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介護未満の父に起きたこと

ジェーン・スー/著

990円(税込)

発売日:2025/08/20

  • 新書
  • 電子書籍あり

「まだ先のこと」そう思ってたのに……。日に日に「できない」が増えていく80代の父。そのケアに奔走した娘が、「介護前夜」の5年を綴る。

82歳の父が突然ひとり暮らしに。幸い健康だが、家事がほとんどできないため、その生活に黄信号が灯る。唯一の家族である娘は、毎食の手配から大掃除までをあえてビジネスライクにサポート。それでも日々体力と記憶力が衰える父に、「ペットボトルが開けられない」などの難題が次々とふりかかる。「老人以上、介護未満」の身に何が起きるのか? その時期に必要な心構えは? 父のケアに奔走した娘が綴る、七転八倒の5年間。

目次

はじめに

第一章 老人以上、介護未満の父――2020年(父82歳)
1.突然のSOS
それは突然やってきた/生活力ゼロの父/老人以上、介護未満
2.誰がための安心か
ビジネス書に学べ!/あるべきゴールと三つの基本方針/「まるで刑務所みたい」
3.父の「できること/できないこと」
痩せるばかりの父/父の状況をノートに整理/まずはとにかく食事から/はじめての遠隔Uber Eats
4.それはまるで終わらないフジロック
「前科二犯」/お椀が持てない/家族といえどもビジネスライクに/トライアル&エラーの連続

第二章 世紀の大掃除!――2021年前半(父82~83歳)
1.さあ、次は家事代行サービスだ
父の愛した文鳥/家事代行サービスを試す/十人十色のサービス
2.大掃除を成功させるための心得
人生二度目の「世紀の大掃除」/「2回で8万円」の見積もり/大掃除を成功させるポイント/「父と娘のフジロック」がスタート!
3.2日間のクリーニング公演
4時間×2日の大掃除/父の生活動線を再設計/ようやくスッキリ!/それも捨てたいけれど……
4.あきらめるところ、あきらめないところ
ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』/「私は女・山本五十六」/しぶとい娘、父を諭す
5.三つの課題と目下の不安
メカニックとテストドライバー/主な三つのサポート/必須の父娘LINE/運動不足をどう解消させるか
6.生きるとか死ぬとかワクチンとか
「ワクチン接種」というハードル/「かわいそうな象」/やればできる……のか!?/第二幕スタート!

第三章 押し寄せる課題と尽きない不安――2021年後半(父83歳)
1.心と体重をすり減らし
減り続ける体重/「私、もう疲れちゃった」/痛恨のミス
2.我慢と焦燥の夏
遠隔での生存確認とケア/カロリーアップ作戦/「三本柱」をバランスよく
3.結果オーライ!
久々の訪問/やればできる!/失敗もあったけど……
4.墓参りは顔見せイベント
墓地で健康診断/予想外の訃報/いいぞ、その調子
5.「良かれと思って」が仇となり
「病院好き」の父/すれ違う思惑

第四章 ついに介護サービスを検討――2022年(父83~84歳)
1.「いざ」という時に必要なこと
認知症か、性格か/「介護サービス」を相談/介護者と被介護者の“運命”を分けるもの
2.フレイルとサルコペニア
健康と要介護の“中間”/受験勉強のような老人ケア/認知症は? うつは?/思わずガッツポーズ
3.ひとまずここまで
父は元気です……/父、84歳に/「要支援」未満の父

第五章 人生は簡単には終わらない――2023~2025年(父85~87歳)
1.父の「大丈夫」を引き伸ばす
さらに細くなった父/父の生活は続く/文鳥をめぐる「大事件」/火の玉老人/「騙し騙し」を続けるだけ
2.衰えゆく父と娘のジレンマ
脱水症状、骨折、コロナ……/必要なのは、介護手前の生活援助/家事代行からホームヘルパーへ/水頭症の手術
3.「スマート介護」で解決だ!
介護者の心を楽にするIT/タクシーアプリで移動も安心
4.コロナ、転倒骨折、癌
怒濤の一年/あんなに気を付けていたのに……/なぜこのタイミングで?/87歳、とにもかくにも現状維持

おわりに

書誌情報

読み仮名 カイゴミマンノチチニオキタコト
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-611098-6
C-CODE 0230
整理番号 1098
ジャンル ノンフィクション
定価 990円
電子書籍 価格 990円
電子書籍 配信開始日 2025/08/20

書評

介護が人生の予習であるならば

村井理子

 義父母の介護が始まって、そろそろ六年になる。この日がはっきりとしたスタートではないか? と考えているのが、義父が脳梗塞で病院に運ばれた2019年8月下旬のことで、同じ日、義母はショックのあまり、義父の身に何が起きたのか、自分がどこにいるのかさえわからなくなるほど茫然自失となり、その後しばらくして、レビー小体型認知症と診断された。義父は幸運なことにほとんど後遺症も残らず回復したが、義母は日を追うごとに症状が進み、今現在は介助なしで暮らすことはできないほど重度の状態になっている。
 義父は九十歳を超え、元気ではあるが、もの忘れの症状も出始めた。老老介護による在宅での暮らしは限界を超えている。介護保険を限界まで使ってサービスを受けても夫婦の暮らしは成り立たず、自己負担による介護費用は毎月驚くほどの金額になっている。
 老人ホームに入ればいいんじゃないですか? と思う人が多いだろう。もちろん、私もそう思う。しかし問題はそこまで単純ではない。義母が入所できる施設には、介護度の違う義父は入所できない。夫婦は常に一緒にいなければならないと固く信じている義父が義母と離れることを拒み、頑ななまでに首を縦に振らない。昭和、平成、令和を生き抜いてきたスーパーマンみたいな彼を怒らせると、大変なことになる。デイサービスは週に五日、ヘルパーによるサービスも週に五日、訪問看護師の訪問は週に一度、そして私と夫による週末の介護で、なんとか在宅介護が継続されている。ときどき、「なぜお嫁さん(私のこと)が完全同居して介護してあげないのですか?」と聞かれることがある。可能な限り冷静に返すが、心中穏やかではない。令和に“嫁”という概念があっていいのか。私にはフルタイムの仕事があるじゃないか。
 そして私はいつも考える。実の親の介護と義理の親の介護、どちらが大変なのだろうか? 私の実の両親はすでに他界しているので、実際には二人を介護することは不可能なのだが、もしそんなことになったとしたら?
 ジェーン・スーの『介護未満の父に起きたこと』を読んだ今は、「うーん、どっちもきつい!」と思う。しかしそう思いながらも、あろうことか私は、年老いた実の親の手を引く自分を想像して、心に小さな灯りがともる。涙が浮かんできたりする。あの手この手で父の生活を支える著者の奮闘を想像するたびに、大変なのは重々承知で、二人を応援したくなってしまう。
 それでももちろん、父のサポートは一筋縄ではいかない。現代のツールを駆使して父のためにと考えることも(それもめちゃくちゃ考える)、きままな父はあっさりとひっくり返す。家事代行サービスのスタッフとのトラブル、コロナ、転倒、なぜだかちらつく女の影……。次から次へと父が巻き起こすトラブルは娘を悩ませるわけだが、そこに不器用な父と娘の互いへの愛情が透けて見える。こんなことを書いたら著者には「そんなやつじゃねえから!」とお𠮟りを受けるかもしれないが。
 本書は実の娘による父のケアの記録というよりも、著者の人生にとうとうやってきた、自分の未来との対峙の物語のように思える。昔から破天荒で迷惑をかけられっぱなしだったけれど、どうしたって嫌いにはなれない父には、末永く好きなように暮らしてほしいと願う著者の挑戦はつまり、自分の将来をも見つめることなのだ。著者は父の生き方の向こうに、自らの人生を重ねているはずだ。
 介護って、人生の予習みたいなものだと思う。誰だって、必ず老いていく。どれだけ今は元気でも、どれだけ働くことができていても、自分ひとりでやれていたことも、誰かにお願いしなくてはならない未来は必ずやってくる。
 それでも希望はある。四十代後半から介護を経験した我々が、その悔しさも、悲しさも、情けなさも、金も、愛も、死も、全部書き切って、マニュアルとして残していけばいいのだ。妙に口が達者で、ついでに文章が書ける人間たちが後期高齢者となるまでに、何冊も書き上げておけばいい。
 そうすれば、「どうもあそこのババアが始まったみたいだな」「それならプランA『地域包括支援センター』だ」とか、「三丁目のジジイの手足が妙に細いぞ」「よっしゃ、プリンで摂取カロリーを無駄に上げに行こうぜ」とか、そんなことができる未来はたぶん来る。本書はそんな未来のマニュアルの一冊になるはずだ。

(むらい・りこ 作家)

波 2025年9月号より

関連コンテンツ

担当編集者のひとこと

合言葉は「ビジネスライク」

 5年前、ワケあって突然ひとりで暮らしを整えなければならなくなった82歳の父。幸いまだ心身ともに元気だが、家事がほとんどできない「昭和の男」のため、その生活に黄信号が灯る──。唯一の家族である娘のジェーン・スーさんが、そんな父のピンチに一念発起。「ビジネスライク」を合言葉に、毎食の手配から大掃除までサポートに奔走。その詳細な記録をまとめたのが、本書『介護未満の父に起きたこと』(新潮新書)です。
「ペットボトルが開けられない」「明日の予定がわからない」など、日に日に「できないこと」が増えていく父の生活を、献身的に、ときにウンザリしながら支えていきます。誰もがいきなり「要介護」となるわけではありません。必ず、そこに至るプロセスがあるはずです。いわば「老人以上、介護未満」の身に何が起きるのか? その時期に必要なケアと心構えは? 父の「介護前夜」に奔走した娘が綴る、七転八倒の5年間の記録です。

2025/08/25

著者プロフィール

1973年、東京生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のMCを務める。著書に『生きるとか死ぬとか父親とか』『へこたれてなんかいられない』など。

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