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書かない作家
書けない作家
「新潮」10月号
定価900円
9月7日発売


 天の神(カンナ・カムイ)が住むとアイヌが伝える幌尻岳で、男女六名の大学山岳部パーティが遭難した。死の直前までリーダーが綴った手記を元に、愛と死をめぐる崇高なまでのドラマに仕上げたのが、立松和平氏久々の長編「日高」三百枚。対して、岡崎祥久氏「甘くて暗愚で不誠実」百枚は、今どきの若者の冴えない日常・心境を力まずに描いて、微苦笑を誘います。
 書かない作家、書けない作家というのは、私小説でおなじみのテーマですが、スペイン現代文学の旗手エンリーケ・ビラ=マタスの「バートルビーとその仲間たち」(木村榮一訳)は、ソクラテス、ランボー、ヘルダーリンからボルヘス、サリンジャーまで、古今の例を世界的な規模で取り上げて、書くことの可能性・不可能性を追求した注目作。
 ソクーロフ監督の映画「ドルチェー優しく」に主演した島尾ミホ氏と、小川国夫氏との初対談は「死を生きる」。ほかに山口昌男氏「二十世紀における『政治と文学』の神話学」など。
(編集長・前田速夫)
■年間講読料一〇八〇〇円(12冊 税・発送費込)