著

1,056円(税込)

発売日:2025/07/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

博多大吉さん(博多華丸・大吉)、松岡昌宏さん推薦!! こんなところになぜ居酒屋が!? 酔狂にして至高の酒場めぐり。マキタスポーツ出演『ロビンソン酒場漂流記』BS日テレにて放送中。

こんなところになぜ居酒屋が!? どの駅からも歩いて遠く、およそ商売に不向きな地にポツンと一軒建っているのに、暖簾をくぐればなぜか毎晩大繁盛。そんな奇跡のお店を、孤島で逞しく生き延びた男になぞらえて「ロビンソン酒場」と勝手に命名。美味い酒と肴を求めて東へ西へと訪ね歩きます。巷のグルメサイトでは知り得ない、酔狂にして至高の酒場めぐりルポ。

目次

はじめに

第1夜 やっぱり、そこは胸のエンジンに火をつける店だった
――都営大江戸線練馬春日町駅徒歩15分『居酒屋 とも』

第2夜 そこはロビンソン酒場界の待庵である
――東京メトロ日比谷線広尾駅徒歩18分『いまじん

第3夜 緊急事態宣言、歩いていけるロビンソン酒場へ
――JR横浜線小机駅徒歩20分『阿部商店』

第4夜 絶対に囲みたい場所がある
――小田急小田原線鶴川駅徒歩35分『炭火焼 暖炉』

第5夜 そうだ、亀有は交番だけじゃない
――JR常磐線亀有駅徒歩15分『鳥よし』

第6夜 霊園の山のあなたの空遠く
――JR南武線津田山駅徒歩25分『割烹高根』

第7夜 ロマンとともに三十年
――相模鉄道相鉄本線さがみ野駅徒歩25分『津和野』

第8夜 L字には過去がある
――小田急小田原線狛江駅徒歩20分『伊炉里』

第9夜 街も酒場もちょっと控えめがいい
――JR中央線阿佐ケ谷駅徒歩14分『丸山』

第10夜 二本松のひとつ屋根の下で
――JR横浜線相原駅徒歩30分『さつき』

第11夜 お大師さまの街の手練酒場
――京浜急行大師線川崎大師駅徒歩14分『多つ美』

第12夜 フラれても好きな店
――横浜市営地下鉄新羽駅徒歩21分『仁屋』

第13夜 浅川の向こう岸の奇跡
――JR中央線八王子駅徒歩21分『味楽来』

第14夜 鶴見の究極ロビンソン
――JR京浜東北線鶴見駅徒歩28分『やきとり居酒屋 醍醐 馬場店』

第15夜 温泉街の闇の奥を照らす提灯
――JR中央本線甲府駅徒歩50分『鳥秀』

第16夜 ミレー好きが長じてロビンソン酒場拾い
――JR中央本線竜王駅徒歩13分『うな竹』

おわりに

書誌情報

読み仮名 ロビンソンサカバヒョウリュウキ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-611093-1
C-CODE 0230
整理番号 1093
ジャンル ノンフィクション、クッキング・レシピ
定価 1,056円
電子書籍 価格 1,056円
電子書籍 配信開始日 2025/07/17

インタビュー/対談/エッセイ

それは1995年、スピッツの名曲とともに始まった

加藤ジャンプ

 駅や繁華街から離れた、おおよそ商売むきとは思えないところで長い間やっている酒場をロビンソン酒場と呼んで訪ねている。ロビンソンというのは孤島で生き抜いたロビンソン・クルーソーのイメージである。都会の海で生き抜く酒場、というくらいの意味だ。
 ロビンソン酒場という名前を思いついたのは、もう30年くらい前のことらしい。この間、実家の整理をしていたら、昔の手帳が出てきて「ロビンソン酒場」と書いてあった。手帳というのは、いろいろ思い出したくないことも書いてあるので、他の物と一緒に処分した。ただ、このページだけは破いておいたつもりが見つからない。
 スピッツというバンドがそこまで有名になる前、横浜のUHF局、tvkで時々彼らのコンサート情報のCMが流れていた。音楽は彼らの「夏の魔物」という曲だった。CMではサビの部分しか流れないので、私はその歌のサビだけ覚えて、よく風呂場で熱唱していた。
 会いたかった 会いたかった……
 と、リフレインするその歌は、誰に会いたいわけでもないのに、いつか会える誰かに会いたいような心持ちにさせてくれた。今ではすっかり酒まみれのおじさんにも、そんな二十代があったのだ。
 しばらくして、スピッツは「ロビンソン」で大ブレークした。1995年のことだ。この歌も大好きで今もよく風呂場で熱唱している。
 この曲が日本中で流れまくった1995年、私は大学院の一年目で、大学に行っても、学部時代の仲間の多くは卒業し、人は大勢いるのに、なんだか大学全体がスカスカになったような気がしていた。
 それまでも一人で呑むことはあったが、その気楽さと丁度良い孤独の楽しさに目覚めたのもこの頃だ。そして、友人と呑みに行く回数が減ったぶん、定期券で行ける、ほかに縁もゆかりも無い駅で下車して酒場を探すようになった。たぶん、それがロビンソン酒場漂流の本当のはじまりだ。
 その頃私は、携帯電話はおろかピッチと呼ばれていたPHSも持っていなかった。リング状の針金で綴じられた小さい首都圏地図を片手によく徘徊した。手帳に「ロビンソン酒場」と何の気なしに書き込んだのもその頃だろう。ロビンソン・クルーソーと、歩く時の心細さと切なさから「ロビンソン」の曲のイメージもあったのだと思う。
 そうして出会った酒場たちを、いま連載エッセーを書くことで再訪している。代替わりも多いが、女将や大将がずっと現役で活躍していることもある。再会は嬉しい。そんなに覚えていなくても嬉しい。で、ロビンソン酒場に来ているのに、私の脳内で流れる音楽は、「ロビンソン」ではなく、必ずといっていいほど「夏の魔物」のサビなのである。

(かとう・じゃんぷ 文筆家)

波 2025年8月号より

著者プロフィール

加藤ジャンプ

カトウ・ジャンプ

文筆家、イラストレーター。1971年東京生まれ、一橋大学大学院法学研究科修了。出版社勤務をへて独立。著書に『コの字酒場はワンダーランド』など。テレビ東京系「二軒目どうする?」に出演中。原作を執筆した漫画『今夜はコの字で』は2025年7月現在、シーズン2までドラマ化。

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