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漢字文化圏の興亡─中国の限界、日本の前途─

若山滋/著

990円(税込)

発売日:2026/03/18

  • 新書
  • 電子書籍あり

漢字圏はアルファベット圏に勝てないのか? 「文字」と「建築」で解き明かす壮大な文明論。

万葉集、源氏物語、織田信長、夏目漱石……古来、日本人は漢字文化圏の中国、アルファベット文化圏の西洋と向き合い、独特の方法すなわち「和能」をもって大陸の文明を受容してきた。世界情勢と東西の力学が大きく変わりつつあるいま、私たち日本人が進むべき道はいったいどこにあるのか。長年、建築と文学の関係を探究してきた著者が、世界各地での実体験を織り交ぜながらこの国の前途を問う、画期的論考。

目次

まえがき ブライトンの波濤

第1章 漢字文化圏とアルファベット文化圏
漢字文化圏とは何か/日本の興隆と衰退/中国の興隆とつまずき/漢字文化圏は漢字分離圏でもある/地球沸騰・気候爆発の中で/象形文字・楔形文字・甲骨文字/アルファベット圏の文化は発展する/漢字圏の文化は深化する

第2章 文字と建築の密接な関係
ガムラスタンの犬/風土様式・宗教様式・近代様式/風土様式の分類と分布/積み上げる文化・組み立てる文化/宗教様式の分類と分布/建築と文字の同調/壁の文化・屋根の文化/花蓮港の産湯/知の虐殺・文字への怨念

第3章 漢字思想の花が咲く
都市化する動物とその怨念/脳の外在化/戦争が人を生む/雪と雲のアルピニスト・若山美子/「ソクラテス・釈迦・孔子」は同時期/「孔子vs老荘」という構造/漢・冊封という平和/唐・科挙という公平/長安の思想と構造/平城京には城壁がない

第4章 仮名文学の花が咲く
名古屋へ/『万葉集』には寺がない/文字への怨念を文字にする/「家」は人を詠み「やど」は草花を詠む/制度の空間・逸脱の空間/漢字の「呪能」・仮名の「和能」/唐詩の空間・和歌の空間/柔らかい多重の隔て/『源氏物語』は怨霊の文学/仏・神・鬼・天

第5章 取り残された文化圏
礫漠のシルクロード/「ユーラシアの帯」という視点/大きな文化圏・小さな文化圏/ジブラルタル海峡のトイレ/ギリシャ・ローマの爆発的都市化/一神教の誕生/救済・贖罪・戒律/地中海の覇者・イスラム帝国/「儒教階級」士大夫・両班/武家日本のダイナミズム/「不立文字」武の和能

第6章 信長は漢字圏初の「世界人」
司馬遼太郎との出会い/マムシ(道三)とウツケ(信長)/科学的談話・信長とコペルニクス/天主と茶室・南蛮の彼方に/「世界システム」の確立/活版文化の花が咲く/木版文化の花が咲く/風狂とは「逸脱からの逸脱」/江戸の諸子百家/都市化の資本主義と怨念の社会主義/大西洋の陽光とシベリアの凍土/日本語なんか意味がない/二つの講演・源氏と万葉

第7章 漢字帝国の挑戦・1945まで
漱石・漢字とアルファベットに引き裂かれ/洋風住宅は富貴権門の象徴/黒船という仏像/孫文と日本/社会主義の両面/責任は知的エリートにも/篠田桃紅と篠田正浩/グロピウス夫人のモダニズム/アウシュビッツとバウハウス

第8章 漢字帝国の挑戦・1945から
西欧植民地主義500年の大怨念/ロシアと中国は塑性域の力が強い/中国の夢/漢字と共産党/戦後右派はなぜ親米か/削減の改革・「和能」の再興/相対平和論/九つの事実・三つの原則・四つの指針

あとがき 遠い他者に向かって

書誌情報

読み仮名 カンジブンカケンノコウボウチュウゴクノゲンカイニホンノゼント
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-611118-1
C-CODE 0295
整理番号 1118
ジャンル 文学・評論
定価 990円
電子書籍 価格 990円
電子書籍 配信開始日 2026/03/18

インタビュー/対談/エッセイ

混迷する世界情勢に新しい視野を

若山滋

 世界が揺れている。東アジアもキナ臭くなってきた。戦争の足音が聞こえるような気もする。この緊迫に臨んで、新しい視野が開けないものかと思案し、「漢字文化圏」という概念にたどり着いた。
 500年あまりにわたって世界史をリードしてきたのは圧倒的に西欧・北米であったが、ここ100年ほど、日本を先達として、中国や、韓国、ベトナムなど「漢字文化圏」(過去に漢字を使っていた国を含め、以後「漢字圏」と略す)が、世界の主役級に躍り出た感がある。近年は、中国が大発展を遂げ台頭著しい。とはいえ、最近はその中国も怪しくなってきたようだ。
 そこで、この漢字圏そのものの興亡を、長期的、文化的に論じてみようと考えた。それは筆者の専門である建築から来てもいる。建築と文字には密接な関係があり、似たような文字を使う地域は似たような建築様式をもつのである。現在、唯一の表語文字(表意文字)である漢字を使う国以外は、ほとんどが広い意味でのアルファベット圏であり、その宗教建築は石造あるいは煉瓦造の組積式構法であるが、漢字圏だけは、その宗教建築が木造の軸組式構法である。音の記号であるアルファベットは世界に広がったが、それ自体が意味をもつ漢字には文化的な抵抗があり、東アジアにとどまった。漢字圏は孤独なのだ。
 白川静氏は、漢字には「呪能」があるという。周辺の文化はその呪能から逃れようと独自の文字を発明した。日本は表音文字としての仮名をつくり「漢字仮名交じり文」を使用する。こんな国は他にない。日本は、漢字の「呪能」とともに仮名の「和能(他と親和する力)」を有するのであり、その混合に独特の文化が発達し成熟した。
 漢字圏は、時として夜郎自大(かつての日本、現在の中国)に陥るが、アルファベット圏に比べて深みのある文化をもつ。西欧文明の延長たる近代文明の結果としての異常気象と自国主義化の中で、この文化圏が果たしていく役割は、地球および世界と協調する「和能」の中にあるのではないか、と考えた。
 そして、戦後の台湾に生まれ、これまであちこちと旅をしてきた人生を語る紀行文と、建築と文学を基本とする文化論が合体した「自伝+評論」のような著書ができあがった。筆者は、叔母である篠田桃紅(抽象美術家)、母の従弟である篠田正浩(映画監督)、幼いころ一緒に暮らした従姉である若山美子(アルピニスト)、テレビ番組で対談したことがきっかけでお付き合いがあった司馬遼太郎さんなどに影響を受けたので、そのエピソードも盛り込んでいる。
 国際情勢と東西の力学が大きく変わりつつあるいま、漢字文化圏に属する日本に何ができるのか。その可能性は小さくないように思える。

(わかやま・しげる 建築家・名古屋工業大学名誉教授)

波 2026年4月号より

蘊蓄倉庫

篠田桃紅さんと篠田正浩監督

 建築家であるとともに、長年、名古屋工業大学で教鞭をとった著者の若山滋さんは、著書も多く、斯界では広く知られた存在です。その若山さんには著名な縁者が何人かいらっしゃいます。まず、『一〇三歳になってわかったこと』などのエッセイでも知られる抽象美術家の篠田桃紅さん。桃紅さんは若山さんの叔母さんにあたります。そして、小津安二郎の助監督を経て松竹ヌーヴェルヴァーグの旗手としてデビューした篠田正浩監督(女優・岩下志麻さんのご主人)は桃紅さんの従弟。この数年で亡くなったこのお二方から、若山さんは大きな影響を受けてきたとのこと。本文でもお二人の貴重なエピソードを取り上げています。

掲載:2026年3月25日

著者プロフィール

若山滋

ワカヤマ・シゲル

1947年台湾生まれ。1974年東京工業大学大学院博士課程修了。建築家。名古屋工業大学名誉教授。専攻は建築文化論、比較様式論。『建築へ向かう旅』『「家」と「やど」』『文学の中の都市と建築』など著書多数。篠田桃紅(抽象美術家)は叔母、篠田正浩(映画監督)は母の従弟。

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