新潮 くらげバンチ @バンチ
対談 vol.9-3 古代ローマの幽霊が......

マリ 先ほどのネロじゃないけど、エジプトのことも調べ始めるとキリがなくて......。これ以上エジプトに深入りすると、ローマを描くどころじゃなくなってしまう。

とり ローマはローマでセネカだって重要人物ですからね。

マリ 本当は、もっと彼の葛藤やその周辺についても描きたいんですよ。でも、話の展開を考えると割愛せざるを得ない。そんなことやっていたら、この漫画の主人公は3人にも4人に増えてしまいますからね。でも、それが悔しくもあって。

とり 『セネカ 哲学する政治家 ネロ帝宮廷の日々』(ジェイムズ・ロム著、白水社)という本を訳した、古代ローマ史研究の志内一興さんからも「セネカが人間くさくて驚いた」というメールをいただきました。

マリ 私のイメージするセネカは、狡猾だし、相当卑しくて利己的だったけど、世間で起きていることに対して諦観していて、自分の死というのも常に念頭にあったんじゃないかと思います。だから高利貸しみたいな好き勝手なこともできた。ゴージャスな暮らしをしつつも、同時に人間社会を侮蔑していた。それであんな虚無的な目をしている。

 ネロが主人公であるマンガを描くのであれば、本当なら今回描いた陰謀の場面でもまだまだたくさん描くことがあるんです。例えば、7巻の後半で、拷問の果てに殺された女性が2コマだけ出てきますが、この人は実はセネカの関係者なんです。確かセネカの弟の愛人だったかと。彼女はネロを暗殺しようと企む別の一派に唆されて、バイアエでネロを待ち構えて刺客の役割を与えられた。それが発覚し、拷問の果てに殺されるという。そこまで描く余裕はなかったから何の説明もありませんが、その背景にはそのような史実があるんです。

とり その暗殺計画は、この7巻で描いた「ピソの陰謀」とはまた別なんですよね?

マリ 別です。つまり、この頃はもう並行して複数のネロ暗殺計画が進んでいた。ネームの段階でそのことも描こうとして、「ダメだ、これはネロのマンガじゃない。プリニウスのマンガなんだ」と必死で軌道修正しました。

 本当にこのマンガを描いていると、ネロやセネカをはじめとした古代ローマの幽霊たちが「もっと俺のことを描いてくれ! 俺よろしく!」と、私にのしかかってくる。それを必死で振り払いながら、「ごめんなさい、主人公はプリニウスなんで」と、なぜか謝りながら描いている状態(笑)

とり 古代ローマの亡霊に取り憑かれたマンガ(笑)

マリ みなさんなかなかしつこくて......。

とり 読者の感想を読んでいると、史実に即したローマパートこそを読みたいというファンもいれば、ファンタジー色が強いプリニウス一行のパートのファンもいて半々くらい。でもその両輪あってこその『プリニウス』だと我々は思っています。プリニウス一行の次の目的地であるアレクサンドリアもまた見どころがいっぱいです。さらに8巻では、「世界七不思議」のいくつかが登場する予定。ご期待ください。(了)

 

PAGE TOP