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愛知県は天下を取るがね

篠原匡/著

1,078円(税込)

発売日:2026/08/19

  • 新書
  • 電子書籍あり

いま最も注目すべき都市は名古屋だ! 【製造業】×【スタートアップ】×【エンタメ】で天下布武!

ともすれば、「経済は強いけど地味な土地」と見られがちだった愛知県が近年、急速な変貌を遂げている。斬新な官民連携手法で刷新された公共施設群によって、エンタメ都市としての存在感が急上昇。製造業の集積をスタートアップと掛け合わせて、新産業の創出や社会課題の解決にも繋げている。2011年に就任した大村秀章知事の下、「地方創生のファーストペンギン」となった愛知県の躍進を多角的にレポート!

目次

まえがき

第1章 「名古屋飛ばし」を終わらせたIGアリーナ
巨大イベントが次々と/県負担は変わらないのに施設が豪華になったワケ/「経営の自由度」を担保する/30年で200億円以上の利益が出せると判断した根拠/実装された「日本初」の数々/ワンフロアをVIPルームに/ネーミングライツをいろいろな場所で活用/運営企業に参画した世界的エンタメ企業/アリーナ経営に乗り出したNTTドコモの狙い/施設整備のコペルニクス的大転回/想像以上にざっくりとしていた要求水準/有料道路での成功体験/DX化の推進で作業時間を10%削減/官僚機構と異なる意思決定のスピード/施設整備の選択肢になったPPP/民間企業が公共の土俵で儲けることを是とする

第2章 製造業とベンチャーを掛け合わせよ
「らしい」オープンイノベーション施設/手厚い支援プログラム/「リバースピッチ」という逆転の発想/入居者同士を結びつける「カフェ会」/偶然を意図的に作りだせ!/空洞化に対する危機感と東京との差別化/なぜフランスのインキュベーション施設と提携したのか/ものづくり企業とスタートアップの融合モデル/牛の発情をAIで見極める/グリストラップの油を微生物で分解/炭素繊維の循環型サプライチェーン構築を目指す/日々の食事の見直しでフレイル予防/サイレントカスタマーの声を可視化/デュアルユースのドローンを開発/行政がイノベーションに踏み込む意味

第3章 認知症対策の先進県
東浦町と大府市の認知症予防プログラム/長寿医療センターが進めるJ-MINT研究/研究所にある6つの研究センター/有機的に結び付いた研究所と病院/大規模なフレイル研究/東浦町のやたらと手厚い認知症対策/虐待防止にも効果/きっかけとなった20年前の事故/運転を続けた方が認知症になりにくい

第4章 流域思考でカーボンニュートラル
水没する遊水地に太陽光発電の奇策/消費電力を35%削減する次世代浄水場/放流水を利用した水力発電/河川の堤防に太陽光発電設備は設置できるか?/「まずはやってみよう」/流域市町が一本化に踏み切った理由/組織の全体最適を目指す場に

第5章 ジブリパーク、醸造文化、犬山城のポテンシャル
公園と調和したジブリパーク/ジブリパークが愛知県にできた理由/「サツキとメイの家」が生んだ縁/「日本初」の共同収蔵庫/知多半島で花開いた醸造文化/寿司のファストフード化を支えた粕酢/名古屋めしを支える八丁味噌とたまり醤油/お酢の味比べ/犬山城が重要視された理由/「座敷からくり」と「山車からくり」/からくりを支える9代目・玉屋庄兵衛/トヨタのものづくりの原点

第6章 外国籍の子どもたちのインクルージョン
「外国人がいないと回らない」という悲鳴/受け入れに求められる「両輪のサポート」/日本一多い外国籍の児童・生徒/衣台高校が始めた「日本語」の授業/母語での思考は日本語能力の向上にも資する/「日本語以外も使っていい」という発想の転換/生徒の4割が外国籍/画期的だった豊田市の「ことばの教室」/保見中学校が進めた二つの施策/生徒のために教師が教え方を変えた/再生の象徴となったアートプロジェクト/受け入れと同時に考えるべきこと

第7章 大村知事、かく語りき
クリエイティブな都市を目指す/産業空洞化を食い止めよ/現場力とデジタルの融合/人が集まるのは「面白い街」/国会議員はルールメーカー、知事はプレイヤー

あとがき

書誌情報

読み仮名 アイチケンハテンカヲトルガネ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-611132-7
C-CODE 0230
整理番号 1132
ジャンル 政治、ノンフィクション
定価 1,078円
電子書籍 価格 1,078円
電子書籍 配信開始日 2026/08/19

蘊蓄倉庫

江戸の寿司文化とミツカン

 愛知県には知多半島を中心に独特の「醸造文化」があります。「名古屋めし」を支える八丁味噌、たまり醤油、みりんなども、この地域で作られてきました。
 お酢や味ぽんで知られるミツカンも愛知県の会社ですが、実はミツカンの成長には、江戸の寿司文化が関係しています。初代の当主・中野又左衛門は、江戸に出て寿司の市場性を確信。そこで、高い米酢ではなく地元の酒造りの副産物である酒粕を使ってお酢を作り、圧倒的な低コストによって市場を席捲したのです。しかも、アルコール分を含んでいる酒粕が原料だと、コメからお酢を作るよりも工程が少なく、熟成期間が長いので甘味も香りも強い。ミツカンの粕酢は、低コストで高品質な商品を作り出した「競争戦略の勝利」の事例と言えます。

掲載:2026年8月25日

担当編集者のひとこと

地方創生のファーストペンギン

 2025年9月14日、ボクシング井上尚弥の世界防衛戦は、名古屋で開催されています。なぜ名古屋だったのか? エンタメの世界ではかつて「名古屋飛ばし」という言葉があったくらいですから、名古屋がこの手の大規模イベントの舞台になるのは珍しい。それが可能になったのは、2025年7月に「IGアリーナ」という施設が誕生したからです。

 このアリーナは、PPP(Public Private Partnership 官民連携)という仕組みを使って、建物の設計・施行の段階から民間企業が主体になって作られています。しかも、それを受託したコンソーシアムに、NTTドコモや前田建設に加えてアメリカのエンタメ企業AEGが入っている。AEGは海外でいくつものスタジアムやアリーナ、加えてプロスポーツチームも所有しており、ローリング・ストーンズやテイラー・スウィフトなどのツアーも手がけている世界的な興行会社。そのノウハウを設計の段階から組み込んだ、世界目線で作られた施設がIGアリーナなのです。

 実は、愛知県はこうした官民連携による公共施設の刷新を勢力的に続けており、県営の高速道路や国際展示場の運営も民間に任せ、成果を挙げています。美術館や劇場などの複合施設「愛知芸術文化センター」も、地元企業を中心にした民間に運営を任せることになっています。一方で、大村秀章知事のトップ外交で招いたジブリパークが、観光の目玉としての存在感を高めています。

 さらに注目すべきは STATION AIという施設。ここは県が主導して作ったインキュベーション施設ですが、IGアリーナと同様に、運営だけでなく施設の整備の段階から民間が関わる方式を採用して、ソフトバンクグループによって運営されています。
 ポイントは、製造業が圧倒的に強い愛知県の強みを生かしていること。既存企業とベンチャーの両方が入居して、お互いに課題を提出しあって新事業の創出や社会課題の解決に繋げる仕組みを作っているのです。インキュベーション施設は一定規模の都市にはどこにでもあるのでしょうが、今後AIが実装されていく段階に差し掛かってくると、愛知県の製造業の集積が強みを発揮すると考えられるので、そこを見越して制度設計しているわけです。

 2011年に就任した大村知事は、米国の社会学者リチャード・フロリダの著書『クリエイティブ都市論』を愛読しているそうで、クリエイティブ人材の集積を生み出すことに力を注いできたそうです。ジブリパーク、IGアリーナ、芸術センターなどのエンタメ施設の整備・刷新をしているのは、つまらない都市には人が集まらない、と考えているから。概して「トヨタはあるけど、製造業は強いけど、あんまり面白くないところ」と考えられてきた愛知県・名古屋市のイメージは、劇的に刷新されてきているのです。

 愛知県にはその他にも、上下水道の運営を自治体の垣根を超えて流域単位で一体化させたり、認知症対策に力を入れるなど、人口減少・高齢化社会の現実を見据えた面白い取り組みがあります。こうした「都市(広域都市圏)の刷新」を続ける愛知県は、言ってみれば「地方創生のファーストペンギン」と言えます。

 実は、本書のタイトルも最初は「愛知県はファーストペンギン」で考えていたのですが、愛知県出身の人にヒアリングをしているうちに、地元の方々の並々ならぬ愛知愛や自信を知り、「天下を取るがね」まで振り切ってしまいました。大河ドラマで「豊臣兄弟!」をやっていて名古屋言葉が全国に流れている、という事情もありますし、私自身が30年くらい前に、つボイノリオの「名古屋はええよ!やっとかめ」をカラオケでがなっていた記憶が蘇ったのもあります(笑)。この歌の歌詞に「天下を取るがね」というセリフがあるんですよね。

 ともあれ、今回の取材で愛知に魅せられた著者の篠原さんの安定した筆致もあって、とても面白い本に仕上がっています。あまりなじみのない方が読めば、愛知県と名古屋を見る目が刷新され、なじみのある方にとっては再発見に繋がる本だと思います。ぜひご一読を!

2026/08/25

著者プロフィール

篠原匡

シノハラ・タダシ

1975年生まれ。ジャーナリスト・編集者。慶応義塾大学商学部卒業後、日経BP社に入社。日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長などを経て独立。著書に『腹八分の資本主義』『神山 地域再生の教科書』『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』など多数。

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