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おどろきの「クルド人問題」

石神賢介/著

968円(税込)

発売日:2025/08/20

  • 新書
  • 電子書籍あり

え!? トラックが僕を追って来る! 現地から生まれた体感ノンフィクション。

不用意に撮影したからか。気づけば僕は過積載のトラックに追いかけられていた……。きっかけは「埼玉県川口市に実際に住んで、クルド人問題を取材してみませんか」という編集者からの提案。ケバブ店、クルド人御用達の朝食食堂、シーシャバー、解体業者、教育現場と市内を縦横に駆け回り、子ども、住民、市議会議員から市長にまで話を聞き、見えてきたのは「多文化共生」という理想と現実のおどろくべきギャップだった。

目次

はじめに

第1章 事件とトラブルが起きていた
国を持たない最大の民族/テロ組織との関係/クルド人関連事件簿/医療センターで100人規模の大暴動/赤羽の公衆トイレで性的暴行/伊刈トラックひき逃げ死亡事件/商業施設花火投げ事件/10代女子連続性的暴行事件/前川無免許ひき逃げ死亡事件/公園で不同意性交/子どもが遊ぶ公園で性行為

第2章 西川口駅前は昭和の空気漂う平和な街だった
『キューポラのある街』の今/ギャンブルと性風俗の街から多国籍の街へ/川口に住むクルド人と対面/「ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセン」/彼らは難民ではない?/駐日トルコ大使たちの対応/仮放免で日本に滞在し続けるループ/クルド人が解体業に就く理由/「ニホンジン、シネ!」/PKK創始者の声明

第3章 解体業のトラックに追い回されて怖かった
真っ暗闇の町/シーシャバーへ/自転車で再度赤芝新田へ/地域住民たちの意外な反応/小学生に聞き込みしてみたら/朝食のパンは500円/女性に怪しまれる/クルドカーに追われる

第4章 市議会議員たちは脅されながら闘っていた
議会にて/仮放免者の名簿はあるのか/いい外国人、悪い外国人/川口市と国との意識のギャップ/奥富市議の覚悟と気骨/起訴するべき事案は起訴、罰するべき者は罰する/クルド人関連でビジネス展開する日本人/クルド人対策視察ツアー

第5章 解体業者の事情を根掘り葉掘り聞いてみた
なぜ解体業に参入したのか/クルド人解体業事件簿/深刻な人手不足/100社と面談し50社以上に問題が発生/日本クルド文化協会に取材を申し込むと

第6章 「東京湾に沈めてやる」と市議は言われた
市議、交通事故被害に遭う/被仮放免者リストを自治体も共有する必要性/不法就労者にも課税せよ/小中学校に通う子どもたち/警察は打つ手を失っている?/地主との持ちつ持たれつ/「東京湾に沈めてやる」/リーダー不在の弊害/ケバブ店に入り浸る

第7章 クルド人の子どもたちはとても人懐こかった
芝園へ/教育を受ける権利/“サバイバル日本語”の習得/言葉の壁/雨の日はお休み/かしこく やさしく たくましく/共生社会講座/大人の事情と子どもの自我

第8章 川口市長は本音と苦悩を口にした
川口市から国への3つの要望/市役所へ/市の公用車を青パト車両として配備/赤芝新田からの陳情書/市街化調整区域の抱える事情/線引きは法律で

おわりに

主要参考文献

書誌情報

読み仮名 オドロキノクルドジンモンダイ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-611096-2
C-CODE 0236
整理番号 1096
ジャンル 政治・社会、ノンフィクション
定価 968円
電子書籍 価格 968円
電子書籍 配信開始日 2025/08/20

インタビュー/対談/エッセイ

気づけばトラックに追われていた

石神賢介

 運転中、嫌な汗が滲んだ。埼玉県川口市、伊刈近くの交差点で。ミラー越しに後方から迫る大型車が見えた。車間距離はほぼない。ぴたっと付く“ケツピタ”というアオリ運転だ。この数分前、コンビニの駐車場にいた荷崩れしそうなトラックをつい撮影したところ、外国人運転手に怒鳴られて追われることになったのだ。
 最初に川口入りしたのは2024年9月――。
「川口で暮らしてクルド人問題を取材しませんか?」
 編集者からの提案で17年落ちの愛車に服や資料を積み込み、外環自動車道を東へ飛ばした。市民に近い気持ちで取材するため、一時的に“住む”というミッションを課せられたわけだ。
 クルド人は2000年代から川口に増え、今は3000人ほどが暮らしている。多くが難民申請中だ。が、審査中、入管の判断で仮放免とされると、川口で暮らし、働き、事件やトラブルを起こす者もいる。
 2023年にはクルド人対クルド人で100人規模の暴動が勃発。頭や頸を刺し、地面は血で濡れた。機動隊も出動。自治体運営の総合病院の救命救急対応が5時間半停止した。2024年は無免許運転のひき逃げで死者が出た。未成年女子へのレイプ事件も起きている。最近、学校教師の子供への性犯罪が大きく報じられているが、こちらの事件への注目度は不思議なほど低い。
 日常的に道ばたでナンパをし、コンビニの駐車場で放尿する者、公園のトイレで行為に及ぶ者もいる。令和の日本では珍しい、数々の事例を地元で聞くたびに、おどろくばかりだった。取材の成果をまとめた拙著、『おどろきの「クルド人問題」』のタイトルはここからつけたものだ。大手メディアは、この問題の報道にとても消極的だ。
 日本人の間では、反クルド派と親クルド派の激しい対立も起きている。互いが罵りあっている。市長への殺害を予告した者までいる。
 クルド人が解体業を営む地域で、彼らと朝食をともにしたときのことだ。彼らは思いのほか人懐こい。片言の日本語でニコニコ話しかけてくる。お茶を入れ世話を焼いてくれる。生まれ育った山の暮らしを川口で悪気なくやっていると想定すると、コンビニや公園での迷惑行為もつじつまが合う。文化の違いが大き過ぎるゆえの悲劇だろうか。
 取材を進めると、クルド人なしでは人手が足りない解体業の現実、彼らに土地や住居を貸与することで経済的に救われている住民がいる現実も見えてきた。白か黒か、単純に判断はできない。
 市長や市議は、在留資格のない外国人は母国へ帰し、在留資格を持つ外国人とは共生の道を探るべきと主張する。正論だ。しかしそれを阻むなにかが、この街では見え隠れする。

(いしがみ・けんすけ ライター)

波 2025年9月号より

蘊蓄倉庫

千原せいじさんの炎上

 少し前に、ネット上で注目を集めた動画がありました。芸人の千原せいじさんが自身のYouTubeチャンネル(せいじんトコ)に、埼玉県戸田市議会議員の河合ゆうすけさんを招いたときのものです。

 河合さんは、戸田市に隣接する川口市のクルド人問題について積極的に発信をしてきた議員です。不法滞在のクルド人による犯罪や迷惑行為を厳しく摘発すべきだという立場です。これは決して、県や市の問題ではなく、国家全体に関わる大きな問題だ、というのが河合さんの意見です。

 一方で、河合さんのこうした主張や活動には反発する人たちもいます。そのせいか、河合さんの街宣活動には、抗議する人たちがやって来ることも珍しくないようです。河合さんはその様子もSNSで発信しています。

 せいじさんは、動画収録に先立ち、自ら川口市に出向いてロケをおこなっていました。ぶらぶら散歩した限り、聞いていたのとは異なり、平穏で平和な街じゃないか、と感じたようです。

 そのためか、動画収録が始まってすぐ、せいじさんと河合さんとの間には緊張感が漂い始めます。せいじさんは河合さんの言動に対して、少し大げさではないかと思っているようで、その政治姿勢に対しても懐疑的な物言いを繰り返したのです。

 一方、河合さんは、ゲストとして呼んだにも関わらず、失礼な物言いをするせいじさんに徐々に怒りを募らせます。そもそも数時間駅前を歩いただけで、何がわかるというのだ。河合さんはそのように言います。

 口ゲンカの詳細は省きますが、最終的に、冷静さを欠いたせいじさんは、河合さんに対して「お前、いじめられっ子やったやろ」と暴言を投げつけます。文脈から見て、「お前はいじめられっ子だったから、そういう(良くない)人間になったのだ」という意味だと解釈されても仕方がないものでした。そのため、このあとせいじさんは強い批判を浴びることになります。一部では炎上に近い状況が生まれました。

『おどろきの「クルド人問題」』を読むと、なぜこういう対立が起きるのかがよくわかります。単にせいじさんや河合さんの個性の問題ではありません。川口市の「クルド人問題」をめぐっては、こうした対立がずっと続いているのです。

 本書は、「親クルド派でもなく、反クルド派でもない。ニュートラルなスタンスで川口市に滞在し取材して書く」というコンセプトで書かれたものです。

 せいじさんも散歩する前に、この本を読んでくれていれば、もっと建設的な話ができたのではないか、という気がします。

掲載:2025年8月25日

担当編集者のひとこと

埼玉県川口市はとても広い

 いわゆるクルド人問題については様々な意見や体験談が語られています。比較的よく目にするのは、「駅前は普通の繁華街で、平和なものだった」といったものでしょうか。
 本書『おどろきの「クルド人問題」』の筆者もそのように感じたとのことです。

 ただ、本書には次のような指摘もあります。

「事前に川口市の地図を手に入れて、広げてみた。イメージしていたよりもずっと広い。面積は61・95平方キロメートルあるそうだ。
 東京に当てはめると、千代田区と港区と新宿区を合わせたよりも広い。都心部をぐるりと走る山手線内の面積が約64平方キロメートル。それと、川口はほぼ同じ。ちなみにニューヨークのマンハッタンは58・8平方キロメートル。あの摩天楼の大都会よりも、川口市のほうが大きい」

 新潮社は新宿区にあります。同じ新宿区内には有名な歌舞伎町がありますが、私は滅多に立ち寄りません。たまにニュースで見て、都会にはすごいところがあるのだなと感心するくらいです。

 著者は、この広い川口市に実際に住んでみるところから取材を始めました。なるべく住民の視点で、問題の本質を探っていきます。「反クルド」でも「親クルド」でもない視点で伝える「おどろき」の数々は、この問題を考えるうえでとても重要ではないかと思います。

2025/08/25

著者プロフィール

石神賢介

イシガミ・ケンスケ

1962(昭和37)年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターに。人物ルポルタージュ、体験ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。著書に『婚活したらすごかった』など。

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