文学賞

第33回
三島賞・宇佐見りんさん、山本賞・早見和真さん
受賞スピーチ

 2020年11月5日(木)、第33回 三島由紀夫賞・山本周五郎賞(一般財団法人 新潮文芸振興会主催)贈呈式が行われました。
『かか』で三島賞を受賞した宇佐見りんさん、『ザ・ロイヤルファミリー』で山本賞を受賞した早見和真さんの受賞挨拶です。

第33回 三島由紀夫賞受賞 宇佐見りんさん受賞挨拶

宇佐見りんさん

 まずは、大変な状況の中で話し合いを重ね、選んでくださった選考委員の先生方、本当にありがとうございました。この小説を文藝賞に送った二年前、私は十九歳で、まさか三島由紀夫賞という栄えある賞に選んでいただけるとは思いもよりませんでした。まだ新人で、こうした場でお話しできることは少ないので、二年前に取材を兼ねて行った熊野旅行での出来事について、少しだけお話ししようと思います。

『かか』の主人公のうーちゃんも熊野を訪ねますが、彼女とは違って、私は奈良にも足を延ばしました。興福寺の阿修羅像を見るためです。

「彼」に会うのは三度目でした。一度目は高校の修学旅行。観光気分だった私は、その孤独な表情に心打たれました。以来虜になり、いろいろな資料を読み仏像について勉強して、少しだけ詳しくなりました。

 一度目と二度目は裸眼でした。なので、三度目はよく見ようと思って、メガネを持っていきました。メガネをかけて見てみると、その表情が今まで感じていたものとは少し違って見えました。それから、すごく驚いたことに、指が、経年劣化のために欠けていたんです。私は一度目も二度目も真剣に眺めていたつもりだったのですが、三度目にして初めて、実はちょっと違った表情をしていて、指が欠けている、ということに気づいたんです。

 慌てて、持ってきていた阿修羅像の写真を確認しました。すると、やはりそこに、指の欠けた阿修羅像が写っていたんです。私は写真が書き替えられたんじゃないかと思ってしまうほど、衝撃を受けました。そしてなんとなく不思議な気持ちで、興福寺を後にしました。

 それまで私の中の阿修羅像には全ての指がきちんと存在していました。怒りをはらんだ悲しげな目で、こちらをまっすぐに見つめていたはずでした。では、私が今まで見てきたものは、何だったのでしょうか?

 この頃、三作目の執筆にあたり、コンタクトレンズを初めて作りました。見えなかったものが見えるようになり、書くものもまた変わっていくのを感じています。それと同時に、これまで見えたものが見えなくなっています。それは、例えば先ほど述べた阿修羅像の指のような、主人公の中には確かに、熱を持って存在していたものです。『かか』は、そのようなものが詰まった小説だと思います。

 執筆の頃の心情は、全ては思い出せませんが、無き指を見る主人公の声を、届くべき人のもとに届けたくて、書いていたような気がします。客観的に見れば、どうということはないかもしれない、その声を拾いあげていただき、このような賞をいただけたことで、本当に必要な人のもとに届けてもらえるんじゃないかと、そのことを嬉しく思います。

 デビューしてから、お世話になっている人もどんどん増えました。「おめでとう」と言ってくれる人たちに今までどれほど助けてもらってきたかを、思い出しました。

 名前をすべて挙げることができませんが、この場に足を運んでくださった方、この場にいなくても、この本や私に今まで関わってくださった方に、お礼を言いたいです。地道に書いていきます。ありがとうございました。

第33回 山本周五郎賞受賞 早見和真さん受賞挨拶

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著者紹介

早見和真ハヤミ・カズマサ

1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。2015年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。『ひゃくはち』『イノセント・デイズ』以外にも、『ぼくたちの家族』『小説王』『ポンチョに夜明けの風はらませて』など多くの作品が映像化されている。他の著書に『店長がバカすぎて』『神さまたちのいた街で』『かなしきデブ猫ちゃん』(絵本作家かのうかりん氏との共著)などがある。

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