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中国共産党が語れない日中近現代史

兼原信克/著 、垂秀夫/著

1,166円(税込)

発売日:2026/01/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

中国の発展は、日本抜きには語れない。対中外交を担った実務家の視点で描く「ほんとうの中国」。

中国の近代史を、日本からの広範な影響抜きに語ることは考えられない。辛亥革命の主人公たちはほぼ全員、日本滞在経験があり、革命団体も東京で結成されている。しかし、こうした史実は、共産党による自国中心のプロパガンダによって上書きされてしまっている。対中外交に職業人生を捧げてきた前中国大使と安倍官邸外交のキーマンが、実務家の立場から日中の歴史を再検討し、「ほんとうの中国」の姿を描き出す。

目次

はじめに

第1章 中国近代史は、日本抜きでは語れない
日中の歴史を一体で見る/辛亥革命の登場人物はみんな日本経験者/日本の近代化が成功したのは「中国の後」だったから/国家意識が希薄だった清/アヘン戦争、アロー号事件は「ヤクザのやり口」/日本は岩、中国は砂/「領土」という発想になじみがなかった/自ら漢族に同化しようとする少数民族/「外国は自分たちより絶対に弱い」という前提/私兵集団が国軍になる理由/戊戌の変法はなぜ潰されたのか/日本で結成された中国同盟会/西太后には国家意識も危機意識もなかった/ロシア恐怖は日本ほど強くなかった/日米和親条約に影響を与えた中国人、羅森/吉田松陰が獄中で読んだ羅森の本

第2章 日清戦争と日露戦争
海からの脅威に気付いた李鴻章/清朝は台湾をまともに統治しなかった/「グレートゲーム」に翻弄される清/満洲も台湾も、漢人の関心は薄かった/日露戦争での日本の勝利と科挙廃止が同じタイミング/日本に来た清国人の3タイプ/アジア主義者を再評価せよ/アジアの平等な連帯を目指した玄洋社

第3章 孫文と袁世凱
有名だけど役立たず?/惜しまれるべき宋教仁の早世/日本外交は昔から戦略的思考が欠如していた/アジア革命と日本のつながりを思い出せ/恵州蜂起で命を落とした山田良政/権力延長のために同じ手段を使った袁世凱と習近平/軍閥割拠/日本語に翻訳された思想書は、10年後に中国語になる/「英雄色を好む」という共通点

第4章 盧溝橋事件が中国共産党を救った
満鉄が日米共同経営だったら……/中堅官僚の暴走/日本の植民地では人口が激増する/中国一の親日都市・大連/モンゴルのややこしさ/日中戦争勃発/戦う国民党、逃げまくる共産党/盧溝橋事件は共産党を壊滅から救った/日本に「ありがとう」と言っていた毛沢東/日本の自滅が蒋介石を助けた/日中戦争を「世界戦争」にした日本/「国民政府を相手とせず」

第5章 中台対立の始まり
朝鮮戦争が台湾を救った/自国民数千万人を死に追いやった大躍進政策/中ソ対立から米中接近へ/共産党の情報を牛耳っていた党中央調査部/広大な領土の主張は孫文と蒋介石から/チベットと新疆/朝貢回数が多かった琉球王家/「二つの中国」の実態を認めていた上海コミュニケ/「基本的には国内問題」というロジック/「基本的には」にむしろ保守派が反発

第6章 日本をモデルにした改革開放
中国の認識における日本の位置/「日本がやったとおりにやる」/胡耀邦失脚で潰えた民主化の期待/表では断絶し、裏では接触していた米中/天皇訪中は失敗だった/「友人が待っていたからだ」/日韓関係を横目で見ている中国/対立から超絶的融和に傾いた米中関係/訪中して異例の歓迎を受けた小渕総理/官僚派と党人派のような対立はあるのか/豊かになって生じた矛盾

第7章 戦略的互恵関係と尖閣問題
「韜光養晦」の使われ方が変わる/事務次官からの宿題/「君子豹変す」とのメッセージ/共産党にとっても扱いが難しい歴史問題/尖閣を拠点化できる時期はとっくに過ぎた/マッチポンプの構造/中国に塩を送ったマルクス主義歴史家のトンデモ本/尖閣問題で日本を裏切ったアメリカ/1950年の内部検討資料でも尖閣の議論はなし/田中角栄と福田赳夫の「最低な振る舞い」/法律戦から力押しに重点が移る/ブレるアメリカの対中外交

第8章 台湾有事よりも恐れるべき「平和的統一」
「八田與一」たちの実験場/金門・馬祖──日本統治を知らない、もう一つの台湾/台湾の人口構造/実は「政治オンチ」だった李登輝/高雄に立つ安倍晋三の像/中国の尖閣侵入を後押しした馬英九政権/台湾の海軍は中国と戦えるレベルにない/台湾社会の至る所に潜むスパイ/中国の影響を受けている台湾の暴力団/既存政党を支持しない層が増えていることに中国が注目している理由/エネルギーはカツカツなのに原発完全停止/世界で最もリベラルな政権/TSMCを守り切れるか

第9章 香港の本当の問題は、民主化ではない
「新香港人」に注がれる冷ややかな視線/民主化勢力は絶対の善ではない/民主化が潰されても香港の地位は揺るがない

第10章 習近平の中国
文革世代の遺物/定期的に「習近平失墜」がニュースになる理由/大使館の鳴り止まない電話/中国に築いたサプライチェーンはもはや切れない/BYDは第二の恒大になるのか/中国製電気自動車は補助金の塊/習近平本人は、「うまくやっている」と思っている/トウ小平に対する恨み

あとがき

書誌情報

読み仮名 チュウゴクキョウサントウガカタレナイニッチュウキンゲンダイシ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 320ページ
ISBN 978-4-10-611112-9
C-CODE 0220
整理番号 1112
ジャンル 政治、思想・社会、歴史・地理
定価 1,166円
電子書籍 価格 1,166円
電子書籍 配信開始日 2026/01/17

蘊蓄倉庫

袁世凱と習近平

 辛亥革命後の混乱を経て中華民国の初代大総統に就任した袁世凱は、日本による対華21カ条の要求に適切に対応できなかったことで批判を招きます。しかし、その批判に正面から向き合うどころか、自分が皇帝になって強権的に批判を潰そうと試みました。この試みは失敗するのですが、皇帝就任に際して袁世凱は、地方の有力者たちに「袁世凱さん、皇帝になってください」という多くの嘆願書を書かせています。一種のやらせです。
 実は、習近平が国家主席の任期制を撤廃して三期目も継続するとなった際、同じ技法が使われています。地方の書記などが、「習近平主席、これからもご指導ください」といった請願を行ったのです。すると当時、ネット上に袁世凱を批判するような書き込みが多数掲載され、「袁世凱」という単語が検閲対象になったそうです。言論の自由のない中国では、このような暗号めいた表現や、過去の人物に仮託する形で政権批判が行われることがままあるからです。

掲載:2026年1月23日

担当編集者のひとこと

プロパガンダを史実によって上書きする。

 中国の近現代史は、共産党の極端な秘密主義と大規模な宣伝工作によって、真実から大きく歪められた形で語られています。大躍進政策や文化大革命、天安門事件といった、中華人民共和国の歴史を画した事象については、そもそも研究することすら許されていません。いずれも共産党政権が自国民を大量に死に追いやった事件ですが、歴史研究によって史実が明らかになったら、共産党の統治の正当性が揺らいでしまうからです。だからこそ中国は、歴史研究の代わりにイデオロギー的な宣伝工作に力を注いでいます。

 中国共産党は、自らの統治の正統性の根拠を「抗日戦争で日本をやっつけたこと」に置いていますが、これは事実と異なります。抗日戦争を闘ったのは蒋介石率いる国民党であり、共産党は日本軍と事実上の協力関係を結んで、勢力の温存を図りました。共産党が国民党を退けて天下を取ることが出来たのは、ある意味で日本のおかげなのです。かつては毛沢東もそう公言していましたし、彼の存命中は「抗日戦争勝利記念パレード」など一度も行われたことはありません。

 そもそも、近代以降の中国の歴史は、日本からの広範な影響抜きに語ることは考えられません。特に辛亥革命の主人公たちは、ほぼ全員が日本に滞在したり、日本で学んだりしており、革命の母体となった団体(中国同盟会)も東京で結成されているほどです。欧米の先進的な知識も、当時の中国人は日本語を通じて習得しており、いま社会科学用語の7割が日中で共通しているとされるのも、梁啓超などの当時の知識人が西洋語の日本語訳をそのまま中国に「移植」したからです。

 しかし、こうした日本からの広範な影響や交流の記憶は共産党によって漂白され、自国中心のプロパガンダに置き換えられてしまっています。本書は、こうした現状を憂えた、実務家として対中外交を担ってきた二人の元外交官が、史実によってプロパガンダを「上書き」する目的を持って企画されました。

 著者の一人である垂秀夫氏は、2020年から2023年まで駐中国日本国特命全権大使を務めました。その間、日本の国益の観点から一貫して中国共産党の論理に反撃を続けたことから「中国共産党が最も恐れた男」とも呼ばれましたが、元々は外務省のチャイナスクールの一人として、在外勤務も北京、香港、台北と中華圏のみで経験された、日本有数の中国専門家です。
 もう一人の著者である兼原信克氏は、外務省国際法局長を経て内閣官房に転じ、外政担当の内閣官房副長官補、国家安全保障局次長として、安倍政権の官邸外交を支えました(2019年退官)。在任中の最大の戦略的課題だったのは、言うまでもなく膨張する中国とどう退治するかであり、中国のロジックを徹底的に研究してこられました。

 実務家として現在の中国を最もよく知る二人の元外交官による対話は、中国の本当の姿を鮮やかに浮かび上がらせてくれます。折しも台湾有事をめぐる高市総理の発言を発端に、日中関係は緊迫していますが、本書は中国という国にどのように向き合えばいいのかに関する数多くの示唆も含んでいます。ぜひご一読ください。

2026/01/23

著者プロフィール

兼原信克

カネハラ・ノブカツ

1959年山口県生まれ。笹川平和財団常務理事。東京大学法学部卒業後、1981年に外務省に入省。フランス国立行政学院(ENA)で研修の後、ブリュッセル、ニューヨーク、ワシントン、ソウルなどで在外勤務。2012年、外務省国際法局長から内閣官房副長官補(外政担当)に転じる。2014年から新設の国家安全保障局次長も兼務。2019年に退官。著書に『歴史の教訓』『日本人のための安全保障入門』など多数。

垂秀夫

タルミ・ヒデオ

1961年大阪府生まれ。前駐中国日本国特命全権大使、立命館大学教授。京都大学法学部卒業後、1985年に外務省入省。中国語研修組(チャイナスクール)として、一貫して対中外交に関わる。南京大学に留学の後、北京、香港、台北などで在外勤務。2006年、日中の「戦略的互恵関係」の構想を発案。2020年、駐中国日本国特命全権大使に就任。2023年12月退官。著書に『日中外交秘録 垂秀夫駐中国大使の闘い』。

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