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継承される血と野望。届かなかった夢のため――子は、親をこえられるのか?

ザ・ロイヤルファミリー

早見和真/著

2,200円(税込)

本の仕様

発売日:2019/10/30

読み仮名 ザロイヤルファミリー
装幀 agoera/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 510ページ
ISBN 978-4-10-336152-7
C-CODE 0093
ジャンル 文学・評論
定価 2,200円

成り上がった男が最後に求めたのは、馬主としての栄光。だが絶対王者が、望みを打ち砕く。誰もが言った。もう無理だ、と。しかし、夢は血とともに子へ継承される。馬主として、あの親の子として。誇りを力に変えるため。諦めることは、もう忘れた――。圧倒的なリアリティと驚異のリーダビリティ。誰もが待ち望んだエンタメ巨編、誕生。

著者プロフィール

早見和真 ハヤミ・カズマサ

1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。2015年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。『ひゃくはち』『イノセント・デイズ』以外にも、『ぼくたちの家族』『小説王』『ポンチョに夜明けの風はらませて』など多くの作品が映像化されている。他の著書に『店長がバカすぎて』『神さまたちのいた街で』『かなしきデブ猫ちゃん』(絵本作家かのうかりん氏との共著)などがある。

書評

父母から子へ。そして孫へ――

北上次郎

「相続馬限定馬主」という制度を初めて知った。JRAの馬主になるには、総資産が七五〇〇万円を超えていて、年間の所得が二年連続で一七〇〇万円を超えていること、という条件がある。
 問題は、馬主が死亡したときだ。故人が所有する馬はすべて法定相続人に相続されるが、その法定相続人がたとえばまだ青年であったりして、年間の所得が二年連続で一七〇〇万円を超えているという条件を満たさない場合がある。その場合、このルールを厳密に考えると、法定相続人は馬主になれないことになり、馬を売却しなければならなくなる。そこで、「相続馬限定馬主」という制度が登場する。こういう場合にかぎり、従来の馬主資格は適用されないというのだ。前年までの所得が一七〇〇万円に届かなくても、総資産が七五〇〇万円に足りなくても、飼い葉料などを負担できるのなら馬主になることが出来る、というのがこの「相続馬限定馬主」である。
 ただし、相続できるのは、そのオーナーが死亡する前に競走馬登録がされている馬に限定される。オーナーの所有する馬が将来種牡馬になり、そして子どもが生まれてきても、そういう馬は相続できない。この「相続馬限定馬主」という制度を本書で初めて知ったが、これが本書のキーポイントである。
 なぜか、という話の前に、ストーリーをしばらく追ってみよう。本書の主人公というか、狂言まわしは栗須栄治。大手の税理士事務所に勤務する二十九歳。転職しようと考えているときに大学時代の友人大竹雄一郎に会い、競馬場に誘われる。大竹の叔父が馬主で、翌日の重賞レースに持ち馬が出走するというのだ。さらに大竹は、加奈子も来るぞ、と付け加える。かつての恋人、野崎加奈子の実家は北海道にある牧場で、その牧場の将来がかかっている馬も、その重賞レースに出走するという。
 栗須栄治が翌日、競馬場に行って加奈子と再会し、恋が再燃するというベタな展開にはならない。加奈子と顔をあわせるのがちょっと気が重かったので、栗須は競馬場に行かないのだ。ただし、気になるのでテレビで観戦する。大竹の叔父の馬、ロイヤルダンスと、加奈子の牧場が生産したラッキーチャンプが、素人目によく見えた。前者が2番人気、後者は9番人気。テレビを見ていると大竹から電話がかかってきて、どうだと言うので、「ダントツにロイヤルダンスが強そうに見えた」と答えると、じゃあ単勝馬券を買ってみる? と彼が言う。電話を切ろうとする大竹を止めて、加奈子の馬も良く見えたことを伝えると、「わかった、その二頭を応援しとけ。どちらも緑の帽子だからな」。
 レースは逃げたラッキーチャンプを、ロイヤルダンスが後方一気に差して1、2着。すると大竹からまた電話がかかる。「叔父さんがお前にお礼を言いたいってきかないんだ、お前のおかげでハナ差、かわすことが出来たって。だからこれから新宿まで出てきてくれないか」。
 こうして栗須は、大竹の叔父・山王耕造と知り合い、彼の会社に入ることになり、いつからか馬関係のマネージメントをすることになる。その意味でこの小説の第一部は、山王耕造と栗須の物語である。山王耕造は人材派遣業を主とする会社のワンマン社長で、毀誉褒貶半ばするこの男の破天荒ぶりが縦横に展開して飽きさせない。
 しかしこの長編の本当の核は、第二部だ。山王耕造と愛人の間に生まれた耕一が登場して彼の物語になる(非嫡出子であっても法的に正当な相続人であれば、相続馬限定馬主になることが出来る)ところから、本当の物語が始まっていく。つまり、馬も人も、父母から子と繋がっていくのだ。さらに、孫へと。それが競馬の歴史であり、人の歴史なのである。「相続馬限定馬主」というキーワードは、そのことを象徴するかのようだ。
 レースシーンがたくさん登場する。モデルが浮かぶ馬主も騎手もそして馬も、次々に出てくる。現行競馬を知り尽くした著者ならではのディテールがとにかく楽しい。しかし競馬を知らない読者でも、延々と繋がる血のドラマに悠々とした時の流れを感じて、しんとした気持ちになるのではないか。これは競馬小説であると同時に、父と子の小説でもあるのだ。

(きたがみ・じろう 文芸評論家)
波 2019年11月号より
単行本刊行時掲載

目次

第一部 希望
一月
二月
三月
四月
五月
六月
七月
八月
九月
十月
十一月
十二月
第二部 家族



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