女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第18回 受賞作品

王冠ロゴ 大賞受賞

月吹友香

「赤い星々は沈まない」

月吹友香

――大賞受賞、おめでとうございます。受賞の報はどこで聞かれましたか。

 いつも執筆をしている、寝室兼、パソコンが置いてある部屋で電話を取りました。最終候補に残れただけで嬉しかったですし、この作品のテーマや設定は万人に受け容れられるものではないかもしれないと思っていたので、電話を待っている間は、妙に落ち着いた心境でしたね。まあないだろう、という。
 電話を取ったときも、編集者さんの「もしもし、月吹さんですか」という第一声がわりと落ち着いたトーンだったので、心の中で、「あ、次がんばりまーす」と返していました(笑)。
 なので、「大賞です」と言われたときは信じられなかったです。「えっ……」とまず絶句、そのあとに喜びの波が来て、思わず叫び出しそうなのを必死で抑えていました。電話を切ってから叫んだんですが、すぐに、次の作品どうしよう、という心配が頭に浮かびました。

――勘違いさせてしまってすみません! 小説を書かれる前は、シナリオを書いていらしたんですよね。

 はい。小さい頃から妄想好きだったので、そういう妄想やモヤモヤした気持ちを形にできないかな、とは常々思っていて。あるとき、友人が東京でシナリオ教室に通い始めたと聞いて、面白そうだから自分も通ってみようと思い大阪で探して行き始めたのがきっかけです。
 ただ、シナリオでは書けないことも多くあります。たとえば、「赤い服を着ている」とかは衣装さんが決めることなので、シナリオには書きません。人物の心情も、セリフだけで表現し、地の文で書き加えることはできない。そういう規制みたいなものをとっぱらって、もっと自由に書きたいと思い、小説に挑戦するようになりました。
 まずはパソコンに向かって書いてみたんですが、最後まで書ききれなかった。どうにかしなければと思い、今度は小説教室に通ってみることにしました。できた作品を多数の人に読んでもらうという合評形式の教室で、いろいろな感想を聞けるのは勉強になりましたね。一年通ったのちは、一人でもくもくと書く日々を続けていました。
 そうやってはじめて書き上げた小説を群像新人賞に応募したら、一次選考を通ることができて、それが、もうちょっと書いてみよう、というモチベーションにもなりました。

――この賞に応募されたのはなぜですか?

 宮木あや子さん等好きな出身作家さんも多いですし、最近の受賞作家さん――朝香式さんや町田そのこさん、一木けいさんなどの作品もすごく好きだったので、自分も応募してみたいという気持ちが強かったんです。ちなみに、R-18文学賞以外のところでは、島本理生さん、村山由佳さん、吉田修一さんなどの作品も愛読してきました。
 実際に応募した今作は、最初に言ったとおり、ちょっとえぐみもある小説だと思うのですが、こういう作品もこの賞なら受け止めてくださるだろうと思って送りました。

――介護施設を舞台とした受賞作の着想はどこから?

「男性よりも女性のほうが、高齢になっても性欲が残っている気がする」と言っている友人がいて、へえ、と思ったのがきっかけですね。それまで私は、老年になれば性欲は段々と減っていくものだ、とぼんやり思っていたので。その話を聞いて、書いてみたい、と思いました。それで、まずは知り合いの伝手を頼って介護施設や病院にお話を伺いにいったりしてから、執筆に入りました。

――介護される側で、性欲を隠さないキヌ子さんがいる一方、介護をする側で、夫婦間のセックスレスに悩んでいるミサの話も出てきます。

 そういう老女がいるという話だけだと、人物紹介小説みたいになってしまって、伝えたいことも伝わらないし、面白みもないと思ったんです。それで、セックスレスの30代の女性を主人公にすることで、対比というわけではないですが、物語に深みも出るのかなと思いました。テーマ自体がシリアスなので、なるべく読後感が重くなり過ぎないように、明るく書きたいなというのがあって、そこは関西弁に助けられたかなと思います。

――タイトルもとても素敵です。「赤い星」というのはどこから?

 ありがとうございます。去年、家族でペルセウス座流星群を見に出かけたんですが、流星群が来る前に、地球に接近しているという火星の光が見えました。それを見たときに、「大接近」と言われているわりには目立たないけれど、一生懸命赤く輝いているなあ、と思って。青く光る星は、温度も高くて、輝きも強いけれど、赤い星はそれほど温度が高くなく、でも燻るように、じんわりと熱さを保っているとも知り、そのイメージが、女性の性欲につながりそう、と思って組み入れました。

――今後、書きたい小説のイメージはありますか。

 漠然とした言い方になってしまいますが、三浦しをんさんの選評を拝読して、人の心に疼きを残せるような作品を書きたいと強く思いました。頭の中にある構想をうまく形にできるようにがんばります。