お知らせ

人権デューデリジェンスの新たな取り組みについて

──週刊新潮コラム問題をふまえて

新潮社 人権デューデリジェンス推進室

「週刊新潮」7月31日号に掲載された高山正之氏によるコラム「変見自在」をめぐって、新潮社および週刊新潮編集部は、差別的な内容が含まれているとのご指摘を受けました。当該号発売後の経緯は別表のとおりですが、新潮社はコーポレートサイトで謝罪の上、「人権デューデリジェンスの強化方針」を掲げました。この方針に則り、10月1日より「人権デューデリジェンス推進室」を新設、再発防止のための取り組みを進めています。
 部署新設から3カ月、「週刊新潮」担当執行役員、及び編集長の社内処分が行われ、人権・差別に関する社内研修、また再発防止策が動き始めたのを機に、あらためてご報告いたします。

 当該コラムには、外国にルーツを持つ方への差別ととられかねない表現、尊厳や人権への配慮を欠いた内容が含まれていました。特に在日コリアンの方々には、民族差別をはじめとした複雑な歴史的背景があります。「創氏改名2.0」というタイトルで、作家の深沢潮氏らの実名を挙げて、日本名の使用について言及したくだりに厳しいご批判をいただきました。重く受け止めております。
 週刊新潮編集部は当該コラムをなぜそのまま掲載してしまったのか。校了の前の時点で校閲部員から指摘は出ていました。しかしこの指摘を担当者は高山氏と注意深く検討しないまま校了してしまいます。編集のチェック機能が働かず、記述が修正されることなく掲載されるに至りました。
 署名原稿とはいえ、発行にあたって責任を持つのは編集部であり、責任者は編集長です。著者の高山氏は差別の意図はなかったと語っており、そうであれば著者によるタイトルと表現について編集部が疑問を持ち、掲載見送りも選択肢に入れた上で話し合いをすべきでした。
 当該コラムによってお名前を記された方たちをはじめ多くの方々を深く傷つけ、ひいては新潮社を信頼して下さっていたみなさまのお気持ちを裏切ることになってしまいました。あらためてお詫び申し上げます。
「変見自在」は2002年5月から始まり、20年を超える長期連載でした。その長さゆえに、慣れから来る慢心が編集部にあったのも一因と考えます。猛省の上、再発防止に取り組んでいかなければなりません。
 そのために、以下のような五つの具体的な取り組みを始めています。

①社内研修体制の強化
 人権、差別などにかかわる表現や出版倫理等について、全部署を対象とした定期的な社内研修を行います(週刊新潮編集部や校閲部など、すでに複数の部署で始まっています)。表現に携わる一人一人が差別や人権問題への意識、感度を高めていきます。
②校閲作業の重層化
 編集部と校閲部との連携をさらに強化し、共に表現に真摯に向き合いつつ、校閲作業ルートの重層化のシステムを構築します。
③社内相談窓口の確立
 人権にかかわる表現についての相談窓口を明確にし、生じている問題は社内横断的に共有します。
④ケーススタディの活用
 これまで各編集部に蓄積されていた人権問題等の事例を集積、整理し、問題の背景、対応策、結果等をまとめたレポートを作成、社内に広く認識させ活用していきます。
⑤知見のアップデート
 外部有識者に助言を仰ぎ、社外での研修や学習の機会を増やし、情報や意識のアップデートを継続的に行います。

 文芸出版社である新潮社は、文学作品を通じて差別ともしっかり向き合ってきたはずでした。島崎藤村『破戒』、住井すゑ『橋のない川』をはじめ、差別と人間をテーマにした数多の作品を世に送り出し、多くの読者に届けてまいりました。
 いま一度、そうした原点に立ち返り、今後も取り組みを続けていく所存です。

*人権デューデリジェンス(Human Rights Due Diligence):企業が自社における人権リスクを調査・特定し、これを防止・軽減するための一連の取り組み。

週刊新潮コラム問題の経緯

7月24日 週刊新潮7/31号発売。高山正之氏連載コラム「変見自在」第1144回が掲載される
8月4日 深沢潮氏が記者会見を行う。同日夜、新潮社コーポレートサイトにおいて〈「週刊新潮」コラムに関するお詫びと今後について〉とする文書を掲載
8月5日 深沢氏代理人弁護士から弊社への要望についての文書を受け取る。以後やり取りを続ける
8月6日 新潮社コーポレートサイトにおいて〈今後の取り組みについて〉とする声明を掲載。〈人権デューデリジェンスの強化方針〉を示す
8月20日 週刊新潮8/28号に「変見自在」最終回が掲載される
8月27日 深沢氏が契約解消を表明
9月3日 深沢氏代理人弁護士より「出版契約解除」の申し出を書面で受け取る 
9月30日 同日付で弊社と深沢氏の出版契約が終了となる
10月1日 社内に人権デューデリジェンス推進室を設置

編集長より

週刊新潮編集長
塩見 洋

 週刊新潮に掲載されていた高山正之氏の連載コラム「変見自在」は本年8月28日号の回をもちまして、終了となりました。理由も充分に明示しないまま、突然、連載終了となったことにつきまして、読者の皆様にお詫び申し上げますとともに、経緯をご説明させていただきます。
「変見自在」における、高山氏の独特の歴史観や知見は多くの読者から支持されてきました。しかしながら、7月31日号に掲載されたコラムをめぐり、作家の深沢潮氏をはじめ、多くの方から記述が「差別的である」「人権侵害にあたる」と厳しいご指摘、ご批判を受けました。それらを真摯に受け止め、お心を傷つけてしまった深沢氏をはじめとする皆様に深くお詫び申し上げます。
 こうした事態を招いたのは、1000回を超える長期連載の著者に対し、その意向を過度に尊重するあまり、人権への配慮やチェック意識を充分に働かせることができなかったことが原因であると、反省しております。その点を踏まえ、高山氏と今後の編集方針やチェック体制について協議した結果、連載終了の判断に至りました。
 今後は再発を防ぐため、これまで以上に校閲の指摘を重視し、事実関係の確認だけにとどまらず、表現が適切であるか否かも含め、執筆者と率直に話し合い、必要に応じて修正を求めるよう意識を高めてまいります。また校了作業を著者や担当編集者任せにせず、担当編集者や校閲担当者において表現への疑問や懸念を払拭できない場合は、さらに担当役員などに相談し、複数の目で注意深く確認を行えるシステムの整備に取り組んでいます。このようにチェック機能のレベルを上げ、再発防止に努めてまいります。

2025年12月25日

12月25日発売の「週刊新潮」1月1・8日新年特大号にも同内容を掲載しています。