Poet 伊藤聚を知っていますか
支払った
曇り空よりはいくらか小さい
草色の馬市の大天幕が呼気で膨らんでいる。
死骸を戸棚につっこんできたものたちと
おれたち朝の挨拶をする。
1970年に刊行した第一詩集「世界の終りのまえに」に収録された詩「馬の購入」の一節である。
詩人・伊藤聚は、小学5年の時、大陸から引き揚げてきた三木卓氏と知り合い、その後、詩誌「氾」「壱拾壱」「飾粽」などに参加。1999年1月に63歳で亡くなるまで6冊の詩集を出している。早大独文科を卒業後、松竹に入社。1989年には大船撮影所シナリオ研究所の所長に就任している。
彼は、独自のイメージに富んだ詩の他に絵やスケッチ、コラージュなどにも才能を発揮、100冊にも及ぶノートを残している。
先月、初めての「伊藤聚展」が銀座で開かれ、葉書判の紙に描かれた作品150枚近くが展示された。偏愛していた猫のイラスト、写真のコラージュ、極細ペンで描かれたドローイング、釣り針を碇に見立てたオブジェなど繊細で多彩な、「言葉によらない」作品を見ると、このマイナー・ポエットの詩をもう一度読み直したくなる。こんな人が多いのか、先月、書肆山田から「伊藤聚詩集成」(7500円)が刊行された。詩人のささやかな復権である。
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