
奇跡の母親脳
1,375円(税込)
発売日:2025/07/17
- 新書
- 電子書籍あり
親になると、脳が変わる。ピュリッツアー賞受賞のジャーナリストによる、脳科学の最前線からの衝撃レポート!
親になると、脳が変わる?! 最新の画像化技術は、妊娠・出産によって母親の脳が劇的に変わり、神経科学的に「再編」される事実を明らかにした。そして父親の脳もまた、育児を通して変わるという。こうしたヒトの脳の再編過程では、イライラや物忘れ、気分の落ち込みなどが起こりやすいが、その代わりに得られる驚きの能力がある──「母性」という言葉では説明のつかない人類の脳と育児の謎に迫る衝撃のレポート!
日本の読者のみなさんへ
まえがき
第1章 なぜ母親は自分を「ダメ」だと思うのか?
動かなくなった赤ちゃん/ダメな母親/母親の苦悩は正常か/出産は脳を変える/科学と母性本能の呪縛/母性行動は女性の特性か/「母性学研究の父」/重要なのは子育ての「経験値」/妊娠は重要な「発達段階」の幕開け
第2章 なぜ子供に愛情が湧かないのか?
生涯にわたって変化する脳/脳とホルモン/「親の脳」に何が起こっているか/研究者がやっていること/愛だけでは十分ではない/子育ての原動力/“かわいらしさ”の持つ力/報酬系ネットワーク/顕著性ネットワーク/ホルモンと子育ての関係/母性の「動機づけ」の不思議/なぜ心配に取り憑かれる?/極端な没頭と不安/赤ちゃんの世話が不安を減らす/子育ては快適に変化していく/親になることは人生が変化すること
第3章 どうしたら子供との絆ができるのか?
母子特有の絆?/新米親子の絆の築き方/早産児の親の脳/ホメオスタシスとアロスタシス/脳内の「買い物リスト」/子供によって変容する親の「自己」/親の体内に残る胎児細胞/母子の絆とドーパミン/オキシトシンの意外な役割/自閉症児の親やうつ病の親の脳は?/子供の発達は母親の責任か/母親業と科学的母性の台頭/現代の母親の呪縛/脳の可塑性こそが鍵/子育ては母親だけのものか/母親の脳の変化の発見/脳の変化には悪影響がある?/父親の育児はどうか/父親の脳の変化/父親に関する研究の少なさ/経験が脳を作る/マスコットを心に置く
第4章 どうしたらうつと不安から逃れられる?
「自分の赤ちゃんではないような感じ」/産後うつとは何か/うつ病のリスク/産後うつの多様さ/産後うつの脳の特徴/「ストレスホルモン」は少ない方が良い?/コルチゾールの役割/育児の舞台裏で働くスタッフ/メンタライゼーション/「あなたは私がなりたいすべてなの」/育児する脳の生理的基盤の重要性/依存症と親の脳/遺伝子とうつのリスク/心音のない赤ちゃん/研究結果と「膨大なノイズ」/「逆境体験」の影響/初の産後うつ治療薬ズルレッソ/SSRIとはどんな薬か/産後うつは「悲しみの表現」?/「自然な」分娩の「大きな嘘」/出産のPTSD/PTSDと心理的成長/異例の出産経験
第5章 自分を取り戻し、さらに成長するには
「マミーブレイン」現象/妊娠中と産後の認知機能低下/記憶障害はなぜ起こるか/睡眠が認知能力に及ぼす影響/睡眠介入の必要性/親になると強化される能力/親の脳内の「新たな内部モデル」/子育てがもたらすもの/「畏敬の念」が認識を変える
第6章 「親の脳の科学」が未来を変える
“正しい選択”/母親は科学を知るべきか?/謎ばかりの親の脳の科学/胎児細胞の謎/なぜ妊婦が科学研究で軽視されるのか/残された問題/愛着理論は「金字塔」か/さらなる科学的証拠は必要?/科学と哲学のギャップ/「より広範な意識の変革」へ/無力感に置き換わるもの
謝辞
訳者あとがき――母性神話よ、さようなら
書誌情報
読み仮名 | キセキノハハオヤノウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 320ページ |
ISBN | 978-4-10-611095-5 |
C-CODE | 0240 |
整理番号 | 1095 |
ジャンル | 科学、サイエンス・テクノロジー |
定価 | 1,375円 |
電子書籍 価格 | 1,375円 |
電子書籍 配信開始日 | 2025/07/17 |
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蘊蓄倉庫
子供への愛情は勝手に生まれるものか?
ある研究では、出産1週間後の初産婦112人のうち40%が、初めて赤ちゃんを抱いた時に感じたのは「無関心」だったと答えているそうです。一方、産後の月日が経つほど、つまり母親が経験を積むほど、脳のある部位(扁桃体)と重要な脳の領域(側坐核)の連携が強まり、研究者が「母親としての構造化」と呼ぶ、赤ちゃんの興味を読み取り、無理なく誘導し、注意を払って思慮深く対応できる能力が高まるのだといいます。こうした脳の構造的変化と、この過程で働く脳の報酬系(やる気を起こさせるシステム)との相互作用が、子供への愛情を育んでいく一因ではないかと考えられているそうです。
掲載:2025年7月25日
担当編集者のひとこと
親になるとなぜ考え方まで変わるのか
男性として不思議に思っていたことがあります。妊娠・出産の前後、女性のメンタルが不安定になっているのかなと思うことはままあります。理系出身の身としては、男性と違って複雑な機構を体内に持つ女性は、妊娠・出産をコントロールする多様なホルモンのアップダウンに曝され、精神状態もまたそのホルモンバランスに影響されるのだ、という説明はうなずけるものです。
ですが、よく考えてみるとわからなくなってくるのは、だったらなぜ個体の生存には不利なはずの産後うつのような症状があるのか。授乳が終わり、ホルモンバランスの変化の影響を脱したはずなのに女性のメンタルに影響が残るように見えるのはなぜなのか。妊娠・出産しない男性でも、子育てに熱心だったり一人親だと母親のような振る舞いを見せるようになっていくのはどうしてなのか。さまざまな科学雑誌の記事を読むと、それぞれに納得させられるような気もするのですが、どうもモヤモヤする……と思っていた時に出会ったのが本書でした。
画像化技術の進歩により、現在、「親の脳」の研究は格段に進んでいるのだそうです。母親の脳が産前産後でどのように変化し、どんな影響を(もしかしたら生涯にわたって)及ぼしているかもわかりつつある上、育児によって父親の脳も変化することが明らかにされつつあるというのです。そして、赤ちゃんという無力で、親の力なしには生きられない存在が、実はいかに大きな影響力を親に揮っているかということも──。
最新研究が明らかにする驚愕の事実を、ぜひ本書でお確かめ下さい。
2025/07/25
著者プロフィール
チェルシー・コナボイ
Conaboy,Chelsea
1982年生まれ。ジャーナリスト。米国ロードアイランド州出身。公衆衛生及び健康科学を専門とし、ボストン・グローブ紙在籍時にはチームの一員としてピュリッツアー賞を受賞している。2025年7月現在は米国の一流紙誌に寄稿するなど活躍中。メイン州在住、二人の息子の母。
竹内薫
タケウチ・カオル
1960年東京都生まれ。サイエンス作家・理学博士。ZEN大学教授。東京大学教養学部、同理学部を卒業。マギル大学大学院博士課程修了(高エネルギー物理学専攻)。著書、訳書多数。