お知らせ

2021年 賀正 新潮社
「私たちは人類史上かつてなく他人と接続しているのに、
なぜ孤独を感じるのだろう。」

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 会社や学校はもちろん、風呂場でもリビングでも、いまや私たちは常に誰かとつながっていられます。会議も飲み会も授業も同窓会もリモート可。世界中の人とも同時に交流できてしまう。テクノロジーのなんと便利で快適なことか。
 なのに、なにかが、足りない。
 そんなことをこの一年、感じはしなかったでしょうか。
 足りなかったのは、愛する人の体温? おいしそうな料理の匂い? 液晶画面では伝わってこない質感?
 脳をめぐる一連の著作で世界的な人気を誇る精神科医・作家のアンデシュ・ハンセンは、『スマホ脳』という本の中でこう言います。
「私たちを取り巻く環境と、人間の進化の結果が合っていないことが、私たちの心に影響を及ぼしているのだ」
 スマホ登場によるこの十年の行動様式の変化は、人類史上最速のもの。ヒトの脳がそれに追いつくように進化するには気が遠くなるような時間が必要です。そのギャップから何が生まれたか。ハンセンは最新研究をもとに指摘します。“心の病”、集中力低下、記憶力減退等々。SNSを使っている時間が長い人のほうが孤独を感じている、という研究結果も出ています。多くの人々とつながっているはずなのに、かえって孤立を感じたり、自信を失ったりしているというのです。

 二百年前の産業革命は、人々を飢餓の不安から解放した一方で、死に至る生活習慣病を生み出しました。いま急速に進む社会のデジタル化は「ほんの始まり」にすぎません。便利な道具に脳をハッキングされるのではなく、私たちが道具を便利に使いこなす。そんな未来のために、ハンセンの警告を真剣に考える時がきています。

 困難に直面し、迷い、悩みながらも新たな世界の一ページを開こうとするとき、人は「本」を開く。それによって、最先端の知はもちろん、多くの先人の知恵や気持ちとつながることもできる。読書そのものは孤独な作業なのに、そこからは大きな充足感を得ることができる──。
 今年も新潮社は、そんな本の可能性を考え続けます。

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朝日新聞/毎日新聞/産経新聞/東京新聞/西日本新聞 2021年1月1日掲載

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