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水上勉氏「勘六山房」での近況
水上氏がくらす「勘六山房」は、長野県北御牧村にある。今年は雪こそ少ないが、吹きつける風は相当に冷たい。門扉には、「猛犬注意」「噛み癖悪し」などと書かれた木札。それを横目にこわごわ敷地に入ると、なかには竹紙を漉く工房や焼き窯、“電脳教室”なる看板のかかった別棟がたちならぶ。吠える「猛犬」を背に玄関に上がると、流れてくるのは、神秘的な尺八の音……最近、氏がもっぱらお気に入りのBGMである。
そして、原稿を執筆する書斎には、WindowsのバイオノートとMacのパワーブック。かたわらには手書き用の原稿用紙も積んである。「その時の気分によって、いろいろと使い分ける」のだという。低下した視力を補うために購入した、外科手術用の拡大レンズ越しにモニターをのぞくような格好だけれど、パソコンの扱いは手馴れたもの。編集者や友人知人、メル友からの電子メールをこまめにチェックし、返信を出す。ひらがなだけで書かれたメールは不思議にやさしく感じられ、特に女性に好評らしい。居間には、どうやら育てていない「AIBO」も置いてあったが、軒先に吊るし柿がならぶ信州の山荘で、淡々と先端機器を使いこなしていることに感心してしまう。
2月21日からは東京・紀伊國屋サザンシアターで、地人会(出演は高橋惠子・金内喜久夫ら)による「雁の寺」の公演が予定されており、自身の「代表作」を観劇するのを楽しみにしている。また、つい先日、故郷の福井県大飯町にある“私立図書館”若洲一滴文庫が、地元NPOの手で再開されるという朗報も届いた。この3月には83歳になる水上氏。もちろん、次作にも取り組んでいて、遠からず小誌で発表の予定である。
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