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友人である
ということ
「新潮」9月号
定価900円
8月7日発売


 中上健次が逝ってから、早くも九年目の夏を迎えます。今号の巻頭一挙掲載は辻章氏の「時の肖像ー小説・中上健次」四百枚。作者は「群像」編集者時代に「熊野集」を担当、故人との親密な付き合いは夙に知られていましたが、今回の作品では、氏が知的障害の息子を連れて離婚、作家生活に入ってからの交友をも描いて、両者にとってかけがえの無かった時間が、こまやかで静謐な筆に刻みつけられます。世に喧伝されたポスト・モダンの闘将というのは、実は虚像で、こちらにこそ真実があると、胸を打たれました。小説は、ほかに小誌出身の新芥川賞作家玄侑宗久氏の意欲作「アブラクサスの祭」一八〇枚など。
 シリーズ「明治の文学」を始め、昨今明治文学の復権には目覚ましいものがありますが、「明治百三十四年の座談会」は、この若く、混沌とし含羞に満ちた文学世界の魅力を、高橋源一郎、関川夏央、加藤典洋の三氏が今日的視点から縦横に語ります。
(編集長・前田速夫)
■年間講読料一〇八〇〇円(12冊 税・発送費込)