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スポーツと賭博

相原正道/著

968円(税込)

発売日:2025/10/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

●年率10%で成長するスポーツべッティング●ラスベガスに米4大スポーツが集結●サッカー1試合に掛け金1600億円。で、日本はどうする?

近年、スポーツは賭けと一体化することで、経済規模を飛躍的に拡大させている。スポーツ過疎地帯だったラスベガスにはいまや米4大スポーツが集積しつつあり、F1レースも毎年開催されている。こうした趨勢は、「賭博罪」によって公営ギャンブル以外の賭博を禁じている日本も無縁ではいられない。2030年に大阪IRの開業を見込む日本は今、どうするべきなのか。世界の現状とこれからの課題を報告する。

目次

はじめに

第1章 MLBと賭博の切っても切れない関係
ブラック・ソックス事件/ピート・ローズ永久追放/水原一平氏のスキャンダルを巡る日米の温度差

第2章 プロ野球とスポーツギャンブル
戦後の一時期やっていた「野球くじ」/黒い霧事件/巨人の賭博事件が示すプロ野球の倫理的問題/投手が狙われる理由

第3章 日本はスポーツベッティングの「ガラパゴス国家」
先進国ではすべて合法/賭博罪という「見えない鎖」/合法化の動きがない理由/警察庁によるオンラインカジノ実態調査/「公営」と「違法」の奇妙な共存/公営競技の財政構造/オンライン化している合法的なスポーツベッティング/グローバル展開に踏み出すMIXI/「WINNER」の登場/NBAはベッティング業界と戦略的提携/日本における“くじ”としての進化の可能性

第4章 サッカーを脅かすオンライン賭博
違法ギャンブルサイト/「プレミアリーグ」という最大の賭場/イタリアサッカー、栄光の陰に八百長の闇/カルチョスコメッセ/カターニアFC、降格回避のために八百長/カリスマ選手の倫理問題/国家の誇りを売ったエルサルバドル代表の代償/Kリーグで41選手が永久追放/中国サッカー界における違法ギャンブル市場の巨大な影響/ベトナムの賭博政策転換

第5章 賭けとの相性がいいテニスと卓球
スポーツベッティングの対象になりやすい個人競技/テニス界の八百長問題/マッケンローの警鐘/卓球ベッティングの静かなる台頭/ウクライナの大会をめぐる疑惑/秒で賭けるスポーツ/スポーツの経済合理性と賭けの倫理/投機対象となるアスリートへの誹謗中傷/MLB投手がコミッショナーへ直訴/応援と攻撃の境界線

第6章 業界の自浄作用に期待するのはもはや限界
ICPOの協力を仰いだFIFA/オリンピックをめぐるIOCとICPOの共闘/ICPOと共闘する国際スポーツ機関/拡大するグレーゾーン/スポーツレーダー社の不正監視システム

第7章 スポーツベッティングの歴史
古代ギリシャ・ローマのギャンブル文化/英国競馬文化の発展とギャンブルの社会的役割/スポーツベッティングと禁酒法/禁酒法の教訓とギャンブル合法化/「統治」の一部となったギャンブル/世界のスポーツギャンブル市場/eスポーツベッティングの台頭とデータドリブンの特性/スポーツベッティングとファンタジースポーツの融合/「観る」から「操作する」へ変化するファン/観戦体験が投資体験に変貌

第8章 スポーツギャンブル依存症の難しさ
可視化されにくくなったギャンブル依存症/ヤバそうな利用者には早期に介入/大阪のギャンブル依存症対策/アテンション・エコノミーによる熱中の経営戦略/関係者すべてが責任を負う

第9章 ラスベガスとシンガポール──IR・スポーツ・ベッティングの融合
ラスベガスのスポーツトライアングル/F1グランプリ開催の経済効果/巨大なeスポーツの専用アリーナ/シンガポールの2拠点IRモデル/F1とIRの親和性/F1とオリンピック/eスポーツとリアル・スポーツの逆転現象

第10章 大阪IRが挑む世界戦略
年間売上5000億円以上/競争優位はどこにあるか/「行きたくなる理由」をどうやって作るか/ラスベガスに学ぶべきMICE戦略/大阪の強みを磨け/文化としてのスポーツ×未来交通との融合/空飛ぶタクシーは高級ホテルから飛び立つ/水上タクシーと海上交通の復権/実用的なライフライン/国際的に通用するMICE人材とホスピタリティ体制/教育・研究機関との連携の可能性/幻に終わったオリンピック招致/再びオリンピックへ──IR後の大阪が目指すべき国際都市戦略

おわりに

謝辞

書誌情報

読み仮名 スポーツトトバク
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-611104-4
C-CODE 0236
整理番号 1104
ジャンル 政治・社会、ギャンブル
定価 968円
電子書籍 価格 968円
電子書籍 配信開始日 2025/10/17

蘊蓄倉庫

日本にもあった「野球くじ」

 賭博罪によって公営ギャンブル以外の賭けが禁じられている日本ですが、意外なことに戦後の一時期、「野球くじ」が販売されていました。時期は1946年から1950年で、戦地からの引揚者援護資金を集めることが目的でした。戦後復興の一助となる役割を担うということで正当化されていたわけですが、射幸心を煽ることや八百長誘発の可能性が指摘されて、わずか4年で廃止されてしまいました。

掲載:2025年10月24日

担当編集者のひとこと

「ダメ、絶対!」で大丈夫?

 スポーツベッティング(スポーツを対象とした賭博)が世界的に急拡大しています。2022年時点の世界市場規模は、日本円でおよそ13兆円。しかも、年平均で10%を越える成長率が継続しているそうです(米国市場)。

 賭博に対するスポーツ業界の対応も変わりつつあり、バスケットボールの米NBAはベッティングサイトと戦略的に提携、スポーツ専門メディア最大手のESPNも、ブックメーカーと提携して独自のベッティングサイトを作ったりしています。

 また、「賭博の街」としてスポーツと縁がなかったラスベガスは、2017年にアイスホッケーのNHL、2020年にアメフトのNFLのチーム本拠地となりました。2028年には新球場の完成と共にメジャーリーグのオークランド・アスレチックスも移転してくる予定です。残るNBAでも現役のスーパースター、レブロン・ジェームズが引退後にラスベガスでチームを保有する構想を口にしており、米4大プロスポーツが集結する未来ももはや遠いものではなさそうです。ラスベガスでは毎年のF1レース、総合格闘技やeスポーツの世界的大会も頻繁に開かれており、かつてのギャンブルの街はいまや全米屈指のスポーツ都市に変貌を遂げています。

 欧州では長年、サッカーは賭けの対象として日常生活に溶け込んでいましたが、英国のプレミアリーグでは現在、一試合で1600億円が賭けられることもあり、規模が急成長しています。近年のスポーツ選手の年俸の異常な高騰には、こうしたスポーツと賭けの一体化、商業化の急激な進展があることは間違いありません。

 スポーツと賭博の融合は、ビジネスを拡大し、新たなファン層の獲得にもつながっていますが、もちろんいいことばかりではありません。依存症、八百長、反社会的組織によるスポーツへの介入など、現在でも様々な問題が吹き出しつつあります。それでも、「賭けたい」という人の本能は否定できないので、欧米だけでなくアジアの国でも、その前提に立ってスポーツ賭博を合法化しつつあるのが世界的流れになっています。欲望は認めた上で「どこまで許容するか」という「統治の問題」として、賭博を扱っているわけです。

 一方、日本は先進国で唯一、「賭博罪」によって賭博を禁止した国です。公営ギャンブルはありますが、これはすべて特別法で対応しているもので、原則は禁止。それでも、オンラインで賭博に興じたことのある人は、警察庁の調べでは300万人を越えており、掛け金の総額は1兆円を超えています。

 この底が抜けたような状態を、「ダメ、絶対」と言いながら違反者を見せしめのように晒して厳罰化するという対応で、是正できるのでしょうか? 現状、競馬のG1レースに大金を賭けて熱狂するのは「合法」ということになっていますが、オンラインでプレミアリーグの試合に賭けたら「違法」ということになってしまう。スポーツを対象に賭けをしているという点は一緒なのに、一方は合法で他方は違法。これ、どう考えても合理性がありませんよね。

 2030年には大阪IRの開業も控えています。ここの運営を担うのはアメリカのカジノ大手。日本もそろそろ、世界の流れを踏まえた対応が必要になってきているように思います。

 本書は、賭博によって変質しているスポーツの事情、賭博やスポーツが街作りに直結しているラスベガスやシンガポールの事例の紹介、依存症対策、各種スポーツの賭博との関係など、関連する事象をザクッと検証した一冊となっています。類書はないです。皆さんの頭の体操として、ぜひご一読頂けましたら幸いです。

2025/10/24

著者プロフィール

相原正道

アイハラ・マサミチ

大阪経済大学人間科学部教授。1971年東京都生まれ。筑波大学大学院スポーツ健康システム・マネジメント専攻修了。東京ヤクルトスワローズ F-PROJECTメンバー、東京オリンピック・パラリンピック招致委員会事業部門マネジャー等を経て現職。

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