大噴火から2000年後の「炎上」
ナポリ取材旅行は、ちょうど日経ビジネスオンラインで「とりマリの『当事者対談』」という業界を震撼させた対談が連載されている最中だった。作家と編集者と出版社の関係について、作家の側から真摯な問題提起を試みた対話であるが、古代ローマ文明に思いを馳せると同時に、現代のWEBメディアについて考えざるを得ない状況である。
T「やっぱり、今回のネット上の騒動は『炎上』と呼ぶんでしょうかね」
Y「大騒ぎになっている中、当事者は生歌でサンタルチアやイパネマならぬナポリの娘を聞きながら食事をしているというのも、なんだか妙な感じです」
T「2000年を超える取材や観光をしていると、そんなのどうでもよくなるよね」
古代ローマには電気関係物件以外すべての生活文化が出揃っていた。人類は2000年前からどこまで進歩したか。プリニウスの好奇心の素晴らしさは永遠である。
われわれの取材行はこれでおしまいである。やや感傷的になり、サンタルチアの絶景を見たいとホテルに帰り、心細くなった現金を引き出そうとすると、担当記者のクレジットカードがCDに吸い込まれた。
T「連続して何度もクレジットカードでお金を下ろすと、事故カード扱いになる場合があるそうですよ」
早く教えて下さい。この夜は、チャンピオンズリーグのボルシア・ドルトムント対ナポリの試合がナポリで行われ、サンタルチア辺りでは通行人は1人もいない。レストランの料理人やウェイターもTVに熱中していて、ナポリがピンチになったり、点を取ったりするたび、歓声と悲鳴が窓から無人の街に響き渡る。みんな部屋の中で熱く応援しているのだ。
サンタルチアの満月(とり・みき氏撮影)
T「これが南イタリアの試合の日の夜ですか」
Y「はい」
翌朝も、屋上のテラスで食べていた私の朝食用のベーコンがカモメに喰われるという一幕があり、帰国後、ヤマザキさんから「朝飯を盗み喰ったカモメは今ごろナポリ湾を悠々と飛んでいるのでしょうか」というメッセージが届く。たぶん、今も飛んでいるはずだ。
新連載、いかがでしたか? 読者のみなさん、ご愛読のほどよろしくお願いします。
プリニウスを探して
January 2014